2010/03/29

南部詩情と男と女~東京のボブ・ディランの3

 25日、26日の公演は沖縄国際アジア音楽祭でのコンファレンス参加の為に見られずじまい。
 ネットで検索したら25日には「シングス・ハヴ・チェンジズ」に「激しい雨が降る」、それに「ホエン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン」が日本初演。
 26日には「ジャスト・ライク・トム・サムズ・ブルース」が日本初演。「エヴリー・グレイン・オブ・サンド」もやった。さらに「風に吹かれて」がアンコールの締めくくり、というからには見たかった。

 1日オフをおいて東京公演6日目の本日、幕開けは「ゴナ・チェンジ・マイ・ウェイ・オブ・シンキング」。驚きました。 70年代末、ディランがボーン・アゲイン・クリチャンに改宗し、マスル・ショールズで制作した『スロー・トレイン・カミング』に収録されていた作品。パワフルでダイレクト。パンチの利いたバンドの演奏展開。リズム、グルーヴがうねる。

 この曲、ロバート・ジョンソンが悪魔と取引したというあの「クロスロード」が下敷きなのは明らか。これまでのやり方を変える!と宣言しながら、所在を確かめられずにいる迷える仔羊さながらの男の話。イエスの言葉が語られ、神が創ったこの地に天国があると歌われる。そんなディランの明快な歌いっぷりが圧倒的。

 続いて「ラヴ・マイナス・ゼロ」で男と女の隔たりを歌ったあとで「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」が実に生々しい。
 そしてイントロのリフで、まさか!と思ったら、やっぱり「運命のひとひねり」。今夜のハイライトの1曲。 
 それを聞いて「シェルター・フロム・ザ・ストーム」がまたまた登場。なんてことからすると「タングル・アップ・イン・ブルー」やら「イディオット・ウィンド」への期待も高まりますが、さすがにそれはなし。

 そしてドニー・ヘロンがバンジョーを持ち出したんで「お、また聞けるの?あの「ブラインド・ウィリー・マクテル」。と思いきや「ハイ・ウォター」。
 ですが、その曲、アメリカ南部のイメージが大きく広がる。そればかりか「トライ・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」に続いて、なんと「ネティ・ムーア」!これがなんとも味わい深い。
 そんなことでますます南部的詩情がそこかしこ。同時に、男と女の人間模様が様々に浮かび上がる。
 ポエティックでしみじみとした展開、なんてのが本日のボブ・ディラン。
 マニアックなディラン・ファン好みの渋い曲揃いだったね、とは菅野ヘッケルの弁。
 毎夜、ディランのコンサートの表情、演奏、雰囲気は変わります。

 アンコールの「ライク・ア・ローリング・ストーン」。
 ドシラソの下降、上昇音階のリフに取って代わって、新リフへと変化。
 それに気をとられてか、歌詞、入り乱れ、なんてことも。
 締めくくりは「風に吹かれて」。
 明日は東京最後の日。
 「ブラインド・ウィリー・マクテル」をもっぺん聞きたい。
 けど……なディランですから。