2010/07/14

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の5

 さらにもう一品海鮮料理。
 海老を素材にした料理ってことでは、まず「白灼蝦」と「火焔酔蝦」が無難な選択ですが、あまりにベタ過ぎる。もっとも、蝦の種類、産地、時期によってはその限りにあらず(なんて、私、ほんとにヤな奴、生意気で我儘な奴だと我ながら思います!)。

 ここ最近、東京で入手可能な(ってことは築地ですよね)日本各地の海老、車海老、才巻きの類ですが、福臨門や赤坂璃宮はじめ、他の中国料理店で色々で試してみて「椒鹽焗蝦」、「蒜茸蒸蝦」、「豉油皇煎蝦」での味付け、調理が、日本の海老には合ってるようだし、比較的安定という結論。

 もっとも、調理の技、つまり、火の通し、鍋使いの技術も関係してのことです。加えて、赤坂璃宮。銀座店の袁師傳がたまにやってみせてくれる「避風塘炒蝦」も、悪くないチョイス。ただし、これも味付けの要となる蒜茸、辣椒など香味野菜、香辛料の扱いと、火の使い、鍋の技が問題です。日本の中華料理店での香港風をまねしたそれ、たいては味が濃くって、脂っこい。故にひと口でガツンの味!なんてことから「ワ!これ本場風!」なんて方も多いようで。あれって、香港でも大衆的な海鮮料理店に特徴的な味、ですから。

  ということで、今回、上質の海老の入手が可能なら!ってことで「豉油皇煎蝦」をリクエスト。 はたして目の前に現れたのは「豉油皇避風塘中蝦」。

「ン!?「豉油皇煎蝦」じゃないんだ!」
そう思ったのは海老の殻の周り、皿の上に「避風塘」スタイル特有の香味野菜、香辛料の微塵切りの揚げ物が!
 噛み締めると海老の殻はからり揚げられ、ぱりっとしていて、殻がはじけます。それが、次第に醤油の味、香ばしい風味が立ってきて、さらには「避風塘」スタイル独特の香味野菜、香辛料の微塵切りの揚げ物のひりっとした辛味、香ばしさが浮き立ち、醤油の味、旨味、風味とないまぜになって、味わい、風味を増していきます。
 おまけにぷりっとした触感の海老の身、その甘さ、旨味がこみ上げてくる。
「豉油皇煎中蝦」にしては、味わい、風味、フクザツ。かといって「干煎蝦碌」のような濃厚でクラシックな味わいでもなし。

 こんな料理方法、福臨門ではおめにかかれなかったもの。福臨門の「豉油皇煎中蝦」はもっとオーソドックス。火が通った殻の味、風味。身は火が通っていながら生な触感、味、風味を残したレア状態。噛み締めれば海老の甘味、旨味が浮き立つという寸法。

 どうやら百駒師傳、香港に戻って豪華客船「亜州之星(ASIASTAR)」の料理長などを務める間、さらにはその後、香港の広東料理の最新事情をリーサーチ、ってことからしい。百駒師傳に話を聞いたところ「伝統的な広東料理、家郷菜も得意だけど、香港の最新の料理にも興味があってね。日本に紹介されていない料理がたくさんあるから、それを紹介したいんだ」と目を輝かせます。

 「そうなんですよ。百駒さん、最新の料理のアイデア、色々あって、あれやりたい、これやりたい。あんなのどう?これじゃだめかな」と、次から次へとアイデアを出してくれるんです。けど、そのまま今すぐ、ここ(飯田橋店)で出しても、はたして受け入れられるかどうか」と野坂支配人。
 嬉しい悲鳴をあげながらも、いささか思案顔で表情ふくざつ。客の好み、関心、興味は家郷菜にありとはいっても、もっぱら高級素材を使った海鮮料理が主体。そんなことで「例湯」もさして関心をもたれず、というのが野坂支配人の悩みどころ、なのはよくわかります。

 ともあれ、香港の福臨門の顧客の要求に応えた「家郷菜」だけでなく、香港の最新の料理にも興味有り、なんてことがわかりました。というからには、その両者のよさを取り入れ、組み合わせたコース設定で!というのが、赤坂璃宮・飯田橋店の楽しみのひとつになりそうです。

 締めくくりの面・飯。炒飯や炒面では、なんだかお腹満腹、アップアップになりそうです。
 「あの、米粉ない?生米粉じゃなくって干米粉でいいから。そうだ、榨菜と豚肉の細切りの湯米粉!」 百駒師傳にそんなリクエスト
 「ああ、それ、いいね。あ、そうだ。さっきの「斑頭腩煲湯」の「だし」、まだ残ってるからあれ使って作ろうか!ちょっと待ってて!」とキッチンへ!

 そして「斑頭腩煲湯」のだしを使った特別仕立ての「榨菜肉絲粉湯」。
 「二湯」で作る「榨菜肉絲粉湯」は、すっきり爽快な気分になるもんですが、この特別仕立ての「榨菜肉絲粉湯」は「斑頭腩煲湯」のだしの味が利いています。
 味わいが濃厚で、旨味もたっぷり。はたのあらでとっただしですから、海の味のエッセンスが生きてます。
 こんな「榨菜肉絲粉湯」は、私、初体験。贅沢この上ない締めくくりの一品でした。

2010/07/13

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の4

 そして「順徳煎排骨」。
 「何か肉料理、食べたいんだけど、家郷菜でアイデアありますか?」と野坂支配人を経由して百駒師傳に尋ねてもらったところ、返ってきたのがこの「順徳煎排骨」。私、初体験。

 芥子菜を二度干しした甘味のある「梅菜」と豚ばら肉を煮込んだ「梅菜扣肉」では、ちょっと芸がない。そんなことから中国オリーブを干して塩漬けにした「欖角」を使って煮込みにするか、蒸し物にするか、なんて思ってました。

 ところが開店早々の「飯田橋店」には「欖角」の用意なし。なんてことで百駒師傳、思いついたのがこの料理だったそうで。豚の骨付きばら肉の「排骨」を「葱頭」、厳密にはベルギー・エシャッロットと炒め合わせたもの。

 実にシンプル、いたってシンプルな料理なんですが、火を通した「葱頭」の風味抜群。
 ちょいひり味の辛味、刺激味もありながら、甘味もある。そして「排骨」は煎り焼き、なのにしっかり火が通っていて、なおかつ、肉質は柔らかく、甘味、旨味があります。 骨にしがみついた肉の旨さは格別ですが、それを満喫。鍋使い、「火」の技に恐れ入りました。

 続いて再び海鮮料理の「卵白蒸栗蟹」。
 この栗蟹、野坂支配人の故郷の味だそうで、地元で収穫有りと言う話に、早速、取り寄せた地場物です。
 「栗蟹」は「毛蟹」の同種で、「毛蟹」よりも一回り小ぶりです。その身は「毛蟹」そのまま。ですが、ミソ、「毛蟹」に比べると小ぶりな分、量も少なく、味の濃さがいまひとつ、なんてことから中央の市場では人気薄。地元消費が中心なんだそうです。

 「毛蟹」といえばその鮮度もさることながら、その茹で方、蒸し方が肝心。その味、風味の要、なんてのはこれまでの体験に則してのこと。茹でたて、蒸したてならいざしらず、冷えた「毛蟹」の磯臭さ、勘弁してほしいな、なんて体験、数限りなし。そんなことからこの「卵白蒸栗蟹」、「栗蟹」が「毛蟹」と同類という話に、疑心暗疑。

ところが、「栗蟹」の甲羅を開き、卵白を加えて蒸したこの「卵白蒸栗蟹」。
 鮮度のよさもさることながら、その調理、味付け、卵白を使ってあるからでしょうが、上品で洗練されます。ミソも濃密。
 しかも、素朴ですけど、押し付けがましさがない味わい、香り。しっかりその存在を主張しています。
 日頃、蟹にはなかなか手の出ない私ですが、この「栗蟹」、それも「卵白蒸栗蟹」の味、風味に納得どころか、感心しきり。その穏やかで優しい味わいに惚れました。

2010/07/12

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の3

 話戻して「赤坂璃宮・飯田橋店」の初探訪記。 ハタのアラは「芥菜豆腐痩肉斑頭腩煲湯」、身は「麒麟蒸紅斑」となった「海斑両吃」に続いて、「脆皮手撕鶏」が登場。
 私、この料理初体験。いや、厳密に言えば、画像でも明らかなように鶏の皮はその色艶など実に見事。揚げた鶏の皮は見るからに「脆」、パリパリの状態。実際、噛み締めるとぱりっとした触感。まるで福臨門の看板料理である「(當紅)脆皮鶏」の表皮そのまま。

 しかしこの「脆皮手撕鶏」、揚げた鶏から皮をはがしてあります。それこそ、北京ダックさながら。北京ダックの家鴨を鶏肉に代えて窯焼きにした香港生まれ(?)の「片皮鶏」のサービスの仕方と同じ。その辺り、皮付きの鶏肉をが福臨門の「(當紅)脆皮鶏」と違います。

 鶏の丸揚げの皮の下の鶏肉、鶏肉を(大ぶりにですが)食べやすく裂いてあります。そうかそれで「手撕鶏」なのかと納得。「手撕鶏」といえば茹でた鶏肉の身を裂き、タレ、香味野菜で味付けした湾仔の「酔湖」の看板料理を思い出します。

 この「脆皮手撕鶏」。パリサクの触感の鶏の皮がうまい。しかも、噛み締めてしっかり歯応えのある厚みがあります。しかも、皮の裏の部分、皮の裏についた脂肪が皮の裏側を焼いていて、これがまた独特の味、風味を醸し出す。もっとも、北京ダックや「片皮鶏」の皮とは触感、味、風味が異なります。やっぱり丸揚げ、ってところが独自の味、風味を生み出してるんでしょう。

 鶏の身、その表面は少々乾いた感じ。ですが噛み締めるとすっと歯が入る柔らかさ。ですが、しっとり感と粘着質の弾力があり、なんてところも面白い。塩味、しっかり利いていて、鶏肉の旨さを引き出してます。
 考えてみれば鶏の丸揚げの「炸子鶏/脆皮鶏」の皮と身をそれぞれに味わう「脆皮鶏両吃」なんだと納得しました。

2010/07/07

夏味到来

 ちょい厄介な仕事を抱えていたもんで更新、滞りました。
 ここんとこ60年代から80年代にかけての洋邦の名盤の企画での選出やら執筆。そればかりか当時のアルバムのシリーズものの監修企画の話などもあって、昔の資料を取り出し、てんやわんやだった次第。ビートルズなんかも振り返ったりして。かといって懐メロモードてわけでもありません。
 
 そんな最中、6月の末に待望の「夏味」到着。埼玉県東松山の農業、加藤紀行さんの作った野菜です。武蔵地這胡瓜、青茄子、青唐辛子にじゃがいもがどっさり。
 梅雨明けはまだですが毎年、加藤さんの野菜がこないことには夏が来た!という感じがしません。しかも、昨年に比べて一月早い「夏味」の到着。
 春過ぎだったか、ここんとこ例年、夏の天候は不順続き。
 おまけに今年はアイスランドの火山噴火などもあって「冷夏になりそうで、上手く育ってくれるかどうか」なんて先行き不安な様子でした。
 それが今年はいつもより早くに「夏味」到着。
 「どうしたんですか?」  なんて尋ねたら
 「ええ、一生懸命がんばりました!」と、加藤さん。
 ン?いつもはそんなに頑張ってなかったってこと?

 嬉しいのは青茄子。こんなに早くに青茄子にありつけるとは思いもよりませんでした。
 こんなことなら青木さんに連絡して福臨門の広東料理の季節の宴、再開が楽しみ。なんて思ってたら
「そ、それは、ちょ、ちょっと待ってくれませんか。頑張って早く収穫できたんですが、それが、どうも収穫が安定してない感じなので。もう少し、様子をみてからの方が……」と、後ずさり気味な様子。

 武蔵地這胡瓜は、昨年、最初に届いたものと同様、真ん中の太いところは直径3センチぐらいありそうでうんと胴長。収穫遅れて、育ちすぎ、じゃないですか?なんて尋ねたら
 「いや、ほんと、そのままにしておくと、一日、一日うんと成長するんですよ。朝と夕方でも、太さも長さも違いますから。でも、今回はエージさんのお好きな「胡瓜のサンドイッチ」にするにはうってつけだろうと思って、わざと収穫時期をずらして、太く長いのをお送りしました!」
 なんて言われると、感謝、感激、ありがたい。

 ほんとイギリス式の胡瓜の胡瓜のサンドイッチを作るには、普通の胡瓜だと細すぎる。かといって加賀太胡瓜だと大きすぎる。育った武蔵地這胡瓜がうってつけ。ですけど、そだった分、ちょい大味気味なのは否めない。ですが、程々の塩を振りかけてしばし寝かせると、瑞々しさをとりもどし、旨味凝縮。香りが立つようになるのが不思議です。

 ウチのかみさん、胡瓜のサンドイッチには興味なし。
 「生で食べても旨味も香りも乏しいから・・・そうだ、胡瓜のナムル!」
 そんなことで、塩をまぶし香味野菜とごま油、それに仕上げに煎りゴマを振り掛ける辛味なしのナムルをどっさり。
 面白いことに、これまた胡瓜の旨味、香りがみるみるむくむく、正体を現します。ですから、胡瓜がうまくて、食べ飽きない。それに加藤さんの野菜に特徴的な大地に根ざした野菜の底力を見せ付けてくれます。たっぷり食べれば清々しくって気分爽快。体の毒気、全部洗い落としてくれるみたいで、気持が良くって、元気なります!とかみさんニコニコ顔。

 青茄子はもちろんタイカレー。グリーン・カレーです。
 青茄子使ったフクザツで手の込んだ料理は福臨門におまかせ。
 青茄子、緻密な肉質なのに、しっかり煮込んでも煮崩れない。旨くて、香り豊かです。

 そして、今回の最大のヒットは激辛の青唐辛子。生のままで辛味があたり一面!なんてくらい香り強烈。青々しい爽快な味、香りに悩殺されます。それを4~5本、刻んでニンニクと一緒に弱火で煎り焼きにしてアリオリ・ペパロンチーニ。もちろん、試しました。

 でも、それだけじゃ芸がない。いつもなら青唐辛子を微塵に刻んで醤油漬け。
 それよりも!と思いついたのがペペロン・オイル。
 エクストラ・ヴァージン・オイル一瓶に、生の唐辛子を刻んで漬け込んだ次第。
 普通は一月ぐらい冷暗所に寝かせれば唐辛子のひり辛味が生きてくる、なんてことでしたが、翌日、瓶のふたを開ければ、もうすっかりペペロン・オイル、辛味のある風味ありあり!しかも、日々、辛さをましていくのに思わずコーフン。

 でも、それだけじゃ物足りない。ってことで、柚子胡椒作りを思い立ちました。
 青柚子を買い込み、青い皮を擦りおろし、刻んだ青唐辛子に混ぜ合わせ、擂り鉢で塩を加えながら粘りがでるまですりすりこぎこぎ。
 ところが、青柚子の皮を擦りおろすのに、案外、手間取りました。おまけに擂り鉢ですりすりこぎこぎも、想像していた以上に手間取る作業。忙しい合間、柚子胡椒作りを思いついたのものの、それこそ寝る時間を惜しむことになるぐらい、時間くっちゃったりして。ま、仕事よりも食い気ですけど。

 出来上がった柚子胡椒。市販のものとは大違い。旨さもさることながら、香りの立ち方、その風味、全然、違いますから。しかも、味わいが自然ですっきり。唐辛子ふんだんに使ってるのに甘味がある。市販の柚子胡椒、成分みると唐辛子、柚子、塩ってことですが、なんだかそれ以外にいろいろ入ってんじゃない?なんて、疑惑の眼差し。それぐらい、自然な味、風味のある柚子胡椒が出来上がり。

 それでもまだ青唐辛子は残ってます。なんてことで、なんとか試みたかったアイデアを即、実行に移しました。青唐辛子を使ったラー油です。
 ところが、作り方がわからない。ネットでレシピを検索しても、食べるラー油の話題ばっか。
 みつけた!なんて思ったら、赤唐辛子の粉末、それに鷹の爪を使ったものばかり。
 青唐辛子だから、爽快な青々しさのあるラー油が狙い、だったのですが……。

 こうなりゃ、鷹の爪、赤唐辛子の粉末を使ったラー油作りのレシピをもとに、その作り方、プロセスを参考にしながら、青唐辛子に置き換え、いざ実践。
 油の中に少量の刻み葱、刻み生姜、刻み大蒜に、八角、丁子、陳皮を加え、油を熱します。その温度を見計らい、ここぞというところで熱した香辛料入りの油、刻んだ青唐辛子を入れた鉢に注ぎいれます。熱い香辛料入りの油を注いだ途端、泡吹き状態。それを冷まして油が入っていた瓶に刻んだ青唐辛子、香辛料共々戻しました。

 出来上がり早々は油の味、風味ばかりが際立つ印象。
 う~ん、失敗かな。やっぱり、青唐辛子に熱した油を注ぎかけるのは乱暴すぎたかも。
 青唐辛子の青々しい香り、風味、すっきり爽快な辛味、飛んじゃった感じ、とまあ、反省しきり。

 ところが、です。翌朝、小皿に垂らして舐めてみたら、最初は油の味。ですが、やがてかすかに、そのうちじんわり青さのある爽快なひりっとした辛味、風味が次第に立ってきました。
 お、やったかも!
 それから数日、寝かせて味見をしてみたら、爽快なひり辛、辛味を増した青さのある激辛の味がくっきり、はっきり。麻婆豆腐を作る際、鷹の爪、どっさり油で揚げて即席のラー油作り、なんて普段からやってる私ですから、それとは明らかに異なる味、風味を持つラー油だってことはわかります。しかも、日々、辛さをましていきます。その爽快な辛さがたまらない。
 いろんな素材と青唐辛子もラー油との組み合わせ、最高のマッチングを探索せずにはいられない。
 ここんとこ、毎夜の食卓に青唐辛子のラー油が登場です。