2007/07/21

dancyuの8月号~その後の①

「読みました、7センチ!」という電話、メールをいろんな方から貰いました。

 それにしても「テーブル高7センチ差の気配り」というタイトルのインパクトは恐るべし。みなさん「7センチ」話で盛り上がり、驚きを隠せない様子でした。

 実際、福臨門だけに限らず香港や中国本土の高級料理店のテーブルは日本よりも高い。日本でも老舗の中国料理店などは、香港や中国本土ほどではないにしても高い。ところが一般の中国料理店になると、テーブルの高さは低くなる。

 さらに、80年代以後、オーナー・シェフによる新しい店が相次いで登場した際、内装に工夫を凝らすようになり、西洋的な要素も取り入れ、テーブル、椅子がよりモダン化し、以来、テーブルの高さが低くなっていった、といったこともあります。

 私はたまたま香港、台湾、中国本土で食事をする機会が多く、高いテーブルに慣れ、体に馴染んできました。高いテーブルの方が食事しやすく、ゆったり食事が楽しめるという利点もあるし、前述の通り、現地の人の食べ方に倣い、失礼のないようにするには格好な高さであることも理解していました。
 ですから、日本の中国料理店、ことにモダンな内装による店はテーブルが低く、なんだかしっくりこないし、落ち着かない。食事に夢中になれない、ということもある。 フレンチやイタリアン、それも、グラン・メゾンや高級店では、それなりの配慮がされています。とはいっても、一般に日本の料理店のテーブルは低いように思えます。
 
 それより、居心地の良さということでは、テーブルの高さよりも、むしろ座る椅子についてより関心が高く、話題になることが多いようです。居心地の良さと座り心地の良さが、同義にみなされているからでしょう。

 が、椅子とテーブルの高さには密接な関係があって、座り心地が良くても、テーブルが低ければ、やはり食事はしづらい。料理が良い、旨いと評判でも、街中の喫茶店とほぼ変わりない内装で、テーブルが低く、椅子も座り心地が悪い、といった店があります。私はどうも落ち着かなくって、料理の魅力、旨さ、半減させてるようにしか思えません。

 香港や中国のテーブルが高いのは、長年、テーブルと椅子で食事をしてきた生活慣習に関係してのことでしょう。

 もともとは方形のテーブルが中心で、正式な宴席は八仙卓子、つまり8人掛けの正方形のテーブルが使われ、その席次も決まっていた。円形のテーブルになったのは清代末期になってから、のことだったはず。さらに、中国料理店でおなじみの回転卓は日本独自の発明であり、本土、香港などがそれを取り入れるようになったものだ、そうです。
 
 方形にしろ円卓にしろ、中央に料理が置かれる。それを取り分けるのはホストですが、サービスにあたる人間を置いて、その役目を任せることもある。

 食事のために用意される食器、テーブル・セッテイングは、右に縦置きで箸、その左横にれんげ、中央に平皿、脇に調味料を入れる小皿。さらに小碗というのが基本で、酒盃も用意される。長年の歴史を経て定着したものです。

 それが、香港の宴席など少しばかり異なる。
 右に箸を縦に置くのは同じ。が、その左横にはれんげではなく「分羹」とよばれる料理を取り分けるための匙が用意される。また、SARS以後、取り分けるための箸も用意されるようになりました。さらに、小碗(香港では「碗仔」、「翅仔」と呼ばれる)の下には「骨碟」と呼ばれる小皿が下に置かれている。さらに、調味料を入れるための小皿ではなく、そのための専用の円形、もしくは中が二分された方形の小皿が用意されている。

 そして、小碗。スープ、羹を入れるためのものですが、汁気の多い料理にも使われる。その点が、日本とは異なる。つまり、日本の一般的な中国料理店では、小碗はスープ、羹を取り分ける時に使われるだけで、それが終われば後は卓上から消える。

 それに、香港では飲茶の点心なども含め、多くの料理は小碗に取り分けることが多い。れんげも頻繁に使う。料理内容に応じ、小碗で取り分けづらいものは、平皿を使う、というのが一般的、です。

 もっとも、本土ではいささか事情が違ってくる。

 80年代半ば、荻昌弘さんに誘われ知味の会の揚州、南京、上海の旅に同行し、著名な料理店に出向いた際、基本的なテーブル・セッティングは同じでしたが、平皿は2枚用意され、調味料を入れる小皿がなかった。また、箸の左横に置かれていたのは、れんげでも「分羹」でもなく、西洋料理で使われる大きなスプーンでした。
 
 そして、揚州飯店でおこげ料理が出ました。多少、汁気もありで、香港あたりなら小碗に取り分けられる。日本でも汁気が多いと小碗が用意されることがある。 その時、おこげ料理は、平皿に取り分けられた。ですが、汁気はおこげに絡まる程度のほどほどのもの。むしろ、平皿に取り分けて箸で食べるのがふさわしく、また、美味しさを感じました。

 「分羹」代わりのスプーンはあまり上質なものではなく、なんとなく付け焼き刃?と言う印象でしたが、おこげ料理の取り分けのサービス、なおかつ旨かったことに感心し、そんな印象も帳消しに。

 同席していた地元のおえらいさん方、全員、平皿を持ち上げることなく、テーブルに皿を置き、お箸でおこげ料理を食べてました。で、わが日本側一行のほとんど方といえば、しっかりお皿を手におこげ料理を食べていたものです。

 その後、中国の上海、北京の高級料理店を訪れた際のテーブル・セティングは、先に揚州や南京でのものとは異なり、伝統的な様式に習いながら、器などはより洗練されていました。しかも、香港のそれとは異なるものでした。