これが旨かった。いかにも広東料理という趣きです。
広東料理ならではの味、風味を堪能しました。 素材は茄子。しょうがの千切りとともに蒸した料理ですが、その味付け、「焼鴨」の焼き汁を使ったもの。「焼鴨」は窯の中に下拵えした家鴨をぶら下げて焼きます。そして、焼きあがった「家鴨」、ぶら下げて、あるいは、まな板の上でさばきます。
ぶら下げて身をさばけば、腹と股の間あたり、皮の内側、身からしたたり落ちた家鴨の脂がたっぷりたまってます。腹と股の間をさばけばそんな脂分をふくんだ肉汁がほとばしる。それだけを皿に受け取って、面にまぶして食べる、なんてのも実に乙なもの。
そんな脂分たっぷりな肉汁だけじゃなく、袁さん窯で焼いた「家鴨」の「焼鴨」の胸肉をこそげとり、ミンチ状にしてから、脂分たっぷりな肉汁に混ぜあわせ、皿に並べた茄子の上に注ぎかけ、蒸したのがこの料理。
茄子にしみこんだたれの味は、「焼鴨」の脂分をふくんだ肉汁の旨さだけでなく、濃厚な旨味、コクがあります。「乳鴿」ほどではないにしても、血の味、鉄分を含んだくせとコクのある独特の「家鴨」の肉の味、旨味、風味のエッセンスを凝縮した濃い味。 それに、何か調味料をプラスアルファ。蠔油の味を感じました。
ともあれ、「焼鴨」の脂分を肉汁と、「家鴨」の胸肉が醸し出す味、風味。 甘味があります。こくのある濃厚な甘味。砂糖とかを加えない素材そのものが生み出すコクのある甘味。「焼鴨」の脂分、肉汁が入り混じったコクのある甘味は、伝統的な広東料理に特徴的なものです。
初めて食べた料理。なのに、すごく懐かしい味がします。昔ながらの広東料理特有の味、風味があるからです。その最良のエッセンスを生かした見事な一品!
「この料理、食べたことある?」と袁さん。「いや、初めて!窯で焼いた家鴨や鵞鳥の股を切り裂いてほとばしる肉汁を使った料理は食べたことがあるけど、それよりも旨味、風味がある!」
「そうでしょ?「焼鴨」の股のところを裂いた時の肉汁、旨いけど、それだけじゃなくて、胸肉を擂り潰して、加えたから。私が考えて工夫したオリジナルの料理!」と袁さん。
なるほど。初めて出会った料理なのは当然な話。
家鴨や鵞鳥の股を裂いてほとばしる肉汁を使った料理よりも、さらなる旨味、風味があります。なんてところは袁さんの工夫によるものだったのですね。
初めて食べた料理なのに、懐かしい味なんて思ったのは、こくのある甘味を特徴とする味が、伝統的な広東料理のそれ、だったからですけど、そんな味をベースに、袁さんが創意工夫を凝らした料理でした。
東京で、日本で、こんな味、風味の料理に出会えることなんて滅多にない。いや、絶対にないかも。