香港はイギリス、マカオはポルトガルの領地だったという歴史にも関わりのあることだ。いずれも住民の大多数を占めるのは広東系の中国人だ。 もっとも、香港では広東省東部の潮州から香港に移住した潮州系の中国人が多く存在し、香港島では上環から西環にかけて、九龍半島では九龍城市を中心に潮州人が住み着き、コミュニティーを形成してきた。その名残は今も残っている。たとえば、香港化された潮州料理ではなく、本場潮州の郷土料理を伝える店は上環と九龍城にしかない。
また、香港では上海系中国人の存在を見逃せない。戦後、ことに中華人民共和国の成立前後、上海から移住してきたもので、香港島では北角、九龍半島では尖沙咀に住み着き、それぞれ上海系のコミュニティーを形成していた。
さらに九龍半島の鑽石山には四川系のコミュニティー、香港島の北角には上海系の中国人と隣り合わせに共存する形で福建系の中国人のコミュニティーが存在した。
そうしたことからも明らかなように、香港は広東系の中国人が大多数を占めるとともに、中国各地の出身者も共存し、それらが混在した上で独自の中国人社会を形成してきた街だといえよう。
それに対し、マカオの中国人社会は広東人が多数を占め、中国各地からの移住者が占める割合は少ない。街ののどかさ、素朴さ、田舎っぽさ、いなたさも、そうしたことと無関係ではないようだ。地続きの広東省、それも、広州などに通じる特有の雰囲気、佇まいがある。
香港の高級料理店の上湯が、徹底的に旨味を追求し、濃厚なエキスを抽出し洗練をきわめているのに対し、「西南飯店」の上湯は、旨味、洗練を追求しながらも、穏やかで優しい。それも、どこか広州の高級料理店とあい通じるものがある。
街中の粥麺店なども同様だ。たとえば、雲呑麺のダシの味も、素朴でひなびた独特の味わい、風味がある。
今回、滞在したリスボア・ホテルのモーニング・ビュッフェに飲茶の点心、粥が麺があった。香港のホテルのモーニング・ビュッフェにあるものとは対照的に、その味わいは穏やかで優しく、独特の風味、香りを持っていた。そう、今回のマカオ旅行の最初の夜に食べた広東料理店の料理の数々と相通じるものがあった。