2008/10/13

広東地方の郷土料理シリーズ、遅ればせながらの2008年「夏の巻」の1

 昨年の夏に始まり、季節ごとの恒例行事となった広東地方の郷土料理シリーズ。クリエイティヴ・プランナー/ディレクター、デザイナーでもある青木さん、BMGのちょいわる親父こと藤原君を中心に、毎回、様々なゲストを迎えることになった通称「青木宴」ですが、今年の夏の巻、諸々の事情から8月には開催できず、9月に入ってようやく実現と相成りました。

 まずは素材の調達で難渋しました。
 たとえば旬の野菜。今年の夏、埼玉の東松山の農業、加藤紀行さんの各種の茄子、胡瓜の類はOK。ところがそれ以外に栽培を依頼した各種の瓜の類が今年は発育不全のまま、充分な成果を得られませんでした。加藤さんが作る野菜は、野菜そのものが自力で育つのを待つ。しかも、自然にまかせた栽培ですから、天候にも左右される。

 人間だって、野菜だって、同じ生き物。季節の移り変わり、気候の変化をそのまま受けとめ、生きている、育っていくんですから。そうです、地球の温暖化現象を肌で感じているのは、人間ばかりじゃない、ってことですから仕方がない。
 「育ってくれるのを待つしかないんです」と、加藤さん。

 そんなことから夏の旬の野菜の調達は、他に委ねるしかない。福臨門の夏の野菜を尋ねたところ、先に「夏の味」で紹介してきた時とほぼ変わりなし。「夏の味」で、最も印象に残ったのは「八寶冬瓜盅」。今のところ、今年であった美味では三陸シーファームの「ばふんうに」に続く、今年出会った美味、ナンバー2に揚げられます。 その理由は先に紹介してきたように、「昨年は沖縄でしたが、今年は愛知産のものでして。それに、下拵の方法を変えたましたので」とは福臨門の八尾さんの話(そうそう、八尾さん、福臨門を退職しました)。

 「青木宴」は季節の郷土料理、家庭料理が中心。そこに干貨素材を使った料理、宴会料理の華となる豪華な素材による「大菜」的な料理を組み入れるのが恒例です。ということでは「冬瓜盅」は、旬の素材、それに、宴会料理の華。しかも、具材豊富で正統的、オーソドックな「八寶冬瓜盅」もいいですが、具をふかひれだけにした「冬瓜盅魚翅」などは「青木宴」にはうってつけ。実際、青木さんに話を持ちかけたら、大乗り気でした。

 加藤さんの野菜でも、茄子は夏のお薦め料理の素材に使われてるってことで問題なし。「青茄子」と「加茂茄子」です。が、私としては加藤さんの今年の「真黒茄子」、例年と違って、煮込むと甘さが際立つのに惹かれていたこともあって、なんとか「真黒茄子」を素材にした料理を組み入れたいと思った次第。
















 問題はそれ以外の夏野菜です。「「白瓜」、「節瓜」があります。青菜では「莧菜(ひゆ菜)」がありますが」との話でしたが、「夏の味」で試した「莧菜」は、今ひとつ。

 「白瓜」、「節瓜」も、産地、配給元を教えられて思わず「う~ん」と唸りました。いや、他のところで食べる機会があって、なんだかいまひとつ。福臨門ならきっちり調理してくれそう。とはいっても、素材自体、香り、風味に乏しい感じ、だったもんで。生意気言ってすんません!

 それから、魚介類。夏らしい魚介、ということでは、これも「夏の味」で堪能した「老虎魚」があります。長崎から直送ものってことでしたが、その手配がなかなか厄介で、収穫次第とのこと。
 関西なら、地元で「夏のふぐ」として親しまれている「あこう」こと「きじはた」のいいのが入手できそうだ。揚げたり、煮込み物にするなんて、様々な調理が可能です。ところが、東京の築地に「きじはた」はありだそうですが、関西のそれに比べると・・・・なんてことで。

 それより、東京だと「あいなめ(あぶらめ)」の質が、安定してるように思えます。もちろん、私が出会った限りの話ですが、悪い印象を覚えたことがない。福臨門も銀座に開店当初、魚の料理は「あいなめ」を中心に扱っていました。後に、各種の「はた」の調達が可能になり、様々な調理方法で食べる機会がありました。

 もっとも、私自身の好みからすると、蒸し魚、煮込みの「紅炆」にしろ、「あいなめ」がベスト。というのも「きじはた」、「あずきはた」、「あら」、「くえ」とされる「はた」の類、香港のそれに比べると、生息する海が違うせいか、身が締まっている感じです。それが「あいなめ」だと、しっとり身が潤んでいます。蒸し物にしろ、煎り焼き煮込みにしろ、はらり、ほろりと身が崩れながら、しゅわっとした緻密な触感がある。そこんとこが私にとっては肝心なポイント、味わいところです。

 「あいなめ」を素材に、蒸し物の「清蒸」でもなく、煎り焼き煮込みの「紅炆」でもなく、他に何か出来ないか。なんていいながら、実は「あいなめ」を素材に、広東地方の郷土料理の料理手法の「油浸」、早い話が、唐揚げに出来ないのだろうか、などと思っていたわけです。

 「あいなめ」の調達が難しいってことなら、「きす」、「めごち」など、天麩羅でお目にかかる白身の小魚、根魚を素材にして、塩、胡椒風味で味付けにして煎り焼きにする「椒鹽」か、漬物の「冬菜」を使って、蒸して調理する、なんてのは出来ないのだろうか。

 とどのつまり、頭の中で大きく膨らむのは「九肚魚/てながみずてんぐ」のこと。
 詳しくは8月の「赤坂璃宮」の銀座店の2を是非ご参照を。 譚さんの頭にも「九肚魚」があったものの、日本では調達が不可能。なんか似たもの、置き換えられる魚ってことで、探しだしたのが「めひかり」だった。なんて風に、白身の小魚、小ぶりの根魚類を素材に、広東地方の郷土料理の再現をなんとか実現したい、ということで頭が一杯。かように、メニュー選び、コース作りは、私のなによりもの楽しみです。

 画像は昨年の暮れに食べた「はぜ」の胡椒、塩味風味の煎り焼き、というか揚げ物です。小魚を広東地方の郷土料理のスタイルで、という思いが募ります。