⑥の百花蒸醸豆腐 蝦のすりみ載せ豆腐の蒸し物は、私のアイデアです。
今回は夏の広東地方の郷土料理、「家郷菜」を中心にというのがテーマ。しかも、本格的で豪華な宴席でもなく、家族、友人など気の置けない仲間が集まってのもの。 それならコースにお惣菜的な料理を組み入れるのも悪くない方法。
そこで思いついたのが豆腐料理。もしかして斎木一家にもなじみありじゃないかとミッシェルと相談していた通り、
「あ、これ、私、作ったことある!」
と、斎木夫人の起久子さん。
本格的な宴会料理なら琵琶型に作った「琵琶豆腐」もいい。
家庭惣菜風なら「紅焼豆腐」だが、どちらかといえば冬向きの料理になる。
少し工夫を凝らしたものなら、豆腐をつぶし、すり身かほぐした白身魚を混ぜて蒸した「老少平安」がある。が、シンプルな内容。しかも、蒸し物でさっぱりということになり「百花蒸醸豆腐」に決定。
それから野菜料理。欠かせないのが野菜料理です。
今の時期、香港なら文旦に似た「柚皮」、芥子菜の茎の芥胆、ヒユ菜の莧菜がある。
が、日本では調達が不可能。あるのは通菜(空心菜)ぐらいなもの。
そこんところ、ミッシェルが洒落たアイデアを提供。
さっと炒めたアスパラガスに「火腿」の薄切りを揚げたもの、さらに、なんと鳩の卵を茹で、添えた一品。
なんともお洒落な一品。グッドなアイデアでした。
食用鳩だけでなく、香港では鳩の卵も料理に使われます。燕の巣の周りに茹でた鳩卵を配した官燕鴿蛋はその代表的なもの。
とはいえ、鳩は基本的には雄雌の番、つまりは一夫一妻のため、産卵数も限られ、ことに食用鳩自体、入手が難しい上に、鳩の卵となるとそれ以上ということになる。
ということで、はたして鳩の卵を使った料理が定着するかどうか。
「これって、一緒に食べるの?それとも、別々に?」
そんな斎木夫人の一言をきっかけに、話題になったのは、鳩の卵を半熟、もしくはその手前、黄身をトロトロ状にして、アスパラ、揚げたハムをそれに浸して食べるのはどうだろうか、というアイデア。
イタリアンにありますね、そういうのって。次回、試そう、ということになりました。
⑧葱花皮蛋炒滑蛋蝦 ピータンと卵とエビの炒め物は、番外の私のリクエスト。
ミッシェルが小さい頃から家族、また、親しい仲間との食事に食べていた惣菜的な料理で、イギリスへの留学時代、香港に戻れば必ず食べていたそうです。
実は、蝦、蟹に鹹蛋を絡めて炒めた「鹹蛋蟹」、「鹹蛋蝦」というのがある。もともとは揚州の料理だそうで、上海を経由して香港に到着。その間、内容が少しずつ変化という事態もあったようですが、一時、香港で大流行。「一笑美茶樓」の脇屋さんが着目し、てトゥーランドットの看板料理にしていたこともあります。
ミッシェルの話から、てっきりそれかと思いこんでたら、違いました。 鹹蛋なし。皮蛋と鶏卵のみ。三蛋、ではなく、雙蛋です。
蝦は「基圍蝦」を使うのが必須の条件という。汽水域で養殖した蝦で、ぷりっとした触感のある肉質、甘味の味がその特徴。が、日本では入手は不可能。
で、日本の小ぶりの蝦を使って調理した「葱花皮蛋炒滑蛋蝦」。確かに蝦は、新鮮でぷりっとはしていても、甘味不足。それより、火を通した皮蛋、特有の臭み、においが消えている。触感は煮こごりのよう。それでいて卵ならではのコクがある。この料理、心安らぐ家庭の味、という趣。
そうか、ここに鹹蛋を入れると味がより濃厚に、さらには重くなって、秋、冬の料理になってしまいそうだと、納得した次第。
さて、締めくくりは「麵?それとも、炒飯?」。
ゲストの斎木さんのご意向を伺うと
「さっき、張さんの炒飯が美味しいって話、でてたじゃない。だったら絶対に炒飯!」。
とはいえ、さて、一体どんな炒飯にするか。
「う~ん、なら、やっぱり「鹹魚雞粒炒飯」!」と、ミッシェル。
そして登場した「鹹魚雞粒炒飯」が旨かった。
という以上に、すごかった。
これまで銀座の福臨門で食べてきた「鹹魚雞粒炒飯」では、ベスト、でした。
味、香り、風味の豊かさに目を見張りました。
なによりも「鑊氣」がある。活気にあふれ、香りが立っている。
味わえば、力強く、しかも、気品がある。
福臨門はすごい。名人が何人もいるんですから。
画像は「百花蒸醸豆腐」、「焼雲腿鴿蛋露筝」、「葱花皮蛋炒滑蛋蝦」、「咸魚雞粒炒飯」。