スープは「芥菜肉片湯/からし菜と豚肉の蒸しスープ」。
「お、嬉しい!」なんて思ったのは香港、広東地方ではごく一般的、惣菜的なシンプルこの上ないスープだからです。
まず「芥菜/からし菜」ですがアブラナ科の一種で小芥菜と大芥菜があります。その種子からとるのが芥子、ってことからもわかるように独得の辛味があります。もっとも、日本では「芥菜」の変種で「大芥菜」が「高菜」として一般的。は日本で言う高菜。
今回のスープに使われた「芥菜」は広東地方原種の「包心芥菜/結球高菜」。色鮮やかな緑の葉もさることながら、薄緑がかった根元の茎の部分(芥菜胆)の部分を様々に調理するのが香港、広東地方では一般的。これからが旬の時期を迎えます。
そんな「芥菜」のもっとも簡単な料理方法が豚肉、それも脂身の少ない腿肉などの赤身肉の「痩肉」の薄切りと一緒にさっと煮てスープ仕立てにした「芥菜肉片湯」。誰にだって出来るお手軽なスープ料理です。とはいえ、袁さんの手になる「芥菜肉片湯」、やはりプロの技、一工夫がありました。
「ね、このスープ、すごく美味しい!しっかり旨味があるのに、すっきりしていて、上品だし。これ、「鶏だし」で作るのかな?」
「ン!?、そうかな。「鶏だし」独得のくせとか味がしないから。ほら、鶏丸ごと一羽使った鶏だしだと、皮の部分から脂もでるし、コラーゲン質とかも一緒に煮出されるでしょ。そういう感じじゃないよね。
それに、ここ(「赤坂璃宮」)とか福臨門とかホテルの高級店だと鶏は丸ごと一羽使って、豚の赤身肉や火腿で「上湯」をとるけど、日本の中華料理のだしって、一般的には鶏がら主体の「毛湯」を作ってから、鶏や豚の挽き肉を加えて澄んだ旨味のある「清湯」を採ることが多いから。 それからすると、このだし、旨味はあってもクセがないし、ほのかにフルーティーな酸味がするから、豚の赤身肉の「痩肉」で採っただしか、もしくは二番だしの「二湯」じゃないのかな?」と知ったかぶりの私です。
そのあたり、聞きそびれてました。そしたら橋本さんから連絡あり。
「スープは蒸しスープと言うよりは沸かしスープが良いと思います。漢字表記は滾湯です。10分程強火で煮ます。素材等につきましては、肉片・芥菜・咸蛋・二湯・塩・生姜です」とのこと。
そうか「二湯」を使った「滾湯」だったのですね。
それにしても具材を鍋に入れ、「滾湯」ってことですから、ぐらぐらの感じで煮立てたスープだと、ざらっとした触感になりますが、滑らかで、きめ細かな舌触り。おまけに雑味なしでクセやくどさがなく、すっきりとした味わいと口当たり。「上湯」だけじゃなくって「二湯」も上質、かなりのもの、なんてことがわかります。
なんて話をしながら、れんげで掬ったスープに塩漬け玉子の「鹹蛋」の黄味!
「おおこれは「鹹蛋」の黄味。
ということはこの料理「鹹蛋芥菜肉片湯」だ!
「鹹蛋」入りの「芥菜肉片湯」と言うのがいかにも香港/広東ローカル、地元ならではの味です。
塩味の効いた「鹹蛋」の黄味は、ほっくり、ねっとり。旨味濃厚です。
「これもこのスープの味の決め手のひとつになってたんだ!」と納得しました。