2品目、「家郷蓮藕餅/蓮根と豚挽肉の煎り焼き」の登場です。 かねてより「袁さんに頼んでやってもらえませんか?」と、依頼していた料理の一品。
「蓮藕餅」、直訳すれば「蓮根餅」ってことになります。 なんていうと「蓮根の挟み揚げ」を思い浮かべる人も少なくない。和食、居酒屋の一品、それに、天麩羅の店で見かけることもあります。TVの主婦向けの料理番組でも見かけたことがあります。それから、創作的な料理をメインにする中国料理店などでも。
「「蓮藕餅」?、あ!それならウチでもやってます!」となんてとある中国料理店の料理人の話に、内容、詳細を尋ねたところ、要は薄切りにした蓮根の間にえびや豚肉を擂り身にした餡をはさんで、揚げたものだったりしました。
「蓮藕餅」は広東地方の代表的な家郷菜の一品で、お惣菜として家庭でも頻繁に作られる一品。豚の挽き肉に「慈姑」、「榨菜」を混ぜあわせたり、「いか」、塩漬け魚の「咸魚」をトッピングして蒸した「蒸肉餅」、円形の小ぶりのハンバーグのパティ風にして煎り焼きにする「煎肉餅」、牛肉に陳皮を風味付けにした「陳皮牛肉餅」に似た料理です。
もっとも、煎り焼きの「香煎蓮藕餅」はこれまで色々なところで何度も食べましたが、蒸した「蒸肉餅」には出会ったことはなし。でも、どっかにありそうな感じがしないでもない。
で、「蓮藕餅」、「蓮根のはさみ揚げ」と違うのは、蓮根自体、ザクザクの賽の目切りにしたり、あるいは、擂り潰す。そこに、豚肉、えび、魚のすり身を加え、味付けして、ミニ・ハンバーグさながらの円形状にまとめ、煎り焼きにしたもんです。
おもしろいのは、店によって、家庭によって、蓮根の切り分け、下拵えが違うってこと。それに、一種にあわせる具材、それぞれ違います。そのうち、魚の擂り身ですが、広東地方、香港の場合、圧倒的に多いのは淡水魚の「鯪魚」。
これまで食べてきた「蓮藕餅」、全部、作り方、仕上がり、味、風味、違いました。以前、福臨門での青木宴で「蓮藕餅」、頼んで料理してもらいましたが、それもこれまでに食べたことのあるものとは違いました(07/11/10日、「秋の味」その5)。
というわけで「赤坂璃宮」銀座店の料理長、袁さんの「蓮藕餅」は一体、どんなものか。
見た目はこれまでに食べてきた「香煎蓮藕餅」と変わりなし。煎り焼きにされ、焼き色のついた「蓮藕餅」が醸し出す香ばしさが鼻腔をくすぐります。
「なるほど、これは、蓮根の挟み揚げとは違いますね!」なんて声も上がる。
焼けてあつあつ「蓮藕餅」、ハフハフの感じで頬張って、ひと齧り、いきなり「ザク!」の感触!
そうか「蓮根」、小ぶりの賽の目に切り分けられていて、「蓮根」のあの「バリ!ボリ!」の触感、そのまま残して、この「蓮藕餅」の味わいところのひとつにしてあるという按配。憎いですね。
噛みしめれば、つなぎの具、というか擂り身の餡は、潰してすり身したえびの味わい、風味もあり。えびのすり身入りの具、なんですね。と、同時に、舌の上をざらっとした触感が。しかも、ほのかに泥臭さ、えぐみらしきものが感じられる。
「ン!?、もしかしてこれ、擂り下ろした蓮根?」。「そうみたい!これ、えびのすり身だけじゃないみたい」なんて声もあがります。
蓮根のさくさく、ばり、ぼり感だけじゃなくって、外は焼き色がつきながら、噛み締めるとジューシーな肉汁がほとばしり、なおかつ、押し付けがましくない旨味がじんわり滲み出ます。浮かび上がります。
「蓮藕餅」をそのまんま一個、なんもつけずに味わったあとで、ふと「もしかして、リーペリン・ソースとの相性、バッチリじゃないか?」、と。
そう、日本で飲茶の点心もの、揚げ物にしろ、蒸し物にしろ、溶き芥子に醤油というのが一般的ですよね。ですが、私の好みからすれば、醤油よりも、ソース。それもリーペリン・ソース。
酸味がたっぷりで、匂いを嗅毛ば思わず「グフ!」とむせちゃうぐらい、酸味の強烈なリーペリン・ソース。それが、飲茶の点心、ことに揚げ物類にはうってつけ。餃子、それも水餃子にしろ焼き餃子にしろ、醤油じゃなくって、醋、できれば黒醋に辣油を少々、なんてのがすっきりさっぱり、なのと同じ要領。
「どう?リーペリン・ソース、ちょいとつけて試してみません?」なんて私の提案に、最初はいぶかしがっていたメンバーです。全員、最初はリーペリン・ソースの酸味の強烈さに「グフ!」と咳き込みながらちょいと浸して、ひと口。
「うん、これいい!この強烈な酸味が「蓮藕餅」にぴったり」。
「そうか、醤油だと、旨味が邪魔しちゃって、なんでも醤油の味になっちゃうけど、このリーペリン・ソースの酸味とだと「蓮藕餅」の旨さ、ますます引き立てる感じなんですね。それに、芥子とか辛味の醤とかもないほうがいい感じ。そういうの付けると、その味になっちゃうから!」なんて声も。
考えれば、要は蓮根のすり身をいれたハンバーグ、みたいなもんですよね。もちろん、肉をつなぎにした時には。それを、えび、魚のすり身に置き換えることもできる。
実は蓮根が余ってるとき、我が家ではこれを作ります。けど、難しいのは蓮根の下拵え、それに、具材の味付け。
袁さんの「蓮藕餅」を食べながら「これは叶わないプロの技!」、なんて思いました。
この「蓮藕餅」、間違いなく「赤坂璃宮」銀座店の「家郷菜」シリーズのグレイテスト・ヒッツの一品。
香港の味、風味、がそのまま味わえます。