2006/12/27

蟹黄魚翅撈飯(14)

 初めての福臨門で、ふかひれ料理のふかひれの種類を最高ランクの「裙翅」にはせず、「生翅」にしたのは、予算を考慮してのことだった、ような覚えがある。
 ふかひれの料理とともに、なんとしでも蒸し魚を食べたかったからだ。
 新鮮な魚介は時価である。そのうち、蝦やタイラギなどはさほど高価でもなく、量を加減すればうまく予算内に収められる。しかし、魚の値段は高い。種類もいろいろあって、その値段は異なる。

 香港の料理店で食べられる魚については、後で別に触れるつもりだが、大雑把には遊水海魚、つまりは海の魚、海水魚と、淡水魚、川魚の2種に分けられる。
 
 海鮮料理を専門とする料理店で常備しているのは遊水海魚や各種の蝦、蟹などの甲殻類、貝類などだ。

 海鮮料理を看板にしていても、中には鯪魚(鯉)、生魚(烏魚/らいぎょ)など、淡水魚を素材にした料理を出している店もある。
 
 鯪魚はつみれ団子にした鯪魚球を、揚げて蜆蚧醤(クラムソース)で味付けして土鍋で炒め煮込みにした「蜆蚧鯪魚球」がその代表的な料理だ。

 生魚は日替わりスープの「例湯」に頻繁に使われる他、薄くそぎ切りにし、菜心(さいしん)や火腿などを巻いて炒め物にする。「生魚巻」がそれである。

 いずれも広東地方の郷土料理で、とくに順徳/太良地方のものが有名だ。

 もっとも、海鮮料理を看板にする店での魚、ことに蒸し魚に使われるのは、主に遊水海魚だ。
 例外は川魚の王とされる桂魚(けいぎょ)だ。かつて、香港で遊水海魚の入手が難しかった時代、豪華な宴会の締めくくりに使われてきた。
 90年代に入って香港の中国への回帰を背景に、懐古的な料理が脚光を浴びるようになって以後、桂魚が宴会料理の華になったこともある。

 遊水海魚の中で蒸し魚に使われる魚の大半を占めるのは石斑(はた)類とべら類だ。
 はた類の中で、最も珍重され、値段も高価なのは老鼠斑(サラハタ)。
 次いで、紅斑(きじはた)、青斑、星斑などが続く。
 
 老鼠斑同様に珍重されているのが、べら類の蘇眉である。
 ナポレオン・フィッシュの通称で知られるメガネモチノウオ(学名はCheilinus undulates)だ。
 近年は自然保護団体から絶滅を危惧して捕獲の禁止を求める声があがっている。
 それに続くのが青衣(しいら)である。

 いずれも、紅斑などよりもランクは上で、値段も高い。

 ちなみに、はたの類は、ほろりと崩れる柔らかな肉質がその特徴としてあげられる。
 一方、蘇眉や青衣は、しゅわしゅわっと舌にとろける緻密で繊細な肉質を特徴としている

 以上挙げてきた以外に立魚も蒸し魚の料理に使われる。
 鯛である。日本では魚の王者だが、香港でのランクは低い。斑類同様、立類も種類は豊富である
 
 話は初めての福臨門でのメニューのことに戻る。
 ふかひれの料理と蒸し魚をメインに据えたコースを組み立てることになったが、総勢10人という人数をまかなえる魚は、紅斑しかなかった。それが、紅斑を選んだ理由だ。

 結果、ふかひれ料理は最高ランクの「裙翅」ではなく「生翅」になったのだった、 という記憶がある。