そして「陳皮蒸扇貝/ホタテ貝の陳皮蒸し」。 帆立貝を丸ごと一個、殻をかぱっと開いて蒸した料理はこれまで何度か登場。
ですが今回はメニューにもある通り陳皮の細切りで蒸したもの。その下には生姜の千切りも。さらに帆立の下には春雨。
香港の海鮮料理の店で貝柱といえばほとんどがタイラギ。料理名が「蒸帶子」じゃなくって「扇貝」とあるのは、そんなことに関係あるかも。香港で帆立貝を見かけるのは日本料理店でのこと。ですが、乾燥した貝柱の「瑶柱」は日本産の帆立貝のそれがほとんど、というのが面白いところです。
陳皮はみかんの皮を干したもの。その陳皮で蒸したホタテ貝。陳皮特有の苦味と同時に、火を通せばくっきり浮かび上がるフルーティーな風味が印象的。そこに生姜のヒリ味が相まって、帆立の甘味、旨味を引き立てる。その帆立の火の通し方、蒸し加減が絶妙です。
生の帆立の貝柱のねっとり感、純な磯の香、海味もいいですが、やっぱり火が入ってないと貝柱の甘味、旨味が浮き立たない。とはいえ、火が通り過ぎると身が固くなる。繊維をかみほぐすような感じになるのは勘弁。というあたりの火入れ、火の通し加減が難しい。
火が通っていながら、ねっとりの触感、滑らかな舌ざわり、歯触り、噛み応えを残しつつ、繊維が立つか立たないぐらいの按配でほぐれていくのが私の好み。そんな感じの蒸し具合でした。貝柱そのもの海味はちょっと薄めな感じですが、陳皮、生姜の味、風味が貝柱の甘味、旨味を引き出すだけでなく、プラス・アルファの効果もあり。その相性は抜群です。
おまけに、貝柱のひもが旨い。ことに肝、包丁が入って身をそらしながら、ぱっくりと開いてます。皮膜の張った表皮のあたりはぷるんとした歯触り、噛み応え。ですが、中の部分はねっとり、舌の上に旨味がのしかかる。なんてのか堪らない。
蒸された貝柱のエキス、それに「塩梅」の良くって押し付けがましさのない醤油仕立てのたれ(もしかしてナンプラー入りの海鮮だれ?)のやわらかい塩味、切れのいい旨味を吸い込んだ春雨も旨い。
日頃、殻つきの帆立をゲットすれば、開いて、バターを載っけ、シャンパンか白ワイン、日本酒などで風味付け。そういえば、貝柱の上に「ばふんうに」というのも絶妙でリッチな組み合わせ。仕上げにフレッシュな柑橘を絞ります。
火を通せば干したひね味、ほろ苦さ、なおかつフルーティーな風味をもたらす「陳皮」は、フレッシュの柑橘、そのジュースの純で清廉な味、風味とは対照的により複雑で重層的になるってことを発見。
「陳皮を使う手があったんだ!」と、開眼しました。