2008/04/26

ヘイフンテラスの謎と不思議の19

 「ザ・ペニンシュラ 東京」の「ヘイフンテラス」。
 香港からふたりの料理人と点心師、計3人を招聘し、ザ・ペニシュラの「嘉麟樓」の姉妹店として、香港の広東料理を提供、というのが看板です。

 ネットで検索したとあるホテル予約のサイトでの紹介によれば、「ザ・ペニンシュラ香港の広東料理レストラン「スプリングムーン(嘉麟樓)」の姉妹店として「本格的な広東料理」とサービスを提供いたします」、とまあ「ヘイフンテラス」については、どこのサイトでも同じような紹介が。

  ところが、さらに突っ込んで「日本人向けに味を特別にアレンジするのではなく、食材そのものの味を最高に生かした状態でお出しする香港スタイルを貫きながら、日本の四季折々の食材を取り入れた「ヘイフンテラス」ならではの味にこだわりを持っています」、と触れられているのが興味深い。
 しかも、「フードアイテムの切り替えを頻繁に行うことによって、多彩な本場の味をお客様に幅広くご紹介してまいります」なんて紹介されてます。

 その紹介、日本人向けのアレンジなし。食材そのもの味を生かした状態でおだしする香港スタイルを貫く、なんてところに目が止まります。とはいえ、その次には「日本の四季折々の食材を取り入れた「ヘイフンテラス」ならではの味にこだわりを持ってます」とある。
 それって、香港そのままの素材の確保、入手が難しい、という現状を把握しての予防線?
 かと思いきや「多彩な本場の味を幅広く紹介」と、「本場の味」を再度、強調。

 ついでに、つい最近入手した「新版 中華料理店」(旭屋書店)の「第4集」。
 「進化する繁盛中華料理店」の特集に「ヘイフンテラス」の紹介が掲載されてます。
 それには「エグゼクティヴ・シェフ」の鄧志強さんのコメントがあって、全メニューのうち「スプリングムーン」の味を再現した料理が80%。残り20%は創作を織り交ぜた「ヘイフンテラス」だけのオリジナル料理を提供、とのこと。

 取材を担当した同誌の編集担当、もしくはフードライター氏、もちろん「嘉麟樓」にも出かけてその味を体験しての上の紹介、なんでしょうね。
  まさか、店の、料理長の言い分、そのまま紹介……。というのが実情なんでしょうが、確証はなし!

 実際に「ヘイフンテラス」で食事した体験からすれば、姉妹店の「嘉麟樓」はもとより、香港の味をそのまま再現、と言うことに関しては、大いに疑問。
 なんてことからすると、我らが注文したメニューの数々、もしかして、81%目からのものだった?
 そんなことはないでしょう。
 メニューの中から選んだもので、わざわざ特別に頼んだ料理でもありませんから。

 穏やかで、優しく、気品のある味、それに(大雑把ながらも)洗練されたプレゼンテンショーン、と言う辺り、確かに日本のホテルの中国料理店に比べれば「ヘイフンテラス」ならでのは特徴、個性、持ち味が汲み取れます。

 が、肝心の料理、香港の味、というには隔たりがあるのは事実です。
 料理としての香りが乏しく、欠けているってことが最大の致命傷。
 炒めものなどの「鑊氣」の無さなど、その最たるものだと思います。

 これまでにも触れてきたように、香港の味に近い店、ということなら、一応納得。
 しかし、「嘉麟樓」の味、「香港の味」ということに関しては、「ヘイフンテラス」、また総料理長の認識と、私のそれとの間には遠くて深い隔たりがあるようで。

 なんて言えば、耳元に響きます
「お客様の方が、よくご存知じゃないか、なあ~」
といいながら、明らかに「お客様がご存知ないだけのこと!」
という含みある黒服の女史のあの言葉が!

 メニューを決めるにあたっての黒服の女史とのやり取りの様は、今でも鮮やか甦ります。
 料理名、調理、味付けのやり取りは、すべて広東語。
 かといって、こちらの思い浮かべる物と、黒服の女史の思い浮かべるものが、すべて一致していた、とは言い難い。

 彼女は彼女の経験、体験を踏まえて、当方の要求に応えた、ってことだったのでしょう。
 当方が提案した料理について、確たる回答はなし、なんて場面が何回かあったことからすれば、やはり彼女の知る広東料理は、彼女の知る範囲だけのものだった、ってことでしょう・
 そして、私には私の知る香港の広東料理の世界が存在した。
 そして、私、香港の広東料理のすべてを知っているとは思ってません。
 いや、年をとればとるほど、世の中んは私の知らないことだらけ
 なんてことをつくづく思います。

 ということじゃ、黒服の女史、知らないなら知らないで、正直に教えてくれた方が有難かった。
 しかし、ま、彼女にもプライドってものがあるでしょう。
 なんせ背筋を伸ばした「ヘイフンテラス」の黒服の女史です。

 それよりも、実はサービスとキッチンの間にこそ、私と「ヘイフンテラス」、それに、総料理長の認識との間と同じくらい、遠くて深い隔たりがあるんじゃないかという疑問が頭をもたげはじめます。
 蝦の在庫の確認を、白服のパシリ君に、なんて、以前にもお話したとおり、香港のトップクラスのホテルの中国料理店や高級料理店の黒服氏には、ほとんどありえない。

 高級料理店でなくとも、日本人とみればエビエビカニカニの大攻勢。しかも、かつての鯉魚門や香港仔のいかがわし海鮮料理店などとは違って、これが「蝦」、これが「魚」と、しっかり料理する前に見せてくれますから。

 「ヘインフンテラス」だからこそ、そんな手間、必要なしだと思いましたが、やっぱり、きっちり、やるべきだったんだと、今になって反省。
 活きのものだったのか、冷凍戻しだったかのか、今だに判明できないあのでっかい「中蝦」の真実も、把握できたはず。
 現物をみれば、調理方法、味付けも変えられたはず。

 それに、腹を割いて蒸した魚の料理、黒服の女史の最初の言い分。
 最初は「一本釣りで(魚釣りの)針があるといけませんので」。
 それが「香港ではよくあることですので、お客様が~」なんて
 どっちがほんと?

 あらさがし、揚げ足取りなんかじゃなくて、「ヘイフンテラス」が「嘉麟樓」の味、香港の味を再現してるかどうか、ってことだけに執着せず、料理そのものの出来栄えがどうだったか、ってことになると
「う~ん、香港に近い味、ってことではOKなんだけど、なんだかな~」、 というのが正直な話。

 それより、「ヘイフンテラス」のキッチンは、総指揮こそ香港からやってきた料理人。
 ですが、実際の料理を担うのは日本人の料理人。
 しかも、総指揮の料理人の指揮が隅々まで行き渡っているのかといえば、そうではない現実が存在すんじゃないでしょうか。私が出会った料理がそれを物語ってました。それより、これまでふれてきたように、日本の広東料理界の流派が入り乱れた上に、その縮図を見るような面白さもある。

 要は、日本の、というより、東京の、高級ホテルにおける広東料理を看板にする中国料理店と変わりない店、じゃないでしょうか?
 私にとっては、香港と日本の中国料理の差異、食文化比較を探求するには、格好で、面白く、興味深い店。 だからこそ、その謎と不思議を解明。

 とはいうものの……。

 その昔、知人の山本益博先生
「旨いものに出会ったら、旨い店を見つけたら、すぐに「ウラを返す」」
と、教えてくれたことがありました。
「エ?何それ?ウラを返すって?」
 何がなんだかワケがわからなくて意味を尋ねたら
「すぐさま、もっぺん出かけること」
って教えてくれました。

 そんなことを思い出しながら
 「「ウラを返す」っていうより、「テーブルをひっくり返す!」、
 って程でもないし、なあ~」 
 とまあ、なんだかんだで優柔不断のまんま、いつのまにか半年がたちました。

 そしたら
 「ね、もっぺん行きましょう「ヘンフンテラス」に!
 最近、予約、簡単にとれるようになったみたいなんで!」
 と、我が友人からのお誘いが!!

 で、画像は「あのう、お客様~」と料理撮影禁止の「ヘイフンテラス」ですから~。
 香港、フォーシーズンズホテルの「龍景軒」の「鮑汁扣法國鵞肝」。
 かつての「麗晶軒」の料理長だった陳恩徳が、若いスタッフと一緒になって考案。
 80年代の「新派広東」をほうふつさせる一品ですが、鮮烈で斬新な印象には乏しく、いささかアナクロっぽい。 そのアナクロぽさが、現在の香港の最新の「新派広東」らしくもあります
 ともあれ、外国の素材を使いながら、「鮑汁」で味付け、というあたり中国料理、広東料理ならではの特徴、個性を発揮、というのが興味深い一品です。