2007/02/28

蟹黄魚翅撈飯(34)

 桂林から広州に戻ってすぐさま、夜遅くまで開いているというので西貢に出向いた。海鮮料理を看板にする店が並んでいるところである。

 海鮮料理の店、料理を紹介してほしいとは編集部の意向のひとつでもあったから、前述の通り、広州に到着早々、地元の観光局の方の案内で目ぼしい店をチェックしていた。まず、日本の雑誌で紹介されている店は避けたくてパス。他に色々な店に案内されたが、今ひとつノレない。触手をそそるものがない。


 実際に調理の技術、味を見るには、試食しかないが、それ以前の段階でセンサーが働いて、潔しとしないのである。 実は、私、こと食に関して、観光ガイドやコーディネイターの言に耳は傾けるが、そのすべてを鵜呑みにはしない。自分の目、舌で確かめないと納得できない、という自己中心的わがままで困ったちゃんな性格の持ち主である。いや、慎重で頑固なだけなのだ、と自分では思っているのだが。


 香港の食事情調査、フィールドワークなどもそうである。これまで雑誌や拙著「香港的達人」紹介した店、料理は、ガイドブックを手がかりにすることもあるが、料理などは自分で探し出したものがほとんどだ。実際に足を運び、目、舌で確かめたものである。雑誌などで紹介するにしても、店に通い、馴染みになり、知己を得て取材を申し込む、という手順を踏んだものだ。中には取材を通して知己を得た店もないわけではない。


 取材にあたってはそれなりの準備をし、自分で料理を選択してきた。たとえば「香港的達人」で紹介した地方料理ごとのコースの設定、料理の選択は、すべて自分でやったものである。

 雑誌などで店、料理を紹介する際も、その選択は自分でやってきた。にもかかわらず、たとえば「香港的達人」など、読者の中には、通訳、コーディネイター氏にすべてをゆだね、おんぶにだっこ状態で取材、執筆したものと理解された方もいたようだ。ネットでそうした書き込みをみつけたこともある。それにはいたく失望した。


 どうやら「香港的達人」の最後に通訳を務めてもらった人々への謝辞としてその名を書き連ねたこと、その中にコーディネイターとしてその名を知られる人もいたのがその理由のようだ。

 現実は、あくまで通訳をお願いしてだけのことだ。しかも、実情を明かせば、通訳を担当してくれた彼らは、中国料理に関しては通り一遍な知識しか持たず、仔細な内容については、用語を理解することは出来なかったし、その実態などには詳しくない。素材、調味料、調理方法など、日本にないもの、紹介されてないものもあった。そして、素材の日本名、よりどころになる学名、さらに調味料のその内容、調理方法、など、知る由もない。それを日本に持ち帰って調べたのだが、資料は限られていた。香港や中国で入手した書籍ともとに、改めて日本で資料をあたる、といった作業を必要としたのである。
 それでも、通訳を務めてくれたことに敬意を表し、謝辞とともに彼らの名前を挙げただけのことだったのだが、それが、思わぬ誤解をまねくとは、思いもよらなかった。



 話を戻そう。どんな海鮮料理の店を取り上げるか、ということで実際に出向いてみたところ、香港資本が介入した店は、目新しさばかりが目立った。当時、広州で一番話題の店(として日本の雑誌に紹介されていた)にも行ったが、素材の扱い、調理がいささか香港のそれとは異なる。


 調理方法が違っても、料理そのものがよければも問題はないし、むしろ広州式香港風海鮮料理としての面白さをみつけだせるかもしれない。が、出来栄えを知るには試食する以外にないし、そのための時間、ゆとりもない。


 店を巡りながら海鮮素材の素材の扱い、その調理、味付けを聞き込んだ。さらに、メニューを丹念に調べ、どのような素材を扱った郷土料理があるか、ということをよりどころにした。

 太良/順徳の鳳城風味、もしくは、広州の羊城風味、郷土料理が充実し、しかもその店にしかないような特別な料理、珍しい料理があれば、やはり興味をそそられる。



 ようやく見つけ出したのが「多利來海鮮酒家」だ。白灼(湯通し)、清蒸(蒸す)、炒(炒める)、焗(蒸し焼きにする)などの調理方法、それに調味、味付けなど、海鮮料理の基本を押さえた料理があったこと。同時に、淡水魚、地元ならではの素材を使った料理があったこと。例湯(日替わりのスープ)はじめ、スープ類の種類が豊富で、伝統的な郷土料理の数々があったからだ。



 その夜、試食したのは以下のメニューだ
 「姜葱焗肉蟹」(青蟹の雄の葱、生姜炒め)
 「蒜茸中蝦」(蝦のにんにく味付けの蒸しもの)
 「豉汁炒海柱」(まて貝の辛味みそ炒め)
 「豉油王鮑魚」(とこぶしの醬油味の蒸し物)
 「紅炆花錦鱔」(大うなぎのしょう油煮込み)
 「清蒸紅斑」(はたの蒸し物)
 「蒜茸炒塘菜」(いぬがらしのにんにく味付けの炒め物)
 「例湯(塘葛菜煲生魚)」(いぬがらし、らい魚のスープ)


 ちなみに、塘菜とは塘好菜、どうやら「いぬがらし」にあたるようで、菊菜のような形状、味わいだった。
 
 以上、すべてOK、ということで、紹介するのはこの店にした。もっとも、実際に雑誌で紹介し、撮影する料理については、店の人と相談して再吟味、再検討。我ながらしつこくて、くどいと思います。が、今だにその性格は、変わらないようで、、、。