2007/03/26

閑話休題~マカオ・香港の旅(19)


 文藝春秋の臨時増刊号「黄金の10年へ」がこの22日、発売となりました。
 「夫婦で行く香港・マカオの旅」、ご高覧いただければ幸いです。
 ビジュアル主体なもので、執筆量にも制限がありました。それに、紹介した香港の店、香港リピーターにとってはおなじみの店がほとんどですが、メニュー、コース紹介はちょっとばかりひねり、工夫を凝らした。で、いよいよ発売となりましたので、これからは裏話など、ご披露したいと思っております。

 さて、前回の書き込んだ「潮興魚蛋粉」について、色々とご質問が。いきなり「旨いんですか、あの店?」という突っ込みに、思わずどぎまぎ。
 
 いや~、正直言っちゃえば、並の店、一応、アベーレージは保っているが、これぞきわめ付けってわけでもない。湾仔の軒尼詩道と盧押道が交差するあたり2軒あります。どうやらチェーン店らしい。一軒は軒尼詩道、「永華雲呑麵家」の並び、もう1軒は盧押道、軒尼詩道と荘士頓道の間、修頓運動場に面したところにある。

 金鐘や湾仔のホテルに滞在時、小腹が空く遅めの「下午茶」として、あるいは、夜の食事が満たされなかったりしさ際の「宵夜」、つまりは夜食目当てに湾仔探索を試みた時に見つけたものだ。

 ここで紹介したのは、メニューを見ればお分かりの通り、潮州系の「粉麵店」としては、品揃えが豊富で、味もそこそこだからだ。それに潮州式の「粥」、「泡粥」もある。ここまで品揃えが豊富な店は、香港でもなかなか見つけられない。

 たとえば「肉丸」。黒胡椒風味の「黒椒肉丸」、普寧地方風味の「普寧肉丸」、干し貝柱いりの「瑶柱肉丸」、魚の浮き袋入りの「花膠肉丸」の4種がある。
「牛丸」も、黒胡椒風味の「黒椒」、手打ちの牛つみれ団子の「手打牛丸」2種。

 さらに、魚のつみれ団子の「魚蛋」、魚のすり身麵の「魚麵」があって、いずれも手打ちだ。魚のすり身を広げて伸ばして巻いた「魚扎」は「潮安」風味。「魚餃」は汕頭風味。メニューを見ているだけでも、胸が躍る。潮州系の軽食類を知るには格好の店なのだ。

 もっとも、そうした魚のつみれ類、すみいかの団子の旨さ、真髄を味わうのなら、やはり香港仔の「山窿謝記魚蛋」でしょう。拙著「香港的達人」では、街歩きのガイドの香港島島巡りの中に、その店の紹介を忍ばせた。

 「謝記」の魚つみれ類の「魚蛋」、「魚片」は、すっと歯が入るしっとりした柔らかさがありながら、噛み締めるとしなやかな弾力がある。歯ざわり、噛み応えが良い。しかも、しっかりとした味わいで、風味もある。ことに「魚扎」は、しっとりした質感と味わいがある。店の看板料理で、香港中で評判なのもうなずける。
 他に「牛丸」、それに「牛腩」などもあるが、やはり目当ては魚のつみれ類。

 しかし、場所は香港島の南側の香港仔で、足の便が悪い。中環はじめ島の北側などからだと、タクシーかバスで出向くことになる。
 もっとも、ウチのかみさんは、香港仔の近くにファクトリー・アウトレットの集合ビルが出来て以来、その帰りに立ち寄るが楽しみになったという。そんな目的でもなければなかなか出かけられないのが難点だ。

 足の便ということであれば、もともとは、何文田の窩打老道にあったが、現在は油麻地の新填地街の駿發花園に場所を移した「夏銘記」が便利だろう。残念ながら私はまだ新填地街に移転後の「夏銘記」には行ったことがない。
 窩打老道にあった頃、旺角に出かけたついでに何度か立ち寄った。 雲呑麵で評判の店で、麵も、雲呑も旨い。が、だしについては、う~ん、ちょいMSG、ってか、化学調味料が入ってる?な、感じなのだが、決して悪くはない。
 それより、この店の雲呑麵を食べたとき、一緒に「紫菜」が添えられていたことから「あれ!この店って潮州系?」と、思ったのだった。

 それより、雲呑麵を目当てにでかけたのが、店のメニューには「魚餅」、「魚片」、「魚餃」、それに「魚四寶」まであるではないか。ということは、紛れもなく潮州系の「粉麵店」である。そして、雲呑麵に添えられていた「紫菜」こそ、水戸黄門の葵のご紋の印籠ではないが、潮州系であることを自ら宣言しているようなものだ。

 「夏銘記」は雲呑麵も旨いが、それにも増して魚のつみれ類が旨い。
 ここでも、生のものを茹でたもの以外に「炸」したものがあって、これが滅法旨いのだ。

 最初に「夏銘記」に出かけたとき、雲呑麵だけでなく「四寶」を思わず追加注文。その時、店にいたのは私だけだった。で、私のテーブルに「四寶」を運んできた主人と思しき人が「これをつけて食べるといいよ」と、指差したのは「辣椒油」だった。

 早い話が「辣油」である。くすんだような赤い色あいで、みるからに辛そうだ。実際、ヒリリとしている。さらに、唐辛子を油で焦がした風味がある。

 我が家で麻婆豆腐を作る際、熱した油(花生油)に、唐辛子をわしづかみにして放り込み、即席の辣油を作る。あのこげ味に似ている。「夏銘記」の「辣椒油」が気に入った私は、早速、一瓶、購入した。
確か「謝記」でも「辣椒油」を売っていたはずだ。
 そういえば「麻婆豆腐」。名著「食は広州にあり」を記された邱永漢さんが毎年開かれている誕生日会でお目にかかり、知己を得た東山堂ベーカリーの原田一臣さんから四川旅行のお土産に頂戴した「陳麻婆豆腐」の即席パック。
 豆腐、葉ニンニク、擂り潰した花椒を用意し、あとは手順に従って調理するだけ。これがかなりの優れモノだったのに、驚いた。しかも、この種の即席の素にありがちな味精はなし。その分、塩味がしっかり利いている。正直言って、塩分が苦手な私には強すぎる。
 もっとも、地元四川では、おそらくこの匙加減なのに違いない。チャイニーズレストラン直城の山下直城さんの話では、近頃、塩加減が薄めになったとはいえ、四川での塩味の強さは日本のそれをしのぐそうだ。
 
 ともあれ、この即席麻婆豆腐の素の味はしっかり、風味も豊かだ。日本の麻婆豆腐の即席の素(試したことあるんです、一応!)なんて足元にも及ばないぐらい、素晴らしい。なんといっても、香りが豊かです。
 豆腐以外に、茄子、それに、きゃべつ(もちろん、東松山の農業、加藤紀行さんのものなら、文句なし!)の炒めものに、使ったりもしてます。画像は、原田さんに戴いた即席麻婆豆腐です。