「京都炸醬麵」という麵料理がある。
旺角にある「好旺角」のそれが有名だ。蔡瀾さんが前出のブルータスの96年12月号での私との対談、さらに「香港美食大神」や、名前は逸したが幻冬舎から出ていたガイドで紹介されていたからご記憶の方もいらっしゃるだろう。
「炸醬麵」とはいっても「これは北方のそれとはまったく違う広東人の「炸醬麵」で、麵自体に歯応えがあってよい。柔らかい北方の麵とは違うのである」と、蔡瀾さん。けど、味については「炸醬が小さな皿に分けられて運ばれてくるので、甘すぎたり、から過ぎたりするのが嫌な人は、これを好きな風に味付けできる」としか触れられていないから、甘くて、辛い、ということが想像できるだけである。
ちなみに「好旺角」の麵は2種類。ひとつは幅広の辦麵風のもの、もうひとつは生麵である。他に蛋麵、また米でできた幅広ビーフンの河粉、細めの米粉などもある。蔡瀾さんの好み麵は、生麵のようだ。
確かに「好旺角」の「生麵」は腰があってうまい。もっとも「炸醬麵」との相性ってことになると「辦麵」も悪くない。 で、ここの「炸醬」の味、簡単にいえば、豚肉の甘辛炒め、ということになるのだが、その甘さ、辛さ、みその味がポイント、なのだ。
甘さは「酢豚」の甘さに近い。そう、酸味もあって、火を通した醋の甘味、旨味が感じられる。で、辛味だが、たとえば日本なら「(辣椒)豆板醬」とは味も風味もことなる広東風の「辣椒醬」の味、なのである。
もしかして、辛味味とみそ味を加味した「酢豚」のタレの味、という表現がわかりやすいかもしれない。酢豚ほどに酸味が利いていない分、みそのこくのある味、風味がする。
ともあれ、その甘さ、辛味、というのは広東人好みのもの。伝統的な広東料理にでも特徴的なものなのだ。だから、蔡瀾さんは「広東人の「炸醬麵」」と触れているわけである。
その「炸醬麵」、街中にある「粥麵店」、それも広東系の店、それに、中式西食を看板にする「餐廳」のメニューにあったりもする。ことに「餐廳」でのそれの、甘さ、濃さ、そのくどさ、しつこさを、試してみるのもおもしろい。そう、突然思いあたったのは、本来は薄味、さっぱり味好みであるのにもかかわらず、その対極に位置しながら、愛してやまない関西人の語る「コテコテ」に、通じるものだ。
そんな広東人好みの「炸醬麵」、ということであれば無視することができないのが、な、なんと、陸羽茶室の「京醬肉麵」なのだ! 画像は陸羽茶室の「粉麵飯品」のメニューである。