
「この自然な甘味って、蓮根の澱粉質でしょ?たっぷり濃厚で、風味があるのに、決してくどくないし、おしつけがましくないのね」
「甘味、旨味、こくは豚のタンからもたっぷりだね。豚の舌の脂肪分の甘味、旨味じゃないかな。豚のタンって、焼くだけじゃなくって、こうやってスープにすると旨味のあるだしがとれるんだね」
「それに牡蠣の味がする。メニューに書いてある「蠔豉」ってのがそれ、牡蠣を干したものです。それに「髪菜」も入ってる」
「このやわらかい髪の毛のようなものですね。これって?」
「ねんじゅも属の藍藻の一種、だったはず。陸モズクというか、いしくらげの変種だったと思います。草原などで繁殖してるのをかき集めて採取するんだけど、表土も一緒にさらっちゃうから環境問題にもなって、たしか、採集禁止にもなって、今では貴重品のはずですよ」
その「髪菜」、広東語では「發財」の発音と似ていて、その意は「財をなす」。それに干し牡蠣の「蠔豉」は「好市」の発音と似ていて、その意は「よき市場」、つまりは、好景気ってことですね。そんなことから「髪菜」と「蠔豉」を組み合わせた料理は縁起担ぎの一品として、春節、つまりは旧正月には欠かせないメニューです。
そればかりか豚の舌の「豬脷」の「脷」は「利」、つまりは利益、儲けがあるということに由来する広東地方独得の表現。それに「蓮根」も、丸い穴が通っていて先行きが明るい、なんて意味がある。