福臨門のことを知ったのは、「旅」に掲載された香港の食べ歩きガイドでのことだ。
新鮮な魚介を使った海鮮料理だけでなく、干貨、乾燥素材を使った料理への関心を持ち始めていたこともあり、本格的なふかひれ料理を食べたい。最高のものを、最高の店で食べてみたい、という思いは募るばかりだった。
ガイドで紹介されている店の中で、興味を覚えたのは「新同樂」と「福臨門」である。
すでに香港には食べ物好きな地元の友人を得ていたから、両店について尋ねてみたところ、地元でもその評判は高いものの、桁外れな値段でも有名で、一般庶民が出かけられる店ではなく、近寄り難い店だ、とのことだった。
そんな話を耳にすれば、ますます闘志がかきたてられる。どちらの店にするか迷った挙句、選んだのは「福臨門」である。何かしら胸がときめくものがあったからだ。当時、地元では派手な宣伝活動を行っていたこともあって「新同樂」の名のほうが知られていたように思う。そのことにいささかなじめないものを感じたこともあって、「福臨門」を選んだのだった。
とはいえ、初めて訪れた「福臨門」で、出鼻をくじかれるような出来事に遭遇する。
どうやら、予約なし、飛び込みで訪れたのも一因となったようだ。
いや、予約したところで、その時の出来事は有りうることだった。
その時は初めて香港旅行の時と同じく、仲間同士10人、誘い合ったでかけたた旅だった。
前回、一緒だった者もいれば、香港旅行は初めてという者もいた。
さて、福臨門九龍店の玄関で、我ら一向を迎えてくれたにこやかな笑みを浮かべる赤い旗袍(チャイナドレス)姿の受付嬢に、いきなり「当店ではミニマム・チャージがありますが、よろしいですか?」と宣告されたのである。
ミニマム・チャージの値段だが、200香港ドルか300香港ドルだったような記憶があるが、今では定かではない。