2010/02/16

久々に西新宿の「山珍居」へ

 旧聞に属する話です。先月、毎年恒例のとある新年会。ここ数年はビッフェ・ディナーでしたが、今年はいつもと趣向を変えて円卓囲んで中華、ということになりました。とはいえコース仕立ての宴会料理じゃつまらない。そこで思いついたのが「鍋」。

 以前、一度きりですが中華風仕立てのしゃぶしゃぶ鍋、ということで海鮮鍋、肉類鍋の2種の鍋を用意し、それぞれお好きな鍋というビュッフェ・スタイルの鍋をやったことがあります。
 「私は海鮮!」、「僕は肉!」とひとつの鍋にかかりっきりの人もいれば、2種の鍋を行ったり来たりという人もいる。人それぞれ、好み色々、千差万別。2種の鍋に皆さん満足。ですが鍋だけではやはり物足りない、というのが参加した人の意見。そうです、鍋って、つけたれや締めの面、ご飯に工夫がなきゃ、同じ味が続く訳で、最後は飽きちゃいますから。

 そんな経緯もあって今回はどんな鍋にするか。流行物なら半分は澄まし仕立て(清湯)で、半分はどっさりの唐辛子が入りでスープが真っ赤の辛味仕立てで「鴛鴦」(もしくは「太極」)火鍋。ことに最近は四川系の店の極辛痺れ仕立て「麻辣火鍋」が大人気。ですが、メンバーの中には辛い鍋は苦手、なんて人もいる。

 中華風のしゃぶしゃぶならやはり「仔羊」か「羊」の「涮羊肉」。ですが「羊」はさすがに(肉じゃなくて脂の)クセが強すぎて「ちょっと勘弁!」。ですけど「ジンギスカン鍋ならOKよ!」なんて人もいて、一体どういうこと?  ともあれ、仔羊肉のしゃぶしゃぶなら神田の龍水樓ですが、20時半までに宴会が終わらなきゃいけない、という時間制限が枷になる。

 そうだ!と思い出したのが西新宿の「山珍居」。「(台湾式)火鍋」があったことを思い出しました。
 「台湾料理」といえば腸詰の「香腸(煙腸)」、蜆の醤油漬けやにんにく炒め、粽にビーフンの各種の料理などが知られてます。最近になってそぼろ肉煮込みかけご飯の「魯肉飯」や「(台南)坦仔面」なども紹介されるようになりましたが、ほとんどの店、日本人好み、日本に親しまれた幅広い各種の中国料理/中華料理もメニューに並べたミクスド・チャイニーズ。しかも小皿で提供なんてのが看板のようで。

 もっとも、台湾に旅してみれば明らかなように、台湾の大衆食堂や夜店の屋台でみかける小吃の類からするとその数は少なく、おまけに、現地風の味、風味のものには滅多に出会えない。調理と味付けだけが強調されていて、風味、香りに乏しいのがほとんど。それに本省人系ということでは、福建、客家系をルーツにする料理が本筋のはずですが、なかなかみかけない。

 そういえば一時、新宿の歌舞伎町におもしろい台湾料理の店を見つけましたが、近寄り難い事件が起きたりいろいろあって疎遠になりました。そうだ随分前、東銀座にもしばし通った店がありましたっけ。高橋健太郎の話によれば横浜にいい店あるそうです。それとは違う店があるってことも、他の情報で仕入れました。

 ともあれ、そんな中で西新宿の「山珍居」は稀なる店。異色の店といえるかも。かつて台湾に渡来した福建人の料理をルーツに、台湾の風土、土壌を反映して形成された郷土料理に出会えます。それも、共産党との戦いに敗れて本土から台湾に逃れ、台湾省を中華民国の本拠とした本土からの外省人が持ち込んだ中国各地の地方菜とは一線を画するものです。かつて清国が日本に割譲し、日本の統治下となった(第二次世界大戦)前後の台湾の郷土料理を継承、というのが面白いところです。

 創業は戦後の昭和22年。店の佇まい、店内の趣きからして、昔懐かしい中華料理店のそれ。昭和の名残をとどめてます。多くの文化人に愛されてきた証は店内に掲げられた色紙の数々が物語る。私は長谷川伸の短冊の一筆に目が釘付け。
昭和の名残りが「山珍居」にありました!