2009/02/28

閑話休題 TRAVIS FLOWERS IN THE WINDOW

 生ギターを手にしたフランがマイクから離れてステージの前にでて、生声でひとさわり。
 「ね(2階席の)後ろまで声が届いてる?」と声をかけ、反応があったのをみてとって、マイクの前に戻り「この建物ってすごくアコースティックがいいから、普段、滅多にやらないことをやってみたいんだ」と。

 「出来れば、静かに歌を聴いてほしいんだ。フィンガー・スナップはいいけど、クラッピングは勘弁して、声が届けられなくなるから」とフラン。
 そして、フランがマイクから離れてステージの前面に立ち、残るメンバー3人、プラス・サポート・キーボードを含めて4人がその後ろにずらりと並び、歌ったのが「FLOWERS IN THE WINDOW」。 フランがリードをとり、4人は肩を組んでコーラスに専念。

 わお、この歌を、こんな風にして聞けただけでも、トラヴィスの日本では10年ぶりのホール・コンサートに出かけた価値がありました。

 「世界中で~」なんて「花」にまつわるタイトルの日本の某シンガー=ソング・ライターの作詞、作曲、某大人アイドル・グループが歌ってヒットさせた曲を聞いたとき、実は思い浮かべたのはTRAVISの「FLOWERS IN THE WINDOW」だったのでありましたが、はてしてその関係やいかに。

 TRAVISはイギリスのグラスゴー出身のバンドで、フォーク的叙情の漂うメロディや演奏展開、目の当たりにする日常の光景や内省的観察の描写、歌詞展開が面白い。いかにもイギリスの地方都市に生まれ育ったロワー・クラスの若者が、アート・スクールでそのセンスに磨きをかけた、という感じです。  くったくのない奔放なナイーヴさをむきだしにしながら、同時に、繊細、デリケートな側面も持ち合わせている。

 レコードでは繊細で機微にとんだ表現はつかめても、ナイーヴな奔放さはさほど感じなかった。ですが、ライヴだと、そのナイーヴさが、よくわかりました。だからこそ、東京フォーラムのホール・アコースティックスの素晴らしさに刺激されて、マイク、PAを通さず、生歌とコーラスだけで「FLOWERS IN THE WINDOW」をと思いたったのに違いない。

 その装い、気取りがなくて垢抜けない。ロンドンのキャムデン・タウンで古着を売ってる兄ちゃんみたいな感じ。なんてところも、イギリスで人気を得た要因だったのだ、なんてことがよーくわかりました。

 TRAVISの10年ぶりのホール・コーンサート。とても素敵な一夜でした。

2009/02/24

パンにバターのその1

 先月NHK-BSの『世界のドキュメンタリー』で放映されたイギリスのBBC制作による『みんなロックで大人になった』。はたしてどれぐらいの方がご覧になったのか、実は同番組の日本版の監修を担当したこともあって気がかりだったのですが、いろんな方から「見たよ!」、「見ました!」との反応があったのでほっとひと安心。

 ロックの歴史を紐解き、その変遷、多様な変化を7回にわたって紹介したもので、イギリスのBBCの制作、ということからイギリスにおけるロックの歴史、その変遷が中心。

 ロックン・ロールはアメリカで生まれたもんじゃない?という疑問、突っ込みもありそうですが、「ロックン・ロール」ではなく「ロック」としてその誕生は「65年」だとし、ザ・フーの登場などを出発点として捉え、イギリス独自のロックが生まれた社会的な背景、また、アメリカのロックとの関わり、その源であるアメリカの黒人音楽のブルース、R&Bがイギリスのロックに及ぼした影響、アメリカとイリギスのロックの対比なども描かれていました。

 たとえば、ロックの源となったアメリカの黒人音楽のブルース、R&Bは、イギリスの労働者階級の若者にとって共感しうるものだった、というアニマルズのエリック・バードンの発言が物語るように、60年代初頭のイギリスにおけるビート・グループの誕生や隆盛の背景にあったもの。

 また「パンク・ミュージック」はそもそもアメリカに生まれたもので、反社会的、政治的であると同時に、芸術的な側面を持ち、知的でボヘミアン的な性格も持ち合わせていたのに対し、イギリスのそれは不況に陥っていた当時のイギリスの社会状況だけでなく、階級社会の存在と密接な関わりを持っていたこと。

 「ヘヴィー・メタル」の誕生の背景にはイギリスの重工業都市で働く若者に密接な関係を持っていたこと。それに様式美を持つに至る過程。また、アメリカにおける「ヘヴィー・メタル」、さらには「グランジ・ロック」、「オルタナティヴ・ロック」が、ロナルド・レーガンが実施した様々な政策が生んだ社会的なひずみと関わりがあったこと。

 日本ではビートルズ以来のポップ・ロック的ギター・バンドの台頭として受け止められるのがほとんどだったオアシスをはじめとするブリット・ロック、ブリット・ポップの誕生や台頭の背景にはイギリスのアンダーグラウンド・シーンやインディーズ、当時、それれまでにない不況を抱えたイギリスの社会状況や、そこでも階級社会の存在が関わりを持っていたこと。

 だからこそ「シガレッツ&アルコール」が親しまれたのだ、なんてことなどイギリスに生まれた独自のロックとイギリスの社会状況、ことに階級社会との関わりなど、これまで日本ではあまり触れられず、認識が持たれることはなかっただけに、「目うろこ」の事実を知った、なんて方も多かったようです。

 なんてことからすれば、日本のロックの歴史、その社会的背景との関わりを捉えながら、自分探しはおろか、まるで小学生の夏休みの宿題の絵日記みたいじゃん、という歌が大半を占める日本のJ-POPの現状を捉えたドキュメンタリー番組があってもよさそうなもんですが、せいぜい、日本のアニメが世界を制す!ぐらいのもんじゃないでしょうか。

 ともあれ『みんな大人でロックになった』は、そのうち再放送の機会もありそうなので、同番組を見逃した方は是非、ご覧ください。

2009/02/04

節分 恵方巻 丸かぶり寿司

 本日は節分。“福は内、鬼は外”の豆まきの日ですが、その前に我家では恒例の行事なのが「丸かぶり寿司」。うちのかみさん、朝からせっせと下拵え。昨夜から水に浸して戻しておいた干椎茸を煮込み、高野豆腐、干瓢を戻してだしで煮含め、さらには卵焼きを準備。三つ葉だけは、昨日、買い損ねていたので、私が駅前のスーパーへ買出しに。

 驚きました。駅前のスーパーではパック入りの「恵方巻」がずらり。近所のコンビニで「恵方巻き予約、受け付けます!」なんてのはここ何年来、見慣れた光景でしたが、今年の駅前のスーパーでの「恵方巻き」セールは尋常じゃない。思わず陳列ケースを覗いてみると「海鮮恵方巻き!」、「特製ずわい恵方巻き!」なんてのがずらりと並んでいたのに「ギョ!ギョ!ギョ」。おったまげました!

 「をいをい!“恵方巻き!”って、具は精進が当たり前、本来のものなのに、なんでこんなのがあるわけ?」。
 まさしく“恵方巻き!”ブーム(?)に便乗商売丸出しじゃないですか!

 ウチのかみさん、今日のラジオで聞いた話というのは、そもそも恵方巻き、30年ほど前に大阪の海苔屋さんの需要拡大キャンペーンがきっかけ、なんて話を聞いて“プンプン”。もしかしてその情報の根源は?と思い立ってウィキを調べたら、案の定、そんなことが記されてました。間違いなくラジオで流した情報、台本書いた若手の作家、ウィキからネタを頂戴しちゃったんでしょう。

 ウチのかみさん、父親が船場の生まれ、育ちですから、子供の頃、そうです30年前以上もはるか昔から、節分といえば“丸かぶり”。それも、“丸かぶり寿司”の具は玉子の厚焼き以外はすべて精進ものというのが先祖伝来の慣わし。というが“プンプン”の理由です。

 私は神戸の生まれ、育ちですから、“恵方巻き!”、“丸かぶり寿司”のことはうちのかみさんと一緒になるまで知りませんでした。ですが、我家の太巻き、かみさんの家の“丸かぶり寿司”と同じく、玉子焼きを除けば、具はすべて精進仕立て。

 ですから、東京にきて太巻きを食べた時、具はすべて甘辛仕立ての濃い味付け。おまけに“でんぶ”が入っていて甘味たっぷりなのに驚きました。もっとも、それはそれで面白くって、通いなれた寿司屋の親方にお願いし、江戸前仕立ての太巻きを特別に巻いてもらったことがあります。それが、なんともリッチでゴージャス!
 ですけど、我家で作る太巻きの具はやはり精進仕立て。














 太巻きを巻くのは私の役目。これまでは大甥っ子の信之介、彰之介の分やら、いろんな人におすそわけってことで、20数本ほど巻いたこともありますが、今年はささやかに夫婦の分だけ。といっても、3合のご飯で、8本ほど巻きました。

 それにしても、恵方に向かって太巻き一本丸かじり。それも、食べてる間は一言も発するのは厳禁ですから、押し黙ったままひたすら太巻きを食べ続ける。食べる方は必死ですが、傍から見たらそれは異様な光景!

 やっかいなのは三つ葉です。三つ葉は茹でた長いままのものをそのまま具にします。三つ葉を切っちゃいけないもんですから、しかし、それがなかなか噛み切れない。いつも三つ葉で苦闘する“丸かぶり寿司”。

 いつだったか “ねえ、理都子さん、お願いだから、三つ葉、食べやすいように切っておいてください!”  と懇願したのはあぐりさん。 けど、うちのかみさん“だめです。三つ葉は切っちゃいけないの!”
 その理由は?と尋ねても“だって、昔からそうなんだから!”と、うちのかみさん。
 けど、それにはなんか理由がありそうですね。

 毎年、長い三つ葉が食べにくい、という話で盛り上がりながら、どうして長いままなのかその理由はナゾのままです。
 そうそう、丸かぶりの寿司と一緒にやいた鰯を食べるのも慣わし。今年は千葉産のこぶりのかたくちいわしを入手。これが滅法旨かった。

 さて、これから、豆まきです。これが終われば、新年気分はおしまいと相成ります。