2007/02/17

蟹黄魚翅撈飯(32)

 広州に到着したのは昼過ぎ。その夜、桂林に向かうことになっていた。

 その間、市内各所を巡り、撮影の下見をした。茶館などにも案内されたが、驚いたのは年代物の「普洱茶」の値段の高さだった。その状態、また、香りからすれば、高価であるのも納得できたが、香港と広州の物価費の差などからすれば、べらぼうに高い。明らかに観光客目当てとしか思えなかった。「菊花香片」、「頂凍烏龍」などもあったが、いずれも「今いち」、「雰囲気だけの店」と、当時、記したノートにある。すんません、正直で、率直なもので!


 桂林の出発前に、観光局の人の案内で打ち合わせを兼ねて食事に出かけた。
 記憶によれば、広州の最新のトレンドの店、たとえば他誌で紹介されいた南海漁村、それに、西崗漁村、香港仔などの店の名を教えられたが(ノートにその記述がある)、どうも乗り気がしなかった。それよりも伝統的な広東料理が食べられる店、ということから、その両方を兼ね合わせた店、として案内されたように思う。

 その名はなんと「福臨飯店」。マカオに「福臨門」という店があって、ガイドブックの中には香港の「福臨門」と関係があるような記述があるが、まったく無縁であることはいうまでもない。それに比べれば「飯店」という名の方が、まだ愛嬌がある?それも、料理人が「番禺」の出身だと聞いて、え!と唸った。福臨門の徐維均さんの父君、徐福全さんの出身地と同じではないか。


 その夜、食べた料理は以下の通りだ
 「拼盤/焼鴨、叉焼」「高湯雙頂裙翅」380rmb
 「菜膽屯鮑翅」180rmb
 「福臨脆皮鶏」60rmb
 「魚茸煎旦角」36rmb
 「清蒸桂魚」
 「白灼菜心」

 rmbというのは、人民元、つまりは値段である。
 
 「高湯雙頂裙翅」、「菜膽屯鮑翅」ともに1位用、一人用のものだった。「雙頂裙翅」、「鮑翅」の名をメニューに見つけて頬が緩んだに違いないが、なんのコメントも記してないことからすると、並か、それ以下だったか。
  「脆皮鶏」も「龍崗鶏」ということだったのだが、どうもピンとこなかった。

 それより「清蒸魚」が「桂魚」だったことに興奮した。これまで、触れてきたように、中国の淡水魚、川魚の中で王者とされる「けつ魚」である。

 その店に行くまでに、先に名前を触れた「南海漁村」など、地元で評判だという最新のトレンドだという「港式」の海鮮料理の店の何軒かを見て回った。


 そういえば、福臨門の羅安さんの弟子に霍錦常さんという人がいた。福臨門の出身で、文華酒家の「文華」、ついで日航酒家の「桃李」の料理長を務めて後、広州の店に移ったという話を聞いていた。「文華」、「桃李」ともに霍錦常さんの料理に出会い、感動したことがある。そんな霍錦常の店をさぐりあてたい、という目的もあったことを、思い出した。

 話を戻して、最新のトレンドだという店を見て回るうち、驚いたのは生簀に香港の海鮮料理店と同様、多くの海水遊魚が泳いでいたことだ。

 「石斑」の「紅斑」、「星斑」、それに「青衣」。青蟹の一種の「肉蟹」、「膏蟹」等とともに、香港ではほとんど潮州料理店でしか見ることのない「花蟹」までいた。茹でて、冷まして、店先にぶら下げられている「凍蟹」ではない。生きたまま生簀にあった。 台湾産の「鮑魚」、つまりはとこぶしもあった。それに「澳州」、つまりはオーストラリア産の伊勢えびまでもあった。なんという流通の発達、とその時、正直思った。国交のないはずの台湾からの海鮮の輸入が行われていたのだから。それ以前に広州で「花蟹」にお目にかったことに驚いた。おそらく新鮮な魚介は、珠江をさかのぼって届いたのにちがいない。

 その前後、上海に音楽関係の取材で何度が旅したことがあった。初めて上海に行ったのは80年代半ばのことである。以来、10年あまりを経た上海の食の様相はすっかり変わり、浦東にはまさに「港式」の海鮮料理を看板にする店がいくつも誕生していて、それらが最新のトレンドであることをつぶさにしたことがあった。もっとも、上海での海鮮の魚介の種類は限られていた。やはり淡水魚が目だって多かった。

 それに比べ、広州のそれは、香港とほぼ変わりなかった。 と、同時に最新の「港式」の海鮮料理を看板にする一方で、それらと隣りあわせで「桂魚」、「生魚」さらには「大鱔(花錦鱔)」などの淡水魚が泳いでいた、というのがいかにも広州らしい。さらに、菜譜には「鯇魚」、また「鯪魚」の料理が載っていた。