2007/07/16

夏の広東地方の郷土料理の①


 三社祭でいつもお世話になっているのが斎木隆さん。元ワールドカップのダウンヒラー、つまりは滑降の選手で、ひょんなことから知り合いになり、雷門中部の青年部の一員だったことから、雷門中部の御輿担ぎの仲間に加えてもらうようになりました。
 松任谷由実のバックバンドのメンバーの市川くん、いつのまにか浅草の住人になってしまったダノイの小野さんも、同じ雷門中部で御輿を担いでます。
 今年の三社祭には香港出身で、イギリスへの留学を経て、今は東京でマネージング・ディレクターの職についているミッシェルを招待し、斎木さんに紹介。
 
 日本の伝統的な文化に関心のあるミッシェルは、祭りや御輿を見るだけでなく、祭り、御輿に参加できたことを大いに喜んでくれました。
 中でも感激したのは、時代を飛び越え、江戸の昔に紛れ込んでしまったような思いにかられる宮入りの儀式。鳶が御輿に乗ってリードし、見事に統制の取れた御輿担ぎの様を目の当たりにし、感銘を受けたそうです。
 そんな三社祭の時のお礼を斎木さんに、とミッシェルが計画したのが、広東料理のディナー。
 香港人らしく「不時不食」、つまり、季節にあらずは食さずという中国人の食の信条に倣い、この時期ならではの季節の素材、それに、広東地方ならではの「家郷菜」を中心に、ということでメニューを思案。
 「小倉さんも、なんかいいアイデアがない?」ってことで、メールをやり取りし、コース作りを手伝いました。場所は銀座の福臨門。
 ということで、決定し、食べたのは以下のメニュー。

①雲腿金銭鶏肝、中国ハムと鶏の肝、豚肉、豚背脂の重ね焼き
②焼鱔魚、ウナギの焼き物
③八寶冬瓜盅、八種の具材入り、冬瓜の蒸し物
④脆皮焼乳鴿 鳩の丸揚げ
⑤豉汁涼瓜炆紅斑 苦瓜と紅はたの煮込み
⑥百花蒸醸豆腐 蝦のすりみ載せ豆腐の蒸し物
⑦焼雲腿鴿蛋露筝 アスパラガス、中国ハムの揚げ物、ゆで鳩卵添え
⑧葱花皮蛋炒滑蛋蝦 ピータンと卵とエビの炒め物
⑨咸魚雞粒炒飯 塩漬け魚と鶏肉の炒飯
⑩官燕西瓜盅 燕の巣入り、スイカのデザート
 ①は、下に紹介したdancyuの8月号でも紹介した料理。
 広東地方の伝統的な郷土料理、焼き物のひとつで、かつて香港では宴会料理の前菜として登場。街中で豚、家鴨、鶏肉などの焼き物、たれ仕込みのものを専門に売る「焼蝋店」で見かけることがあります。
 現在では一般の料理店では扱われなくなったことから、「懷舊菜」、懐かしい、昔の味として、それを用意し、客集めの一品にしている店もあります。
 もっとも①。もともとは鶏の肝、豚肉、背油を甘い特製のタレにつけこみ、窯で焼くだけのもの。甘味のあるタレ、コクのある味こそがその特徴。そこに高価な中国ハムを追加、というところに福臨門ならでは工夫と技がある。
 「雲腿」とあるように、中国ハムのなかでも最良の部位を使い、しかも、中国ハムが持つ塩味、醗酵味、旨味を効果的に使う。結果、味、風味がより複雑に、重層的になる。さらには、洗練の味、風味を醸しだす、というのが実に見事です。
 そして②。ウナギは日本製。甘辛のタレをたっぷりつけた焼いた蒲焼とは趣が異なる。いわばうなぎの白焼きの広東風の趣。タレをさっと塗って、焼き付けたもので、皮はパリパリ、さくさく。身はしっとりのやわらかさを残しながら、素材そのもの持ち味、風味を生かしてある。
 実は、私、蒲焼が大の苦手。蒲焼を焼いてる匂いをかいだだけで、卒倒してしまうぐらいでなんですが、ようやく最近になって、白焼きだけはOKに。その広東風です。蒲焼はだめですけど、香港、中国式、それに、ヨーロッパ式のウナギ料理は、私は大丈夫。
 ③はミッシェルが絶対に、というお勧めの料理。夏場、冷の性質があって、体温を下げる効果のある冬瓜は、欠かせない。中でも、冬瓜の種など中心部をくりぬいて、ダシを張り、具材を丸ごとを丸ごと湯煎蒸しにした冬瓜盅は、宴会料理の華です。
 
 その具材、もともとは、家鴨肉、鶏肉、豚肉、各種の内臓類、乾燥素材に野菜類、というのがそもそものはじまり。後に、海鮮の流通が盛んになって、新鮮な魚介、蝦、蟹の爪なども加わるようになったもの。さらに、具はふかひれだけという豪華版の冬瓜生翅盅ってのもあります。思わずよだれがこぼれる絶品で、冬瓜盅の中では一番の好みです。
 今回は、伝統的な料理にならって「八寶冬瓜盅」で。食べすすめるうち、知らず汗がひいていくような涼味あふれる夏の味を満喫しました。
 
 画像はその「八寶冬瓜盅」。サーヴィスの人が運ぶ途中で蟹の爪を一個、スープの中に落っことしてしまいました。