「大三元」、「南園」、「西園」、「文園」。
20世紀初頭の1910年代、広州で名店とされた4軒である。それぞれに代表的な名菜があった。
「大三元」は「紅焼大裙翅」、「南園」は「紅焼網鮑片」、「西園」は「鼎湖上素」、「文園」は「江南百花雞」で知られていた。
そのうち「南園」が香港に進出し威霊頓街に店を構えた。1920年代のことだったという。そして「南園」は「十大件筵席」を紹介する。
それまで香港の料理店、というよりも料亭の料理構成の主流をなしていたのは、これまでに紹介してきたように「八大八小」だった。そこに「南園」が「十大件筵席」を香港に紹介する。それを契機に多くの料亭、料理店がそれに追従し、やがて香港における宴会料理の基本的な構成になる。それは現在も受け継がれている。
当時、一般的に流行した「十大件筵席」は
「蟹肉魚翅」(蟹肉入りのふかひれ)
もしくは「雞蓉燕窩」(燕の巣と鶏のすり身の羹仕立て)、
もしくは「清湯魚肚」(魚の浮き袋の澄ましスープ仕立て)
「蠔油鮑片」(干し鮑の切り身のオイスターソース煮込み)
「片皮火鴨」 (家鴨の焼き物)
「油泡蝦球」 (むき蝦の炒めもの)
「紅焼山瑞」 (すっぽんの醤油煮込み)
「火腿拼雞」 (不明)
「風乾吊片」 (一夜干しのするめの炒めもの)
「清炖花菇」(干し椎茸の湯煎蒸しのスープ)
「清蒸邉魚」(魚の蒸し物、魚は桂魚と淡水魚の偏魚(ハクレン) )
「炸腰乾巻」(不明)
といった構成だ。 以上のうち「火腿拼雞」 は鶏肉の炒め物のあんかけに火腿を揚げたものを添えたもの、また、「炸腰乾巻」は、豚の腎臓を包み揚げだと思うが詳細は不明だ。
ともあれ、現在の香港の宴席で組み入れられる料理が大半を占めている。
また、ふかひれ料理の「蟹肉魚翅」だが、おそらく清湯仕立てで、当時の事情からすれば、とろみあんかけが施されていたものと想像される。
そして「南園」の「十大件筵席」だが
「紅焼包翅」(ふかひれの醤油煮込み)
「瑞靄連絲」(すっぽんとれんこんの細切り煮込み)
「大展鴻圓」(燕の巣の蟹みそ和え)
「珊瑚百花鴿」(蝦のすり身塗りの鳩の揚げ物)
「羽袖添香」
「玉液金雞」
「宣威掛爐鴨」(かまど焼の家鴨)
「禄海鮮蹝」
「蝶影梅花」(蝦のすり身塗り薄切り鮑、蟹みそあんかけ)
「全福壽」
といった構成内容だったという。
以上の内、「羽袖添香」、「玉液金雞」、「禄海鮮蹝」、「全福壽」についての料理の詳細は不明だ。
ともあれ、「十件」の中になかに「紅焼包翅」が含まれていることに興味をそそられる。