2007/12/20

中国料理におけるメニューの選択、コースの組み立て(その7)


 そう、昼時の中国料理店のランチでのメニューの選択、気の置けない仲間同士なら、選ぶ料理に工夫を凝らしたりしませんか? ってことでした。
 「俺はエビチリ」。
 「なら、俺は麻婆豆腐」。
 「そしたら俺は酢豚にするワ」、と言った按配で!
 以上の選択なら、素材は「エビ(海鮮)」、「豆腐(+豚肉)」、「豚肉(+野菜)」ってことで、重ならない。
 問題はその次。中国料理のメニューの選択、コースの組み立てにあたっては、素材とともに「調理方法」と「味付け」が重ならように選ぶ、というのがその基本。
 その「味付け」ということでは、「エビチリ」、「麻婆豆腐」、「酢豚」ぐらいなら、とっくにその味になじみがあるはず。
 一般的にランチ・タイムの「エビチリ」は甘味に辛味の甘辛味。「麻婆豆腐」は辛味。「酢豚」は甘味に酸味の甘酸っぱ味。中にはランチ・タイムでも、ケチャップ味の甘味、色づけじゃなくって、甘味は葱などの香味野菜のそれを生かし、漬け込みが浅く、色合いの赤い1年もの程の豆板醤をふんだんに使い、辛味を生かした「エビチリ」もある。
「麻婆豆腐」も、本場の四川の「陳麻婆豆腐」に倣って、豚肉ではなく牛肉を使ったり、「花椒」、中国山椒をふんだんにふりかけて、痺れ味たっぷり。それこそ、「麻辣」の味をしっかり利かせたものがある。
「酢豚」も「黒醋」を使って、酸味だけでなく、こく、旨味を加味。パイナップルはもとより、椎茸、筍、ピーマンなどの茸、野菜類も取っ払って、豚肉だけを黒醋で調理、調味した「黒醋の酢豚」を用意している店もある。
 もっとも、そんな本場、本格化風のものでも、味に関しては、想定内の範囲、もしくは、多少はみだしている、という程度のものだから、安心もできる。冒険も安全圏の範囲内、じゃないでしょうか。それに、本場物、本格派好みの人なら、文句はないはず。
 ところが、「エビチリ」、「麻婆豆腐」、「酢豚」の調理方法は?なんて言われても、即座には思いつかない。それが普通の現実、じゃないでしょうか。
 自分で作った経験があるにしても、例えば「エビチリ」。
 あれは、えと、エビを油通しして、それから、にんにく、ねぎを炒めてヒリ辛味と甘味を出し、豆板醤を加え、スープを少々注いで煮たたせて、油通ししたエビを鍋に戻し、味を煮含め、最後にとろみつけだよな。とまあ、いつの間にか遠い目になって、料理のプロセスを思い浮かべ、ようやく納得、ってところでしょ。
 エ?ケチャップ入れ忘れ?う~ん、ケチャップもいいけど、なんだか、お子ちゃま味になりますから。
 エ、エ?そか、出来合いのあわせ調味料パックで作りますか?
 馴染みの料理だってそんな按配。ですから、いきなりメニューを手にし、どれにしようか、なんか旨そうな料理ないかな、なんて探しても、中国語の料理名はさっぱり。日本語のメニュー紹介で、なんとなくは想像出来る。
 が、実態は掴みにくくて、想像を逞しくするしかない。ハズれは避けたいしなあ、とばかりあっちこっちと目移りして、優柔普段、じゃなかった不断、のまま、なかなか決められない。
 そんな時、やはり、雄弁なのが中国語の料理名です。ところが、その解読、ってのが実に厄介で、面倒。知識がなければ不便この上ない。

 「なの、簡単だろ? 素材の名前は、ほぼ日本と同じじゃない?それに「片」は薄切り、「絲」は千切り、「丁」が賽の目きり。料理方法だって「炒」は炒める、「爆」は強火炒め、「炸」は揚げ物、「燜」は煮込みで、「紅焼」は醤油煮込み。漢字をみれば、料理の素材、味付け、調理方法、その内容がわかるじゃん!」と、豪語してキッパリ言い切る輩もいる。
 私の知人、フォト・ジャーナリストの森枝卓士も、なんかの本でそんなことを触れてました。「真っ当な」が口癖、書き癖で、1頁に2~3回登場が常の森枝氏。案外、アバウトなとこ、あるんだよなあ。
 そういえば、在宅主婦向けの高級婦人誌の中国料理特集などでも、どっかの片隅に、中国料理用語入門、とばかり、そんな紹介が必ずあるもんです。
 そのつもりで、雑誌の中国料理特集は言うに及ばず、料理本、専門誌なども読み漁り、一時、中国料理用語を覚えました。30年以上も昔の話です。ところが、香港に初めて出かけたとき、役立ったのはその一部。しかも、ごくごく一部だった、というのが現実です。

 ま、日本の中国料理用語のほとんどは、北京、四川、上海系のそれに準じたもの。香港は、広東料理が主流だからじゃないの?という声もありそうです。
 が、日本で紹介されている広東料理の用語でも、まったくおぼつかない。初めて陸羽茶室に訪れた際、ザラ半紙に赤字で印刷された飲茶の点心や、昼食むけのメニューを見たとき、思わず目が点になりました。
 判明したのは「叉焼包」、「燒賣」、「春巻」ぐらいのもの。「麵」と「飯」の字があって「麵飯類」とはわかっても、その内容、味付けは皆目さっぱり。うろたえました。
 以来、一年、じゃない、一念発起で、香港の広東料理、飲茶の点心、それに「麵飯類」の解明をはじめたものです。
 ちなみに、中国本土に出かけるようになって、かつて日本の雑誌の料理特集、料理本、専門誌で覚えた用語が、役にたったのかといえば、香港ほどではないにしろ、そうじゃなかった、という痛い現実を、散々、味わってきました。
 画像は「銀座芝蘭」の「麻婆豆腐」。
 ちなみに「銀座芝蘭」は休業中。この程、「神楽坂 芝蘭」が開店。同店で、四川料理の伝統と現在を日本に伝える気鋭の料理人、下風慎二さんの男気あふれる料理が、食べられる様子。
 そのうち、調査してきます!