東京のボブ・ディラン、毎夜、雰囲気が異なります。
東京の初日の21日。前項の通りカントリー、それもウェスタン・スイング風、ナッシュヴィル風にロカビリー。アーバンやサザーンのディープなブルースに、テックス・メックス風。そうそう、エキゾティックなスパニッシュ風の趣きも。
アメリカの伝統的な音楽の系譜、しかも、フィフティーズのポピュラー・ソングの系譜を見せてくれるようでした。
そして2日目の23日。「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー」や「アイ・ドン・ビリーヴ・ユー」、「メンフィス・ブルース・アゲイン」が、60年代半ば、フォーク・ロック全盛期の頃をほうふつさせる。
「フォーゲットフル・ハート」のしみじみとした味わい、「アンダー・ザ・レッド・スカイ」の叙事詩的世界もさることながら、ビッグ・サプライズは「ジョン・ブラウン」と「戦争の親玉」。 前者は家族、故郷の誉として戦場に送り込まれた若者の悲劇、後者は戦争の仕掛け人を批判。
先のフォーク・ロック時代の作品などとともにプロテスト・ソングを生んだ60年代という時代が甦り、今の時代への警鐘にも思えるあたりが胸に鋭く突き刺さりました。
おまけに「シェルター・フロム・ザ・ストーム」と「ライク・ア・ローリング・ストーン」のアレンジが初日とはがらり趣きを変えていたのもびっくり。その2曲を含め、2日目はさしずめ「フォーク・ロック・ナイト」、あるいは「シクスティーズ・ナイト」でありました。
さらに3日目。「悲しきベイブ」が登場。かと思えばディープなブルースの「ローリン・アンド・タンブリン」。初日のハイライトだった「コールド・アイアン・バウンド」で再び盛り上がり、「廃墟の街」で陰影の表情を見せた後、なんとあの曲が!
え?! うそ?! ほんと?! やるの?! まじ!? まじだまじ、これは!
思わず鳥肌が立ちました。そうです、あの「ブラインド・ウィリー・マクテル」!
まさか聞けるとは思わなかった。アメリカの歴史をふりかえり、現代社会を俯瞰したあの歌。ディランが生んだ傑作です。めったにライヴじゃやらない作品。それが聞けました。
そればかりかバンド・サウンドは曲ごとにパワーをあげて、やがてはエンジン全開。
まさしく「パワフル・ナイト」。
今夜は「ディランが69」の日でしたね、とはソニーの栗原氏。
選曲も演奏も最高でした。