2008/06/24

「赤坂璃宮」銀座店の4

 嬉しいことには会議の仲間、会議の担当氏の誰もが、嫌いな物はなし。食への好奇心は旺盛です。
 たとえば仲間のひとりは「わ~、こんなの初めて!」 と、嬉々として、未知の味を恐れない。
 もうひとりは料理好きで料理への探究心も旺盛。それに、自分で料理するだけでなく「ハンバーガー」から「牛丼」までファーストフード事情にも明るく、ことに話題の「メガ」プロダクツの事情通。料理ってのは美味しいだけではなく、ビッグなメガサイズ、たっぷりの量があってこそ御馳走の必須の条件、という主張が頼もしい。

 なんせ洋食屋での会議の頃、メインの料理にピラフなどご飯ものの一品の「盛り」の量、「並」サイズの「普通盛り」から始まり、次第にエスカレート。「中盛り」を突破して「大盛り」に落ち着き、さらには「超大盛り」が慣例化!
  以後、店が変わってからもその慣例は受け継がれ、中国料理店での最後の締めくくりの面飯類は、会議のメンバーそれぞれに合わせた3種の「盛り」の登場が定例化。実は私も「並」サイズの「普通盛り」では満足がいかず、さすがに「超大盛り」までは行きませんでしたが、「大盛り」を注文していた次第。

 はたして「赤坂璃宮」の銀座店での食事の締めくくり。面か飯のはず。期待に胸を膨らませていたところに登場したのが、なんと「鹹魚肉餅煲仔飯」。


 それが、直径14~5センチほどの小ぶりの土鍋で調理されたもの。一人前用の土鍋で炊かれてました。

 ひとりに土鍋、ひとつづつ。香港でもこんな小さい土鍋は見たことがない。私は初体験。それだけまた、盛り上がっちゃいました。 が、まてよ、そうか、今日は打ち合わせ不足、言い忘れちゃって、最後のご飯は、皆、同じサイズ。ってことは、分量が足りない?

 「鹹魚肉餅」の肉餅は、豚のひき肉。しかも、慈姑(くわい)入り、ってのが(譚さん)憎い!
 さらに、塩漬け醗酵魚の「鹹魚」は、なんと「馬友」(っていうのが、ますます譚さん、憎い!)。
 塩味しっかり利いているだけでなく、風味抜群、強烈な香りがたまらない「梅香」もの。「鹹魚」好きにはたまらない。こたえられない逸品です。
 「鹹魚」といえば必ず引き合いにだされるのが「くさや」ですが、所変わればで、味、風味は異なります。

 「これが「鹹魚」?」。
 「肉餅」の上にのっかった「鹹魚」は、幅3センチ、長さ4センチ強ぐらいで、厚さは5ミリ程。
 「そそ!そいつをほぐして、肉もほぐして、ご飯にかき混ぜて、ほら、そのタレ、ね!
 「老抽」って、中国たまり醤油と、油とだし少々で出来てんだけど、そいつをかけて、ご飯に混ぜ合わせて食べる、って寸法。ほら、タレは、最初からたっぷりじゃなくって、加減しならが!」
 とまあ、ここでも小言ぢぢい(私です)は、いちいちうるさい。

 「「煲仔飯」って、要は炊き込みご飯だなんだけどさ(はふはふ!)、あぢ!
 日本の炊き込みご飯とかこの手の釜飯って、ご飯を出しで炊くでしょ(はふはふ!)?。
 それが「煲仔飯」は、ご飯と一緒に炊き込む下拵えして(はふはふ!)、 味付けした具材から出る汁やエキスだけなの(ホ~!)。

 う~ん、美味しいは、これ!
 あ!慈姑(くわい)! ほくほくの感じがわかるぐらいに切り分けられてて、いい感じ!
 肉だけじゃなくて、慈姑(くわい)を加えた、ってのが、憎いなあ(はふはふ!)。
 え、どこまで、話したっけ?(って、誰も聞いてなかったかも!)
 あ、そだ、素材の持ち味を生かす炊き方ってことです!」。

 「ね、この「鹹魚」って、この分量でもしっかりした塩味で、旨いねえ。これだけで、ご飯食べられちゃうぐらいだね!」。
 「うん、それって、全然あり! 旨い「鹹魚」があれば、ご飯、いっぱい食べられるから。
 けど、ほら、今日は、ひき肉と一緒に炊き込んだってことで」。

 それにしても「鹹魚肉餅煲仔飯」はビッグ・サプライズ。
 なんといっても一人用の小さな土鍋で、というプレゼンテーション、譚さんの見事な演出に脱帽!演出だけではありません。
 ほんとに、旨い。風味がありました。


    

 








 最後のデザートは、マンゴ・プディングはじめ冷たいデザートが4品、銀のトレイで登場。さらには「麻蓉芝麻球/黒胡麻あんの胡麻揚げ団子」も。 冷製のデザート、マンゴ・プディングに人気が集中、かと思いきや、会議のメンバー、選んだのはてんでばらばら。それぞれに個性的、と言いますか、しっかりした主張がそのまんま表れた、という感じで、本題の会議になだれ込み。食事が旨いと、会議も盛り上がります!

2008/06/22

「赤坂璃宮」銀座店の3


 「時菜油泡扇貝」、おまけに、添えられた四種の「醤」で、大いに盛り上がった後に登場したのが「黒椒炒和牛/和牛肉の黒胡椒炒め」。
 「ワッ! 肉! 牛肉じゃん、これ!」と、大盛り上がり。そうです。牛肉と言うだけでも、盛り上がっちゃいます。ですが、それだけじゃないんですよね。

 その味付け、調理、香港の広東料理ならではのもの。 香港の広東料理の定番的な料理、メニューのひとつに「中式牛柳」というのがあります。 中国風のフィレ肉のステーキ。訳せば聞こえはいいものの、かつて香港で牛肉といえば、日本のそれのように刺し(脂肪)が入った身の柔らかいものじゃなくって、農耕系の牛や水牛をつぶした硬い肉が中心。

 そんなことから、肉をいかに柔らかくして調理するか、という創意と工夫が凝らされた。それが、戦後、各国から輸入肉が到来。中でも人気を得たのが日本の牛肉だったことは言うまでもありません。が、値段は高い。 そこで、一般庶民にもてはやされたのが米国、豪州産の牛肉。中でも人気を呼んだのが、黒胡椒風味のステーキ。 最初は香港の洋食店で人気のメニューに。それが、広東料理店にも浸透し、かつての「中式牛柳」にとって替わるほどになりました。

 黒胡椒のひり味の利いた牛肉のステーキを噛み締め、戦後の香港の広東料理における牛肉料理の変遷を思い浮かべた次第です。

「赤坂璃宮」銀座店の2

続いては「時菜油泡扇貝/活け帆立貝と季節野菜の炒めもの」。 料理が綺麗ですね。「ヘイフンテラス」の黒服の女史に見せつけたいぐらい。

 












 あ、そうそう。過日、我が友人、久々に「ヘイフンテラス」を再訪。私も誘われましたが、生憎、一緒できず。友人の話によれば、黒服の女史いたそうですが、アテンドはしてもらえず。
 それより、旬の素材を使った郷土料理の種類が増えて、以前よりも幅広くなった様子。
 もっとも、肝心の味は、日本のホテル中華のそれで、風味に乏しいとか。以前、出かけた時の方が良かった、って話でした。
 噂によれば、キッチンの日本人スタッフ、いろいろ入れ替わったそうです。

 話、戻して、季節野菜は「芥蘭」。千葉で栽培したもの、なんて話でした。まずは人数分を大皿盛りでお披露目。そん時、貝柱の油泡と気づいて、すかさず「あの、一緒に「蝦醬」、「蠔油」も持ってきてね!」と念押し。
 お披露目があってから、小皿にひとり分づつ取り分けられた「時菜油泡扇貝」が配られるのに時間はかからず、同時に別のアテンドの女性がテーブルの上の円卓の上に「蝦醬」、「蠔油」だけでなく「辣椒醤」、「XO醤」をずらりと用意。

  その昔、「赤坂璃宮」の赤坂店でのこと。開店当初、譚さん、ホテル・スタイルのサービスを積極的に取り入れたものの、サービスの人々、料理に即した各種の「醤」類、用意するのを忘れがち。というよりその認識など無かった様子でした。

 譚さん、香港の最新流行を取り入れながら、抜群の料理の腕の冴えを見せて、繊細で上品な味付け。ですが、香港じゃ料理によって用意される「醤」の類、たとえば「油泡」の魚介には「蝦醬」、「蠔油」、鳩の焼き物の「脆皮焼乳鴿」や鶏の丸揚げの「脆皮鶏」にはレモン・ソルト、ウスター・ソースが、添えられないまんま。

 せっかくの譚さんの料理も、なんだか今ひとつ物足りない。譚さんの腕、最大限に魅力を発揮できないってことが、ままありました。
 そこで「あのう~、すんませんが~」と、恐る恐る「醤」の類を頼み、その登場を待ってる間に、他のメンバー、ほとんど料理食べ終わり状態、なんてことも。

 今ではそんな昔話とは比べ物にならないぐらい、ひとり分ずつ取り分けられた料理のサービスは迅速。各種の「醤」類もすぐさま登場。
 実に気分爽快、というか、それだけでも嬉しくなって、美味しさ倍増。

 「え~!こんなに「醤」類が並んじゃって! どうするわけ?」。
 「あ、これが、蝦の醗酵味噌の「蝦醬」。早い話、アミの塩辛みたいなもん。これがオイスター・ソースの「蠔油」。そのどっちかをちびっとだけ、貝柱につけて食べると、貝柱の甘味、旨味が引き立つ、ってワケ。
 ほら、貝柱はさっと油通ししてあって、火が通って、甘味、旨味が封じ込められてんだけどさ。
 そこで「醤」をちょびっとつければ、貝柱の凝縮した甘味、旨味、風味がますます引き立つ、って寸法。
 あ、ちょびっとだけね、つけるのは。タップリはだめ!」
とまあ、小言ぢぢい(って私ですけど)、いちいちうるさい!

 
ですが、私の話に最初「ン?」といぶかしがってた皆の表情が、食べてみれば満面の笑顔に豹変。「なるほど!」と、「醤」を添える。しかも、ちびっだけの効果を納得してもらえた様子。





 「で、この見た目辛そうは、どうなの?」。
 「えとね、ちょい濃い目、焦げ茶の色あいのやつね。
 「辣椒醤」ってことだったから、唐辛子の醗酵味噌。
 けど、四川のほら蚕豆と唐辛子で作った「豆板醤」とは違いますから。

 ちょっと味見してみると、普通の「辣椒醤」よりも、唐辛子の辛味がしっかり利いて、小麦粉などを混ぜ合わせた「桂林辣椒醤」のようでした。

 「で、これは、皆さんご存知の「XO醤」。 ほら、干貝柱がたっぷり入っていて、辛味もそうだけど、旨味、風味、抜群のやつ!
 ちょっと待って、味、先に試しますから!」
なんて、頼まれもしないのに、先に勝手に味見。

これが、なんと、干貝柱の旨味、風味しっかり、ばっちりでした。
「旨いわ、これ!」 と、皆のことをすっかり忘れて、私は夢中!

 「そんなに?」といぶかしがる面々。
 早速「XO醤」をまわしたところ
 「これ、めっちゃ旨い。貝柱につけるのも旨いけど・・・
 あの、ご飯もらえないかしらん、すぐに!
 ご飯と一緒に食べたいから!」
 なんて、皆な、私に負けず劣らず、わがままなんです!

2008/06/18

「赤坂璃宮」銀座店の1

 久々に「赤坂璃宮」の銀座店で昼食。充実したランチでした。

まずは前菜。 香港からやってきた焼き物「焼味」の師傳、梁さんの指導による「焼味」は、さすがに旨い。

手前が皮付きの豚のバラ肉を焼いた「焼肉」。 その後ろ、右から家鴨の焼き物の「焼鴨」、真ん中が地鶏の醤油漬けの「醤鶏」。奥には小さな器に「くらげ」。こり、ぽりの触感が堪らない。

 添えられているのは、青ずいきと小松菜。青ずいきは湯がいて、酢であえているような味。小松菜は生のまま。パリっとした触感でした。

 それに続いたのが「冬瓜瑶柱羹」。
 だしの味が素晴らしい。きっちり、丁寧で、緻密。しかも、奥行き、深みのあるしっかりした味わい。
 ふくよかでいて、がっしりした力強さがありました。

 総料理長の譚さん。細やかな感性の持ち主ですが、そのしなやかな力強さも再認識。
 「冬瓜瑶柱羹」にがつんとくる力強さを感じました。

2008/06/16

誕生日


ということで、15日、またひとつ歳をとりました!
ますます小言ぢぢいの一途を辿りそうで・・・・
とりあえずは、ご報告まで!

2008/06/14

閑話休題 鳥越祭の2


 鳥越の本社御輿の渡御で、一番の話題、見ものは、地元の「睦」、「宮元」による「宮入り」の道中を妨げ、本社御輿をつぶそうとする六尺一丁軍団殴りこみ、ってことになってます。見物の野次馬にとっては、面白くて、楽しみな「鳥越祭」ならではの見ものです。

 ですが、見物人がひしめく「宮入り」もさることながら、地元の「睦」による本社御輿の町内渡御の「宮出し」での厳かな風情が、実に味わい深い。眠い目をこすりながら、鳥越の本社の「宮出し」を目の当たりした光景は、いまだに忘れられません。
 私が鳥越でお世話になってるのは小島の越村さんち。
 小島の町会の睦で「今年、最年長になっちゃったよ!」って、満面笑みを浮かべながら、今年の鳥越祭でも大張り切り。越村さんのお世話になってから、もうどんぐらいになることやら。
 きっかけは川越の豆腐屋の小野哲に紹介されてからです。仕事の関係もあってか日曜の本社御輿の町内渡御しか参加できない豆腐屋の小野哲と違って、仕事なんかおっぽりだして御輿を担ぎたい私は、毎年、宵宮、翌日の町内御輿の町内渡御、本社御輿の町内渡御と、すべてに参加。

 御輿担ぎの合間には、越村家の居間に居座り、飲んじゃ喰い、眠くなれば「あ、すんません、眠いんでちょっと」と、越村家の2階でごろ寝、という遠慮がなくってあつかましいマイペースな御輿担ぎおたくです!
 そんな越村家の鳥越祭の日々、入れ替わり立ち代り訪れる人々の顔ぶれが面白い。
 まさしく新年の賑わいそのままです。
 まずは、越村さんの長兄の島倉さん。日曜日には息子のしょうへい君夫妻が加わります。普段なら板橋の次兄のお兄さんご夫妻も。ですが、今年は体調を崩されて欠席。そこに、なんでだかいつのまにか私が居座ってます。しかも、居間に上がってすぐ左、TVの前というのが私の定席。
 
 それを迎えるのは越村さんのおかみさん、息子のこうたろうさん。が、今年は、おかみさん体調芳しくなく、おまけにこうたろうさんも仕事で出張。そこで、大踏ん張りなのが、長女のくみこさん。関西弁がペラペラで、私との会話は、いつもツッコミとボケの間柄。まるで漫才をやってるみたいと言われます。

 そこに越村さんの町内の睦の面々がやってくる。その大半が、どうやら越村さんが鳥越祭りの日々に作る「おでん」目当ての様子!
 越村さんちの「おでん」は、祭りの前日から昆布を水出しにし、鰹節を加えて作った出しが味の要。
 それから二番だしを作ったり、水出しにした昆布も無駄にせず、割いて、結んで、おでんの種に。
 おでんの種の練り物類は、実は、四国の今治の桧垣かまぼこに依頼して送ってもらったもの。そこに東京ならではの具種、卵、こんにゃくなどを加わります。ちなみに、今治の桧垣かまぼこは私のお気に入り。簀巻きの「鶴姫」の素材の持ち味がする飾りのないピュアな美味が好みです。関西では「てんぷら」と称する具種に工夫を凝らした各種の練り物類の素朴でピュアな味もグッド。
 祭りの前日から出しを仕込み、大きな鍋一杯に盛り沢山の具種を入れて、煮込んだ越村さんの「おでん」は、越村家を訪れる人々の間では評判のもの。
 「今年の出しの塩梅、どうかな~」
 と、いつも決まって、最初は不安気な表情の越村さん。
 今年はおかみさんが不在のため、くみこさんが、味見の手伝い。
 「もう、忙しいのに何回も何回も、「(出しの)加減どう?」なんて、しつこくしつこく聞かれて!」と、呆れ顔のくみこさん。
 もっとも、じっくり煮込んで時間がたてば、出しもいい塩梅になって、具種のどれもが食べ頃。
 一口食べて、誰もが「美味しい!」。
 その一言で、越村さんもにんまり。
 中でも人気のあるのが「たこ」。これが実に美味。
 誰もが「たこ」の美味を知っていて、「たこ」が入ると、みるみるなくなります。
 その「たこ」を目当てにやってくるのが、米屋の都築さん。今年はおかみさんも一緒でした。
 それから、越村さんの隣人で、びく抜き、つまり紙の打ち抜き加工をやってらして、とあるオーケストラのトランペット奏者でマネジャーも務める小島さんはじめ、町会の睦連の方々が入れ替わり立ち代りやってきます。

 そして、越村さんちで知り合ったのが、勅使川原さん親子。
 娘の恵美さんの御主人はリヴァプール出身で日本で英語教師を務めるスティーヴン。弟のリチャードがやってきたこともありました。現在は、リヴァプールのビートルズ・ミュージアム勤務。

 今年は、そこに越村さんの町会の睦仲間の松下さんの娘のえみさんが、リヴァプールに留学中に知り合ったボーイフレンドのマイクと一緒にやってきた。
 それに、ここ数年、私が御輿に引っ張り込んだ甥っ子が、仕事仲間でヨークシャー出身のサイモンを連れてきた。
 さらには、スティーヴンの知り合いで、リヴァプール出身で名前の似たスティーヴが加わった。

 今年の鳥越祭の越村家には、イギリス中部の出身者がずらり。
 例えれば、宮城出身の3人に岩手の出身者が加わり
 「おめえ、あそこの在、なのが~?」
 なんて感じで 地方訛りむき出しの英語が飛び交う有様。結果、スティーヴとマイクは同じ学校の出身で、先輩、後輩の間柄だった、なんてことも判明!
 
 イギリスから遠く離れた極東の地で、出会った4人の盛り上がりようは、尋常じゃない。英語の訛り具合は一気にエスカレートし、4人はなお一層、早口でまくしたてる。
 ですが、越村家の居間に居合わせた4人以外、何が何だかわけがわからず、目の前を飛び交う異国の言葉に、誰もがあっけにとられ、ポカーン状態。通訳を買ってでようにも、訛りがすごくて手に負えないもんで(なんて、ごまかしたりして!)
 実は越村さんち、毎年、国際色豊か。異国の人がなんでだか、越村家の居間にいるのが面白い。
 なんせ、かつてはアラブの某国の大使もやってきた、とまあ、毎年、鳥越祭の日々の越村家はインターナショナル。

 スティーヴンと恵美さんには、長男のショーン/翔音と長女のカナ/可奈ちゃんの二人の子供。
 ショーン君、日本語をあまり話す機会のない父親のスティーヴンの通訳を務めてくれるのが頼もしい! それに、鳥越の生まれ育ちの恵美さんの血をついで、祭り、御輿が大好きで、祭りの間は鯉口に股引姿。
 
 おじいちゃんの勅使川原さん、ショーン君のそんな姿が可愛くてたまんない様子。
 そんな二人が並んで太鼓の山車を押す画像を、恵美さんが送り届けてくれました。

2008/06/10

閑話休題 鳥越祭の1

あ~あ、終わっちゃいました、鳥越祭。

5月の三社、6月の鳥越は、私にとって一年を通して最大のイベント。その 三社と鳥越、それぞれに味わい、雰囲気、風情が違います。

「三社なんて、観光化された祭、だもんな」なんていう人もいたりしますが、私はそうは思いません。確かに三社には独特の華やいだ雰囲気があるのは事実です。

 それより、三社と言えば「宮出し」のことばっかりが話題になって、三社祭を取り上げるマスコミの報道もそれ一辺倒。もしくは、例年百万人を越える、とか言われる三社目当てに浅草に訪れる観光客の人数や、浅草神社から出て町内を渡御する三つの宮御輿のことばかり。

 もちろん、本社の三つの宮御輿の渡御は特別なもんです。それがあってこその三社祭です。が、三社の本社の御輿渡御の真髄は「宮出し」よりも、おごそかな雰囲気に包まれ、遠い昔の時代に舞い戻ったような錯覚に陥る「宮入り」にこそあり、というのは地元の人々の多くが語ること。

 それに、町内ごとにある御輿の町内渡御も和やかで楽しい。 私が世話になってる雷門中部は、土曜、日曜の両日の町内渡御では、浅草神社、浅草寺にまで繰り出します。その間、宝蔵門や雷門の潜り抜け、仲見世の通り抜けは、担ぎ手にとって興奮とスリルを覚えずにはいられない美味しいスポット。

 宝蔵門や雷門では、御輿担ぎの掛け声が、わんわん響いて耳に届き、興奮を覚えずにはいられない。担ぎながら門を潜ってこそ、味わえるもの。仲見世の道中も、掛け声がわんわん鳴り響いて耳に届きます。それも、担いでいるからこそ、味わえるもの。 それに、三社のそれぞれの町内の人たちの楽しみ方も和気藹々としていています。

 鳥越の人たちの祭りの楽しみ方も面白い。格別な味わいと独特の風情があります。
 三社の華やかさや粋な趣とはいささか違い、気取りが無くって、ざっくばらん。
 実にくだけていて、人情味にもあふれていて、ぐっと庶民的。

 もちろん、地元の人たちにとって鳥越祭は日常の「ケ」ではなく、まさしく「ハレ」の日々。
 それを象徴するのが、鳥越の祭り、御輿を扱ったカレンダー。
 その始まりは、なんと6月。すべては鳥越祭から。
 なんてことからも明らかなように、鳥越祭のある6月、鳥越祭の日々は、地元では新年、正月というにふさわしい。ですから、地元の人の祭りの楽しみ方は、新年、お正月の楽しみにも似ています。 町内ごと、家ごとに、それぞれの楽しみ方があるようで、そのひとつひとつを覗いてみたくなります。

 玄関のガラス戸を大きく開け放ち、玄関のたたきや上がり座敷に、あるいは日頃、車を置いてある駐車場のスペースに、テーブルや床机座椅子を並べてあります。
 玄関前にテーブルや椅子を持ち出して並べるなんてのもあって、その様相は家ごとにまちまち。
 中にはビール壜のケースに板を渡しただけの簡単なしつらえ、なんてのもあってほほえましい。

 そんなテーブルの上は、ビールにお酒、各種のつまみ、とっておきのご馳走や、なんてことない日常のお惣菜の類で埋め尽くされてます。
 一軒ごとに立ち寄って、片っ端からテーブルを埋め尽くすつまみや御馳走の数々を、全部味見をしたくなる衝動に駆られます。  

 さて、今年の鳥越の本社御輿の渡御。
 今年の三社では本社の渡御が中止。
 日頃、浅草神社から仲見世の町内に本社の三つの御輿が受け渡しされるまでの間、地元の氏子連に混じって、近隣の各地から馳せ参じた面々が御輿に群がり、浅草神社、浅草寺の境内をあっちこっち。そして三つの本社御輿がそれぞれの町内に受け渡される、というのが三社の「宮出し」。

 そんな三社の「宮出し」が、今年は本社の三つの宮御輿の町内渡御が中止ってことでありませんでした。そんなことから、近隣の御輿好きの連中が鳥越の本社御輿の町内渡御や「宮入り」に集結、なんて噂が鳥越祭の始まるまでに飛び交ってました。

 鳥越の本社御輿といえば、三社の宮出しとは対照的に、町内渡御を終えた本社御輿が鳥越神社に収められる最後の儀式、地元の「睦」、「宮元」による「宮入り」の道中が、話題を集めてきたもんです。

 というのも、「宮入り」の道中の際、それも「宮元」の道中を狙って、各地からやってきた六尺一丁の軍団が本社御輿を落とそうと襲い掛かる。地元の「睦」や「宮元」にとってははた迷惑で厄介この上ないことなんでしょうが、見物人にとっては最大の見物。しかも、御輿が落とされる場所は、毎年、あっちこっちと変わるもんで、そのやりとりが見られる場所を狙い定め、見当をつけながら見物の場所を陣取る、なんてのも楽しみです。

 そんなことで、例年、鳥越祭の本社御輿の「宮入り」には、見物人がびっしり! そんな見物人の合間に、出番待ち?の六尺一丁の兄ちゃん、おっちゃんが、ひそかに紛れ込んでいたりします。 鳥越祭の本社御輿の「宮入り」ならではの光景です。

2008/06/01

春の春の広東地方の郷土料理の14

「青木宴《春編》」もいよいよ大詰め。
 本格的な宴席なら魚料理で《結》ですが、気の置けない仲間同志の食事ですから、食べたいもの、美味しいものはコースのど真ん中までに。

 そういえば、今回、魚介は「えび」も「魚」もなし。「蛤」だけでした。「えび」はあっても、すり身で鶏との組み合わせ。小魚や根魚などがあれば「椒鹽焗」、「蒜茸蒸」、あるいは「油浸」などの料理を組み入れたのですが。なら、口も変わって別の展開になったかも。

 地方に行けば、土地ごとに面白い地魚があって、そういうのに出会うたび「これ、広東地方の郷土料理、家庭料理の調理、味付けで!」なんて思うことが、しばしばです。しかし、東京での調達は難しい。
 東京に集まる魚のほとんどは、一般的に親しまれた高級魚や大衆魚が中心です。いや、築地に行けば、地方の魚も探せばあるそうで。 今度、張さん、袁さんと築地ツアーを敢行してみようかしらん。

 その代わり、今回は、豚の内臓料理が充実。川越の「はぎちく」の岸さん、福臨門のキッチン・スタップのおかげです。 ほんとにお手数かけました。なんでも、このブログ、ご覧の方から、内臓を使った料理についての問い合わせもあったそう。内臓を使った料理がお好きな方、案外、多そうで、皆、その登場を待ってらした様子ですね。

 そんな話を耳にすると嬉しくなります。 もっとも、今回はともかく試し、ってことで福臨門のキッチン・スタッフに無理をお願いしました。日本ではお目にかかれなかった料理にも出会えましたが、解決が必要な課題も続出。そんなことから、お勧めの料理として紹介されるのには、しばし時間がかかりそう。 広東地方の内臓を素材にした料理の数々の美味、早く多くの人と分かち合えるようになればと、願ってます。

 そして、締めくくり。麵か飯。
 今回は豚の内臓類が豊富にあり、ってことから豚のレバ、ハツ、ガツ、十二指腸、子袋など、内臓類をふんだんに具にした「及第粥」はいかがでしょう?という提案もありました。

 「え!福臨門で「粥」?」なんて言われそうですが、あります。
 香港の九龍店ではメニューにちゃんと5種、紹介されています。
 それ以外の「粥」、どんな内容のリクエストも可能です。
 もちろん、「白粥」だけの注文でもOKです。

 お昼時、新界の大哺あたりに工場があって、九龍店にお昼を食べにやってくるお偉いさんのほとんどは、飲茶の点心などには目もくれず、例湯、小菜何品に、「粥」なんて組み合わせ、珍しくありません。
  残念ながら、日本の福臨門の各店では事前の予約が必要なようですが、頼めば「粥」を作ってもらえます。

 そんなことから「及第粥」には大乗り気。今回のコース内容の締めくくり、最後の「決め打ち!」にはうってつけ。
 ところが、青木さん経由で、新参加の海津さん 「カレー味がことのほかお好き。カレーの炒飯などありますか?」 というリクエスト。
 その話に、私もぐらっと気持が傾きました。
 カレー味の炒飯、といえば、一昨年の秋ぐらいから銀座店はじめ、日本の福臨門の各店で、お勧めの炒飯として紹介されるようになった「香港風カレー炒飯」。機会を逃して食べ損ねていたからです。

 「香港風カレー炒飯」、中国語の表記は「摩囉鶏粒炒飯」。
 「摩囉」というのは、唐の時代、交流のあった北アフリカの回教徒のムーア人に端を発し、他方、かつての広州人がインド人を「摩囉」と称していたことにちなんでのこと。つまりは「インド風」ということですね。カレー味だからインド風。

 福臨門のブログによれば福臨門の徐維均さんがケイタリングをやっていた時代、顧客からドライカレーを食べたいとリクエストがあったそうな。
 「中華料理しか作ったことのない社長は考えた末、あるホテルのビュッフェでだされていたドライカレーをもとにこのカレー炒飯を考案。レーズンやアーモンド、パンが入った独特の食感と食欲をそそるカレーの香りが今でも沢山のお客様に好まれています」と紹介されてます。

 「今でも沢山のお客様に好まれてます」って、一昨年の秋、銀座のメニューで見つけるまで、私、その存在を知りませんでした。
 ほんと、世の中、知らない事だらけです。歳をとれば取るほど、それを実感。
 って、また話がずれそうで。

 この「摩囉鶏粒炒飯」、かなりのもんです!
 美味、それに、風味が豊か!
 まずはカレー味、風味が興をそそります。 初めて食べるのに、なんだか懐かしい味!
 カレー味のせい、ですね。
 そればかりか、ドライ・レーズンの甘さ、アーモンド・スライスの香ばしさ、風味が、エキゾチックな雰囲気を倍増する。














「あ、そうだ!」と、突然思い出したのは、赤坂、TBS会館の地下にあった「TOPS」のレーズン、ナッツ入りのライスで食べるカレー。
 カレーそのものは、食後にはもたれる感じの重さ、くどさだったのに、レーズン、ナッツ入りのライスで食べてる時は、なんだか爽快な美味。
 あれをドライ・カレーにしたら、こんな感じ?なんて、思いました。

 くどさ、しつこさがなくって、重くもない。(ついでに「みかけと違って、食べるとさっぱり!」なんて書こうものなら、ほらほらTVのグルメ番組、ワイドショーのグルメ案内の「食べタレ」こと「○○タレ」と、同じになっちゃいますが、うん、そんな感じ!  あ、いけない、私も似たようなもんか!)

 徐社長がケイタリング時代に考案、という話にもくすぐられます。
 実は、今回のみならずこれまでの「青木宴」に登場してきた料理の多くは、「福記」をきっかけに、主に上流階層の顧客を抱えるケイタリングの専門店として始まった福臨門の歴史で、伝統的な広東料理を継承すると同時に、顧客からのリクエストに応じ、独自の創意、工夫を凝らしたもの。

 その背景に、香港の、それも戦後の香港の歴史が覗いて見える、ということに興奮を覚えずにはいられません。

2008/05/31

春の広東地方の郷土料理の13~空芯菜のえびみそ風味炒め

 宴もたけなわ。終盤を迎えて野菜の料理です。
 この時期、って4月でしたが、どんな野菜がありや、なしや。
 福臨門に尋ねたら「韮菜花」、「通菜」、「白露筝(白アスパラガス)」、だってことは以前にも触れてきた通り。けど、やっぱり食べたいのは芥菜胆、芥子菜の葉を落とした軸の部分を上湯で煮浸しに、それとも、蟹肉のあんかけで食べたかった。ですが、日本での調達は難しい。

 花にらの「韮菜花」にも興味をそそられつつ、結局「通菜」、茎が空洞になった「空芯菜」の炒め物に落ち着きました。
 とはいえ、大蒜、唐辛子、醗酵豆腐の「腐乳」、えび(というかアミ)の醗酵味噌の「蝦醬」で味付けするか。
 そこで「蝦醬炒通菜」に決定。

 「通菜」は、少しばかりほろ苦くって、えぐ味もある。葉は柔らかいものの、茎というか軸の部分は空洞があっても、肉厚というか、普通に火を通すと、しゃり、しゃき感がある。

 香港に限らず東南アジアの各国で、日常的な野菜として定着。大衆食堂や屋台店での青菜の炒め物、といえばほとんどがこの「通菜」。近頃日本でもスーパーで売られるぐらいに幅広く浸透。家庭の中華の惣菜のメニューに加えられることも少なくないようです。

 ともあれ、この通菜の炒め物、調理にしろ、味つけにしろ、「あん時、あそこで食べた「通菜」が旨かった!」と、それぞれの体験に即した嗜好が絶対的な価値感を植えつける、という厄介な側面もあります。
 「あん時の味を、日本の料理店でも味わいたい!けど、なんだか違うなあ?」
 ってことからスーパーで「空芯菜」を買い込み、「あの味!」に自ら挑戦、なんて人も少なくないはず。

 しかし、家庭で調理する際、香港や東南アジアの大衆的な店や屋台店ほどの大きな鍋や強い火がない。 そんなことから、葉も茎も一緒のまんまに炒めることはあきらめて、葉と茎は選びわけ、茎を先に炒めて火を通してから、葉を入れる。 あるいは、茎の切り方に工夫を凝らし、言わば隠し包丁を入れて、葉と茎を一緒に炒め合わせる、なんて、工夫を凝らす人もいるようで。

 そうそう、2年前のdancyuの10月号、「香り立つ旨い中華は、「板」と「鍋」で成り立っている」で、あの東京ミシェランで一つ星獲得、「桃の木」の小林武志師傳にその実践講座をお願いしました!

 はたして福臨門の「蝦醬炒通菜」、以下の画像が、その洗練の美味を伝えてくれるはず。














 やっぱ、ランニングシャツに短パンのおっちゃんが、飛び散る汗まで味付けにして、一気呵成に炒め上げた東南アジアの屋台店のそれや、「あん時のあの味!」を求めて工夫を凝らしたそれとも違います。 顔つきの見事さが、その美味、旨さ、風味の豊かさを物語ってます。

 葉と茎(軸)は切り離さないで、原型のまんま。
 葉は葉の味がする。さらに、見事なのは、茎(軸)。しゃき、しゃり感を通り越し、くたっとした柔らかさがある。しかも、味、風味があり、だしの味が、最後にふっと浮かび上がります。

 日本の中国料理店で、一般的、にはなんでだか、茎(軸)にしゃき、しゃり感があるのが普通です。
 それって、日本人の一般的な青菜の葉、さらに茎(軸)の炒め物の触感の嗜好、しゃき、しゃり感の歯応えがあってこそ、というのにも関係あってのことでしょう。
 葉はともかく、茎(軸)は、しゃき、しゃり感があるのが一般的で、圧倒的。

 ところが、香港、中国あたりでは、葉は葉の味、ことに「通菜」などは、青み、ほろ苦さ、えぐ味を残しながら、茎は火が入り、しゃき、しゃり感の一線を越えて、むしろくたっとした柔らかさのあるのが普通です。茎(軸)の筋が立たない、柔らかさ、ってことになります。福臨門のはまさにそのくた感あり。
 それって、イギリスのくたくたに煮込んだ野菜の煮込みのぐちゅぐちゅ、ぐじょぐじょ感や、噂に聞いたイタリアの青菜やキャベツのとろとろ煮込みにも通じる世界かも。

 おまけに、味付けの「蝦醬」。
 ふっと鼻先をかすめ、さらに、口に入れ、噛み締めて喉の奥から鼻に向けて、その味、香り、風味が立つ、という按配です。
 話に夢中だと、すっかり「蝦醬」の味付けだったことを忘れ、噛み締めてみて
 「あ、そか!、これ、蝦醬で炒めたやつ」  と、気づくような次第。

 そうなんです。
 日本の中国料理店、ことにオーナー&シェフの店、それも新進気鋭の若くて熱意溢れる料理人による青菜の各種の風味の炒め物。そのほとんどが、なんでだか青菜の持ち味、葉と茎(軸)の味の差異なんかほとんど無視。 大蒜や唐辛子をふんだんに。それに「「蝦醬」、「腐乳」の吟味には凝ってます!あ、XO醤も自家製のがありますので!」とばかり、自慢気に調味料理をふんだん使って、素材よりも調味料の味アピール。
 それって、なんか、へん、ですよね。

 しかも、そいう味つけ、素材よりも調味料の味が立っている青菜や野菜の炒めものを、料理評論家、フードライターの方々が絶賛!なんてことが、少なくない。 濃い味、調味料の味が立ってる方が、確かに味がわかりやすいってことなんでしょうけど。
 それって、素材の持ち味は無視、ってことに気づかないんでしょうかね?

 あ、また、余計なこと言っちゃた!

2008/05/28

春の広東地方の郷土料理の12~蛤蜊燉蛋/はまぐりと溶き卵の蒸し物

  「蛤蜊燉蛋」、はまぐりと溶き卵の蒸し物。
 早い話が、蛤の茶碗蒸し仕立て、中華風の茶碗蒸し。

 福臨門の春のメニューの素材にはまぐりがあるを知り、一体どんな調理、味付けなのか尋ねました。
 私にとって、広東料理のはまぐりの料理と言えば、黒豆みそ炒めの「豉汁炒」、あるいは大蒜や葱の微塵とともに蒸した「蒜茸蒸」など、海鮮の魚介に共通した調理、味付けの料理です。それがにんにく風味、春雨との蒸し物の「金銀蒜粉絲蒸蛤蜊」があったのに興味もそそられました。

 ですが、私、はまぐりは酒蒸し、もしくは、椀物が一番の好みという頑固な保守ぢぢい。
 そうだ、中国料理ではまぐりの料理といえば、はまぐりからでるだしに溶き卵を加えて蒸した「蛤蜊燉蛋」。

 もっとも、香港では上海系の店で食べたことがありますが、広東系の店で食べた体験はなし。
 そんなことから上海系の料理と言う認識がありましたが、福臨門にリクエストしたら、福臨門でもやれます、やってます!という返事。

 そうか、なら、もしかしてそれは広東式、もしくは、福臨門式の「蛤蜊燉蛋」に違いない!
 そうにらんで、今回の「青木宴《春編》」に組み入れた次第。
 実は今回、「江南百花鶏」とともに、最初に選んだ料理の一品です。

 「蛤蜊燉蛋」といえば、思い出すのが蔡瀾さんの「香港美食大全」での、「大上海」における同料理についてのコメントです。
 蔡瀾さん曰く、香港でも「蛤蜊燉蛋」を出す店が少なくなった、なんて話を紹介しながら
 「但し、日本人を接待するときには、絶対にこの料理を頼んではいけない。彼らはこれをすばらしいとは思わず、口に入れてから「ああ、茶碗蒸しね。日本にもあるよ」と、言うのだ」。

 ふむふむ。
 だって、実際、茶碗蒸しに似てます、って、同様ですから。
 さらに蔡瀾さんが触れるには
 「ばかったれ!茶碗蒸しに使うのはどれも火を通した材料で、甘味だって化学調味料でつけたものだろうが!! 「蛤蜊燉蛋」よりうまいわけがない」
 とまあ、口先鋭く、容赦がない。
 蔡瀾さんらしい辛辣な表現ですけど。う~ん、蔡瀾さん、もしかしてちゃんとしただしで作った茶碗蒸し、未体験なのかも?

 はまぐりの椀物。
 思い出すのは神保町の「鶴八」で、「小倉さん、いかがです?」と、親方に薦められたそれです。
 具は三つ葉だけ。肝心のはまぐりの身はなし。だって、すし種にするはまぐりを湯通しあとのだし汁で作った椀物ですから。しかし、その美味、ぎりぎりの塩加減。
 思い出しては、遠い目になっちゃいます。

 で、「蛤蜊燉蛋」。
 「じゃ、八尾さん、福臨門の「蛤蜊燉蛋」をご紹介ください!」
 「はい、あのう、この「蛤蜊燉蛋」ですが、はまぐりから出るだしだけでなく、上湯を加えてありますので!」
 と八尾さん。

 なるほど、そういうことか。
 ということなら、広東式、というよりも福臨門式の「蛤蜊燉蛋」だ。















日本で「茶碗蒸し」と言えば、一般的に多いのが、液状のゾルが固まったゲル状に近いそれ。キャラメルプディングみたいに、匙を当てるとグラングランとも身を震わせる。ところがこの「蛤蜊燉蛋」、だしを合わせて蒸した溶き卵の状態はゆるゆる。
 ゆるゆるで、ほんわりつるりん、舌に乗せると淡雪のように溶けていく。舌の上でとろけていくような滑らかさ。

 滲み出るだし。
 はまぐりを煮立たせて、ぱっくりと開いた貝から滲み出るだしは、切れ味のいい磯の味がするものです。
 ところが、この「蛤蜊燉蛋」のだし、磯の香りを包み込むような、丸み、ふくらみのあるふくよかな味、風味です。
 具のはまぐりの身よりも、だしを含んだとろとろの卵、だしの味、風味の妙が実に見事。
 堪りません。それも、椀半ばにして、しっかりとした味、風味が際立ってくる。
 緻密で繊細、洗練された上品な美味に、またしてもうっとりとなったのでありました。

2008/05/27

春の広東地方の郷土料理の11~レバ、ハツ、ニラ、モヤシ炒め














 そして「韮菜銀芽炒心肝」。

 「え~、これは・・・・「レバニラ炒め」でございます。 あ、ハツも入っておりますので!」
 もったいぶった表情ながら、ユーモアを忘れない八尾さんの料理説明。

 「レバニラ炒め」という一言に、メンバー一同、鳩が豆鉄砲を食らったみたいに「エッ!」と驚きの表情。 そして、かすかなどよめきが、ひたひたと。
 「福臨門の「レバニラ炒め」? そんなのあり?なの?」
なんて声も聞かれたりして!
 
 私は、思わず、クス!

 八尾さん、さすが辻調技術研究所出身。
 勉強、研究の合間に、大阪人を中心に、関西人なら日常茶飯のボケとツッコミのやりとりも、しっかり鍛えられてきた様子です。

 あ、そだ、言っときますが、一般に「大阪弁=吉本」なんて認識があるようですけど、それは大きな間違い!
 吉本の芸人の大半が使っているのは、関西共通語。
 大阪弁、厳密には浪速言葉、狭義には船場言葉とは異なりますので。

 岸さんのところで調達可能な内臓のリストを福臨門に送り、戻ってきた可能な料理のリストは、予想外の多さでした。今回、実現出来たのはほんの一部。そんな中に「炒豬潤」、「炒豬心」とあったのを見つけ、いっそ「レバ/肝臓」と「ハツ/心臓」を炒め合わせるってのがいいかも、というのがコースに組み入れたそもそものきっかけのひとつ。

 おまけに、今回、春の素材に内臓料理を!という構成内容を青木さんに提案したところ、「「モツ盛り合わせ下町風、香菜添え」を!」という青木さんのの熱い思い、期待に応えるには、格好な一品かも。なんてこともあって、今回のコースに組み入れた次第。
 今回の「青木宴~春編」のコースからすればコース外れの番外編、スペシャルエクストラといった趣の一品です。

 「レバ、ハツ、ニラ、モヤシ炒め」は、ウケけました。
 めちゃくちゃにウケけました。
 「これって、ご飯のいらない「レバ、ハツ、ニラ、モヤシ炒め」、ですね!」
 と、青木さんが漏らした一言が、そのすべてを物語る。
 
 そうです。
 「レバ、ハツ、ニラ、モヤシ炒め」は「おかず」のはず。
 それが、食べてるのは「おかず」とは思えない「レバ、ハツ、ニラ炒め」!
 素材の吟味、厚み、大きさなどの切り分け、その下拵え、それぞれの分量とその見事なバランス。
 「おかず」ではなく、見事な料理の一品です。

 何と言ってもレバ、ハツの炒め加減が見事です。
 そう、関西の食関係、料理人が頻繁に口にし、関西発の食に関わるブログで頻繁に見かけることの多い「火入れが凄い、絶妙!」って言葉が、そのまんま当てはまる。

 レバもハツも、食べている最中に、口の中でそれぞれの持ち味、資質、味、風味が、ぐんぐんと浮かび上がってくる。それが、しっかりわかります。
 「エ!、こんなの、あり?」
 というような
 「レバ、ハツ、ニラ、モヤシ炒め」です。

 ハツはざらっとした舌触り。こりっとした張りのある噛み応え。
 噛み締めれば、あの「血」の味、鉄分を帯びた金属質の味、風味が浮かび上がる。
 レバは火が通って、むっちり。なのに、噛み締めれば、まずはあのねっとり感が歯茎に触れ、ぷるんと弾けながら、ぐじゅとした中に、これもまた「血」の味が。
 同時に、レバに含まれた脂のこくのある甘さ、旨味が、滲み出す。溢れ出す。

 クセのあるニラも、さすが、ハツ、レバと一緒では、むしろ爽快な青さが浮かび上がる。
 いや、クセのある強い個性を持ったニラだからこそ、ハツ、レバとしっかり張り合い、共存、ってことでしょう。
 ニラという素材の持ち味、個性を引き出しての結果、ってことです。
 それに、もやしはさっぱり。それもまた、持ち味、真価を発揮。

 「いや~、凄いですね、この料理。レバにしろハツにしろ、それぞれの持ち味、しっかり出ていて、その特徴がほんとよくわかりますね。驚きました!」
 と、景山さん。
 「それに、ローヌの「CAIRANNE」、あってますねえ・・・・・」
 と、遠い目で、深いため息!

 番外の料理、エクストラスペシャルの「韮菜銀芽炒心肝」。
 思わぬ波紋を生んで、強烈な印象を刻み付けることになったのでありました。

2008/05/26

春の広東地方の郷土料理の10~油泡欖仁肚尖の2

 「ほら、これ!なかなか乙な味だね。この料理のアクセントになってるじゃない!」
 と「欖仁」をつまみあげ、口に放り込んで、斉藤さん。
 「そそ、この「欖仁」、って中国オリーヴの実ですけど、えび炒めとか、案外、色々使われてね。特に順徳地方の料理に多いんです。ミルクの揚げ物のなんかにもまぶしてありますから。
 木の実の香ばしさ、油性分もあって、こくのある甘さ、旨さがありますから。鋭いですね、斉藤さん!」
 と、私。

 「いや~、だって、俺もたまに気の利いたこと言わんと、この宴に参加してる意味も立場もないからね!」、と斉藤さん。
 な、ことないです、斉藤さん。
 料理が出てくる度、鋭い質問、つっこみ「あ、いけね、なんだっけ!」 と、あたふたしたりする私でありました。
 そう、今回、料理内容の説明は八尾さんにまかせてばっかりです。

 とはいえ「肚尖」については思わず熱くなり、熱弁を奮いました。
 香港の福臨門で「肚尖」を知り、その独特の触感、風味に魅せられて以来、日本でなんとか食べたい、そう思い続けた執念が、今回やっと実現。
 その道のりは長かった。

 日本で「ガツ」が流通しているなら「肚尖」だってあるはず。そんなことから「ガツ」を扱う中国料理店の料理人に尋ねても、北方系統の店の料理人だったせいか、日本在住、もしくは日本人の中国料理人だったせいか
 「肚尖? 何ですかそれ?」 
 と、逆に尋ねられるのがほとんどでした。焼肉関係の人に尋ねても、その答えは同じようなもの。

 今回お世話になった川越の「はぎちく」の岸さんにも、機会があれば相談を持ちかけたものの
 「う~ん「肚尖」って言われても、ねえ。心当たりがないなあ。部位の呼称の違いなのかな~」
 なんてやりとりがなんどかあって、一旦、話も頓挫。

 それが今回、豚の内臓の調達を岸さんに依頼することになって、またもや「肚尖」話が再燃。
 改めて福臨門に「肚尖」の詳細、豚の胃のどの部分なのかを再確認。
 そのやりとりは「春の広東地方の郷土料理の4」で紹介して来た通りです。

 福臨門に「肚尖」の部位を確認し、豚の胃が食道、十二指腸つながる連結部分が必要、と判明したものの、いったいどのくらいの長さが必要なのか。そんなやりとりの最中に、岸さんから部位の処理、検査官がやるってことが判明。
 
 つまり、日本では検査官が胃をばっさり。
 ってことは「肚尖」という部位の存在せず、その認識もなく、その一部が胃についたまま、「ガツ」の一部として扱われていたか、それとも、「ガツ」に比べて身が薄いことから、処理されてしまっていたか。

 あ~あ、もったいない!

 ともあれ、岸さんの努力と熱意の甲斐があって、希望する部位をゲット。
 とりあえずそのサンプルを福臨門のキッチンへ。
 はたして希望通りの部位かどうか。それに「肚尖」としての料理が可能かどうかの返事待ち。

 そしたら、八尾さんからOKの返事!
 それがなんと「「梘水(かんすい)」で1時間、流水で3時間」かけて、掃除、下拵え。 そうです、内臓ってのは掃除、下拵えに手間がかかるもの。
 福臨門のキッチンの皆さんご苦労様!手間をかけてすんません。
 ともあれ、サンプルはOKってことで、「青木宴」を目指して、GOいん「ぐ~!」

 さて、その「肚尖」、料理方法はいくつかありますが、基本は「油泡」か「炒」。 今回は「油泡」した「肚尖」に「欖仁」も追加。

 










つるんと滑らかな舌触り。最初はむっちり。なのに、ぱりっとした噛み応えがあって、ぽりぽり噛み締めれば、甘味を含んだ味、独特の風味が滲み出る。
 その触感、むっちり感のある舌触り、ぱりぽりの爽快感のある歯応え、といった触感の妙。
 内臓特有の脂肪分を含んだ味わい、風味が格別です。

 しかも、上品で、洗練された調理、味付け。「焼き肉」、「もつ煮込み」とは、まさに対極の位置にある見事な美味、です。
 内臓の部位をこれだけ上品で洗練させ美味に仕立て上げる技の見事さ。
 やはり、それは福臨門ならでは。

 こくのある旨味たっぷりのオイスターソース、塩気の利いた醗酵味の蝦醬を少しばかり付けて食べればが、味わい、風味が一層増します。
「まさか、日本でこの「肚尖」が食べられるとは!」 、という感激を差し引いての話です。

 実際、「肚尖」に初めて出会った他のメンバー、口にして、「う~ん!」と唸ったまま、しばし絶句状態。
 一呼吸も、二呼吸も置いてから
 「これはいいや、旨いねえ!」
 というため息混じりの感嘆の言葉が、次から次へ。

 こうなれば、今後は、銀座の福臨門の知る人ぞ知るメニューのひとつの仲間入り?
 なんて、ほくそえんだものです。
 ですか、後日、課題もありという話を福臨門のスタッフから教えられました。

 岸さんから届いた内臓の類、そのすべての鮮度、質の高さは申し分なし。
 香港のそれにひけをとらないどころか、「肚尖」の質の良さは、香港でもそう簡単には入手できないほどのもの、だったとか。

 ところがです。問題はそのサイズ。
 香港で入手可能な食道、十二指腸と連結した部分の胃に比べれば、いささか小さい。
 香港だとひとつの部位から6枚取れるところ、岸さん提供のその部位からだと4枚しか取れない。

 おそらく岸さんの扱う豚、ことに良質のそれはバークシャー系、もしくは、バークシャー系の掛け合わせで、豚そのものが小ぶり、なんてことにも関係してるんじゃないでしょうか。

 実は「肚尖」だけでなく、豚まめの「腎臓」も、そのサイズがキッチンのスタッフが予想していたものよりも小さかった。なんてことや、他諸々のこともあって、しばし、検討課題となったそうで。それが残念です。

 なんとか、銀座店だけに限らず、日本の福臨門各店で、食べられるようになればいいんですが。
 この美味を、多くの人と分かち合いたい!  

2008/05/24

春の広東地方の郷土料理の9~油泡欖仁肚尖の1

                                                                                                 













 「油泡欖仁肚尖」。
 この「肚尖」を素材にした料理が日本で食べられる日を、どれだけ待ち望んでいたことか。
 今回、それがようやく実現しました。そのことだけでもうるうると感涙にむせび泣いたほど。いや、ほんとです!

 「肚尖」とは豚の胃の尖端部分。胃の端、胃が食道、十二指腸とつながる部分のことです。
 豚の胃といえば「ガツ」。日本じゃ中国料理店にもありますが、それよりも焼き肉屋、ホルモン専門料理店のメニューで馴染みのはず。

 「ガツ」は、胃の部分そのもの。肉厚で、しっかりの噛み応えあり。
 ネットで調べたら生で食べる「ガツの刺身」ってのもあるそうで。
 牛の胃の「センマイの刺身」は食べたことがありますが「ガツの刺身」は未体験。

 「肚尖」は、豚の胃でも食道、十二指腸につながった部分で、「ガツ」本体に比べれば身が薄く、肉質も柔らかい。ぷりっとした舌触りで、噛み締めるとこりっとした歯応えがある。調理するにはそれなりの下拵えが施されています。

 「肚尖」を食べるたびに思い浮かべるものがある。海鮮素材のひとつ、法螺貝がそれです。
 大型のものは「响螺」。 村上龍のエッセイに香港の福臨門話があって、その好物がほら貝。それを食べるためだけにでかけたいとか、なんとか、そんなのを読んだ覚えがあります。

 「响螺」の値の高さは、ウルトラ級。直径5~6センチほどの「响螺」のスライス、厚さ5ミリ程。90年の段階で1枚の単価を計算したら、5千円程でした。ですから、今の値段、推して知るべし。
 そのスライス、味わうのに30秒程しかからない。それでいて、その値段、5千円!
 という驚愕の事実に衝撃を受けたのが、これまでに紹介してきた「GULIVER」誌の取材で編集を担当したフリー・エディターの松木君。同誌で、そのことをきっちり報告。
 そして、村上龍さん、そんなのをぱくぱく、じゃなくて、ぽりぱりたらふく喰って、福臨門の美味を堪能してたってわけですね!

 もっとも、小ぶりの法螺貝は「響螺」ということで、その身を取り出し、「葡汁」と称されるカレー風味、もしくは、ホワイト・ソース仕立てのソースであえてオーヴンで焼いたグラタン仕立て風の「葡汁焗響螺」、それとも、スープに使われます。「響螺」を使ったスープは、「例湯」の一品として出会えることがあります。

 ともあれ「肚尖」、その大振りの法螺貝のスライスに似た触感。
 「肚尖」を油通しの「油泡」で調理した時には「油泡响螺片」を食べる時と同じく、オイスターソースの「蠔油」、えび(あみ)の醗酵みその「蝦醬」が添えられる。

 言ってみれば、貧乏人に「响螺」と言った趣も。とはいうものの、新鮮で良質な「肚尖」の入手は、香港でも難しく、値段もそれなりです。
 そういえば、ネットで「ガツ刺身」を検索した際、魚の刺身のよう!
 なんて、書き込まれてるのを見つけましたが、その表現に納得。
 私、生の「肚尖」に出会ったことはありませんが、その触感、みる貝の薄切りを湯通し、もしくは、油通したに時のそれに通じるところがあります。
 むっちりとしていて、ぷり、こりとした「ぽりぱり」の触感です。
 もっとも「肚尖」には、当然、海の味、礒の味の濃さはなし。それよりも、豚の脂の旨味、甘味がじんわり滲み出てきます。

 香港の福臨門に出かけた時には、まず尋ねるのが「肚尖」の有無。
 ふかひれ、燕、干し鮑は常備している福臨門でも、「肚尖」の入荷が無かったりすることがあります。
 ということでは知る人ぞ知る稀少品。

 その「肚尖」を油通しの「油泡」で調理し、「欖仁」、中国オリーヴの実と炒めあわせたものです。

2008/05/23

春の広東地方の郷土料理の8

 この「江南百花鶏」。
 まず、鶏を丸ごと一羽使います。その骨を抜いて身を平らにする。
その肉の厚み、按配を図りながら、その上に蝦のすり身を張り詰める。
 もちろん、均等な厚さになるように、です。

 この料理のポイントは蒸し加減。 つまり、鶏肉に火が通り、しかも、上の蝦のすり身「爽脆」なのが肝心。ということで見逃せないのがえびのすり身の下拵え。
「爽脆」というのは、えびのすり身がぷりっとした歯触り、しっかりした噛み応えがあるってことで、必須の条件。広東人の好みです。
 この料理に限らず、えびのすり身すべからくそうあるべし、なんだそうで。

 えびのすり身が「爽脆」な状態、触感を生み出すには、えびのすり身作りの過程ですべてが決まる。
一番肝心なのは、すり身にしたえびを練り合わせ、攪拌する際、必ず一定の方向に、というのを遵守。それが、一回でも逆方向に混ぜたりしたら、えびのすり身は「爽脆」どころか、へたれちゃって、べたついた感じに仕上がってしまう。それだけでなく、風味を損ねてしまうから、というのがその理由。「「霉」っていうんだけど、かび臭い感じ、っていうのかな」と徐さん。

 香港でこれまでいろんな料理人に取材してきましたが、えびのすり身に限らず、魚のすり身、淡水魚の鯪魚をすり身にしてつくね状にした「鯪魚球」などその最たるものですが、「すり身を攪拌する時には、必ず一定方向を遵守!」というのは、いつだって耳にする話。

 多くの料理人だけでなく、麵屋の御主人にえび餃子の「水餃」や「雲呑」の下拵えの話を聞いた時もそうでした。
ネットで紹介されてるえびや魚のすり身作りのレシピにもそのことが明記されてます。

 「ン!?、その理由? なんて尋ねられてもなあ…… だって、昔からそうやってきたんだし、そのままやってるだけで、理由っていわれてもなあ!それが当たり前、なんだから!」。

 「だから、それがなんでまた、そうなのか知りたいんだけど!」 と、しつこく食い下がっても 

「だって・・・・そうじゃないと、良くないんだよ!美味しないし!」 とまあ、要領を得ませんでした。
 その理由が、徐さんの言葉で氷解!

 香港の広東料理店で味わう飲茶の点心の「蝦餃」、それだけじゃなくって街中の粥麵店での「鮮蝦水餃子」やえびのすり身入りの「雲呑」のあのぷりっとした触感、日本で食べるそれとは何だか違う!そう思われた方は少なくないはず。その理由、秘密がその話からも解決できるんじゃないでしょうか。

 「江南百花鶏」はえびのすり身に調味料を加味し、鶏の上にのばすように貼り付けていく。
それを蒸す段階で、鶏肉には火が通り、上に乗っかったえびのすり身は「爽脆」な触感があることが、必須の条件。

 ところが、えびのすり身、実にデリケート。火が通りすぎると、身が柔らかくなり、へたれて「爽脆」ではなくなり、風味を損ねる。
 ということでは、えびのすり身、鶏肉をバランスよく蒸しあげる、とまあ、その見極めも肝心。

 そして、最後には蒸した鶏肉から滲み出る肉汁に上湯、卵白を加えて仕上げ。
 その最後の仕上げの段階でも、鶏がえびのすり身を抱えてるような状態だと、えびのすり身に火が通り過ぎて「爽脆」な状態ではなくなってしまうことがある。
 そんなこともあって、えびのすり身は鶏肉の上に、というのが、福臨門のスタイル

 出張料理、ケイタリングの専門店だった頃からのことで、どうやら、福臨門の創業者、徐福全さんの創意、工夫によるものらしい。
それも、長年の顧客からの要求があった時に限って作ったものだそうで、店で供されることは滅多にない、という知る人ぞ知る料理の一品です。















 碗仔で取り分けられた「江南百花鶏」。その切り身の下にはだし。
 そうか、これって椀物のしんじょ、なんて思ったりして。
 もっとも、椀物のしんじょ、だしがたっぷり。椀だねのしんじょも、どちらからといえば、滑らからでとろけるような舌触り、ってのがほとんどじゃないでしょうか。

 それからすると取り分けられた「江南百花鶏」だしは少なめで、碗仔の底にひたひた以下の感じ。
 それに「江南百花鶏」、えびのすり身はぷりっというよりもしっかりの歯触り、噛み応えのある弾力、硬さがあります。その下には鶏肉が。

噛み締めると、えびのすり身と鶏肉と、ふたつ異なる歯触り、噛み応えの触感の妙。えびのすり身からは甘味、旨味。鶏肉はジューシーな肉汁がほとばしる。洗練された気品のある繊細な美味、風味が堪らない。

 上湯と蒸した際に滲み出た鶏肉の肉汁があわさっただしは、淡白で清淡な趣。まさにエレガントというにふさわしい一品。

 洗練の美味にうっとりとなりました。

2008/05/21

春の広東地方の郷土料理の7


 「江南百花鶏」の登場です。
 「婆参荷包翅」と並ぶ今回の宴のハイライト!
 福臨門の「江南百花鶏」は18年ぶりのご対面!
 90年の「GULIVER」の香港取材の際、ジェイムス・ウォン/黄霑と福臨門の九龍店で対談。
 黄霑は福臨門のケイタリング時代の料理を子供の頃から体験、という話もあって、当時のメニューを、というリクエストに応えて登場となったもの。その洗練された美味は、今だ鮮明に記憶に残ってます。
 この「江南百花鶏」。
 かつて広州には「廣州四大酒家」と称された名店が4軒ありました。
 「大三元」、「文園」、「南園」、「西園」がそれ。
 そのうち「文園」の名品とされたのが「文園江南百花鶏」。
 HKのGOOLEで検索すれば、その話題が色々ヒット。
 ここ最近の懐かしい昔ながらの料理「懷舊菜」ブームもあって、「「文園江南百花鶏」を再現!」なんて話もあります。

 それがハッピーヴァレー/跑馬地のジョッキー・クラブにある滿貫廳、紅磡の黃埔花園の蔡瀾美食坊の「正斗粥麵專家」というのが面白い。
 ことに「正斗粥麵專家」、さすが蔡瀾さんプロデュースのフード・モールの店です。「懷舊菜」の流行を睨んで、伝統的な料理を再現、とは目の付け所が鋭い!
 そういえばこの「江南百花鶏」、90年代半ば、97年の中国への「回帰」を目前に訪れた「懷舊菜」ブームの際にも、一部の店でやっていたことから話題になりました。
 家鴨に荔芋のすり身を乗っけて揚げた「荔芋鴨」などとともにです。
 確か「鏞記」も「懷舊菜」を積極的に紹介した時期にやってたはず。

 ところで、福臨門の「江南百花鶏」。最近になって再び話題になりはじめた「文園江南百花鶏」とは少しばかり違います。
 というのも「文園江南百花鶏」は、鶏一羽、骨をこそげて身を開き、その内側にえびのすり身(蝦膠)の餡を張り詰め、それをひっくり返し蒸したもの。つまりは、鶏がえびのすり身を抱きかかえるような形にして、蒸しあげてあります。それに、仕上げには夜来香や菊の花びらをまぶしてある。

 ところが福臨門の「江南百花鶏」。
 画像でも明らかなように、腹ばいになって寝そべった鶏の身の上に、えびのすりみを張り詰めてあります。鶏がえびのすり身を背負ったような按配で。そこに腿の微塵切りをまぶし、卵白を加えた上湯をかけて仕上たもの。

 どうして鶏が蝦のすり身を背負った格好?
 たまたま日本にやってきていた福臨門の徐維均さんに話を聞きました。
 この「江南百花鶏」、実は料理人泣かせで、その力量を問われる難易度の高い料理のひとつ、なんだそうです。

2008/05/18

閑話休題~三社祭


閑話休題、別編でひっぱります。
なんたって三社祭、ですから!

今年、本社は出ません。
「本社は出ないそうで、浅草、いつもより人出少なめ!」
なんてTVが報道したそうで、その影響がどうか、
午後過ぎてから、一挙に人出が増えて、仲見世、人だかりでびっしり。

午前中、午後と宝蔵門の潜り抜けだけ御輿に触ったりして!
宵宮は雷門からスタート。
もちろん、雷門、それに、宝蔵門
行きも帰りも、その時だけしっかり御輿に触ったりして !

歳、くってるもんで!
なんて、いいわけしながら、美味しい担ぎ所は絶対に逃さない、という随分な親父です

明日も午前、午後、それに、本社のない分、宵宮あり
なんで、宝蔵門、雷門、潜る時には、しっかり御輿にさわります!
photo by Kohno

2008/05/13

閑話休題 広東料理とワイン

 ところで、この日のお酒。 口開けはピペール=エドシックのロゼ。

 かなり赤味がかった色合いで、果実のような甘さ。 前菜の「千層峰」の豚耳のねっとり系のゼラチン質、や豚脂の甘味、「炸大腸」の豚脂のこくのある甘味との相性はぴったり。

 そんな前菜の登場の前後から、ワイン通の青木、景山、海津の3人が、ワインの順番をどうするか、なんてことで鳩首会談。

 今では季節ごとに恒例化と相成った「青木宴」では、中国料理、ことに伝統的な広東料理を継承、踏襲し、上品で洗練された独自の味、風味を特徴にする福臨門の料理の数々にふさわしいワインは何か、というのがのテーマのひとつにもなってきました。

 なんて、大げさな話ではなく、料理にふさわしい、料理と相性のいいワインをあれこれ試し、飲みながら、楽しみましょう、っていうのがその基本。
 しかも、まずは料理ありてワインあり、とまあ、あくまで料理が主人公というのも基本です。

 そんなところで問題となるのが、中国料理のコースの組み立てと流れ。
 ひとつひとつの料理にあったワインはあらかた想像がつく。想像を逞しくもできます。
 ところが、中国料理のコースの流れ、組み立ては独特。

 本格的な宴会料理では、たいていの場合、前菜のあと、いきなりその日の主菜、主に干貨素材による料理が登場。さらには干貨素材によるしっかりした煮込みものなども登場します。それから、炒め物や揚げ物、さには蒸し物といったように、穏やかな優しい味になって、淡白なもので締めくくり、といったコースの変化、流れがほとんどです。

 家族や友人、知人とのくだけた仲間でコースを組み立てるにしても、前菜があったりなかったり。「湯(スープ)」から、なんてのも珍しくない。ですが、その日のメイン、楽しみな美味しい御馳走は、「湯」の後や、少なくとも半ばあたりまでに登場、というのが一般的。

 それからするとフレンチなどでは、さっぱりとした前菜からはじまり、イタリアンではさらにパスタなんぞをはさみながら、メインディッシュへ。しかも、しっかりした味、時には濃厚な味付けの料理がほとんどで、ワインもその流れに合わせて選んでいくのが一般的、じゃないでしょうか。

 もちろん、幕開けはしっかりフォアグラのパテ。なら、やっぱり甘美で濃密なソーテルヌ!なんてこともありうるわけで、私はそういうのも大好きです!
 あ、いっちゃんすきかも!
 
 ということからも明らかなように、ま、概しての話ってことになりますが、料理の構成、味わいの変化、その流れ、中国料理とフレンチ、イタリアンとは対照的。
 フレンチ、イタリアンは、概して裾広がりの三角形。
 それからすると、中国料理は逆三角形、ってことにもなります。

 かつて「男の食彩」という料理番組のキャスターを担当していた当時、春と秋の時期、月に一度は、田崎真也さんのワイン講座がありました。 その中で、中国料理が取り上げられたことがあります。その時には、中国料理のコースのすべての紹介は番組では難しい。ってことから、取り上げたのは「ふかひれの醤油煮込み」などいくつかの品でした。

 取り上げた「ふかひれの醬油煮込み」は新世界菜館のもので、社長の傳さんもゲスト出演し、解説、紹介していただきました。
 そん時の田崎さん、中国料理の「ふかひれの姿煮」には、ワインなどもよりも吟味したポルト酒がぴったりなのでは、と提案。

 なるほど、面白い。
 新世界菜館の「ふかひれの姿煮」には、ぴったりかも。
 しかしながら、その提案の背景に、田崎さんの中国料理、さらには「ふかひれの姿煮」、そして、中国料理における酒の組み合わせに対する固定的な概念、イメージがあって、それに導かれてのものじゃないんだろうか?との素朴な疑問を覚えたものです。

 というのも、新世界菜館の「ふかひれの醬油煮込み」は、上海式のそれを下敷きにしたもの。
 傳さんから詳しく聞いたわけではありませんが、私にとって新世界菜館の料理の数々は、上海というよりも、寧波風味といった印象を受けます。
 もっとも「ふかひれの姿煮」に関しては、だしとともに醬油味、それに旨味だけではなく特有の甘味がありました。言わば、日本に定着した上海式それの印象が濃厚。しかも、日本で「ふかひれの姿煮」として広く一般に浸透し、親しまれているものに通じます。

 そして、田崎さんが提案したポルト酒。
 それから私がイメージしたのは、紹興酒に他なりません。
 そうか、田崎さんも、やはり、中国料理と言えば、紹興酒。「ふかひれの姿煮」には、紹興酒というイメージ、固定概念から逃れられないのかなあ、なんて思いました。

 確かに、上海系の料理には、それも、上海系の「ふかひれの姿煮」には紹興酒がぴったりかも。
 それに、日本で一般に定着している広東料理には、あてはまるかもしれない。
 ですが、香港のそれ、ことに、ふかひれの料理には………………
 紹興酒、という組み合わせは、あてはまりません。

 それについては、いずれまた。
 もっとも、田崎さんの「ふかひれの姿煮」にはポルト酒を!という提案。
 ちゃっかり戴いちゃって、時にはそれを楽しんでます。

 その後、田崎さんとは「裸の少年」のロケの収録中だった浅草の「龍圓」で再会!
 「ね、ね、小倉さん、これ「ハモン・イベリコ」を使った上湯だって!」 と、龍圓ご自慢の「龍圓特製チャーハン(上湯【スープ】添え)」の「上湯」を、いきなり薦められました。

 「いや、田崎さんって凄いですワ。一口味わって「これ、どんぐりの味がする!」なんて、見破られちゃいましたから!」、と栖原さん。

 栖原さん、もともとは上海料理畑の出身。甘味と醬油の使い方、その工夫やセンスがその経歴を物語ってます。
 ですが、ここ最近、香港の広東料理にも関心を持って、機会を見つけては香港行脚。だし作りでは広東料理の手法も取り入れて、という意欲あふれる料理人。

 そういえば、あん時、田崎さんに、火腿を素材にしただしを使った料理にふさわしいワインの組み合わせ、聞けばよかった。
 今度、田崎さんに出会う機会があったら、尋ねてみます。

 ところで、中国料理、それも広東料理におけるコースの組み立て、味の変化、流れ(って、私の勝手な解釈によるアレンジもありますけど)、料理のクライマックス、宴がはじまってすぐにありと察知した青木さん。
 ワインの開栓、宴の始まる時刻では遅すぎるってことで、秋や冬の宴には、選んだワインを昼から開栓。今回の宴では、前日から開栓、と相成った次第らしい。その周到さには、おそれいります!

2008/05/12

春の広東地方の郷土料理の6















 この日の宴の花、「大菜」のひとつ「婆参荷包翅」の登場です。

 「このなまこ、でかいね!どこで採れたもんなの?」
  と斉藤さん。
 「八尾さん、よろしく!」 
 と、今回、料理紹介の話は八尾さんにまかせっぱなし。
 「「婆参」と申しまして、東南アジア産のなまこでして、日本で(収穫する)ものとは、大きさが違います」と八尾さん。
 付け加えれば、香港では「豬婆参」、母豚の乳房に似た形状ってことで、ことにインドネシア産のものが良質とされ、戻すと柔らかく、また、味が濃いってのがその特徴。

 「このふかひれの姿煮、これもでかいね!」
 と、斉藤さん。
 眼鏡の奥の瞳がきらきらとハートマーク。

 「荷包翅」については、2006年12月24日の当ブログで触れてきましたっけ。
 改めて紹介すれば、「荷包翅」は金山勾の高茶翅(アオザメ)などによるもので、その名称、財布のような形態をしていることにちなんだもの。

 見かけは日本の中国料理店の多くで出会える「ふかひれの姿煮」に使われているふかひれに似ています。
 ふかひれの形態をそのまま残した「排翅」ですが、日本などで一般に「排翅」として流通している「よりきり/牙揀翅」、「もうか/摩加翅」とは、資質、味、風味が異なります。
 翅針は細いものの、滑らかな舌触りで、柔らかな噛みごたえ、独特の風味を持ってます。

 扇状になったふかひれの根元は、乱雑で不揃いですが、それこそは原ひれから手間隙かけて戻された証。
 日本の中国料理店で一般に流通している根元が綺麗に処理された「よしきり/牙揀翅」、「もうか/摩加翅」の「排翅」は、専門業者によって戻し加工処理が施された製品化されたふかひれで、磯臭い匂いが除かれずにいるものもあって、むしろ磯臭いのが当たり前、なんて認識もあるぐらいですから。
 そのあたり、内臓、ことに胃、小腸、大腸、直腸の処理にも通じることかもですね。

 なんてことを書いてるうちに、かえすがえすも「ヘイフンテラス」で「気仙沼産!」のふかひれを試さなかったことが、今となっては悔やまれてなりません。
 って、私もしつこい?
 いや、執念深いだけのことです!!!!!

 今回の「婆参荷包翅」、以前、家庭画報の取材の際に出会ったのは「鮑汁」が利いたこくのある味。
 それに比べて、ライトで、すっきりとした味わいで、だしの味、風味の印象が強い。その分、ぷりぷりの舌触り、歯触りで、くねっと身をよじらせるような「婆参」の柔らかさ。それに「荷包翅」も、だしをふくんだ「翅針」の塊を頬張った時のぐじゅっとした触感、素材の資質、持ち味を認識。

 そんな「婆参荷包翅」とぴったりだったのが、04年のグラン=エシェゾー。
 「福臨門のしっかりしただしには、やはりあいますね」と、それを選んだ青木さん。
 
 青木さん、前日に開栓を頼んでいたそうで、その点、抜かりがない。 おまけに、景山さんの選んだコルトン('98)、海津さんの選んだコス=デストゥルネル('94)も同様に24時間前に開栓していた、なんて話に、目を丸くしました。
 ワイン好きは、やることがちゃう!
 そこまでやるか?
 と、関心しきり。
 おそれ入りました。

 むろん私だって、それに負けじと……
 って、あ、そか、メニューを考え、素材の調達を按配したくらい。
 岸さんと福臨門のスタッフには、手数と苦労のかけっぱなし……
 でした、ね。

 画像は「婆参荷包翅」。
 しっかりしただし。ぷりぷりの舌触りの「婆参」。
 だしを含んだ「荷包翅」のじゅわの触感、旨さがよみがえります。

2008/05/09

春の広東地方の郷土料理の5

  「それでは八尾さん、料理の説明を!」
 「はい、かしこまりました。
 え、この「豬肺杏仁湯」ですが、まず、豚の肺を流水に1時間ほど晒しまして
 下準備をしてから「煲」という方法で4時間あまり煮込みまして、
 それから2時間かけて「燉(湯煎蒸し)」に致しました」

 八尾さんの話に、テーブルの一同が、いっせいに驚きの声。

 「え~! そんなに手間隙、かかってんの!
 すごいな、信じられない!
 っていうより、そんなの普通、考えられませんね」 と、感嘆しきり。

 そんな声を耳にしながら、せっせと匙でスープを口に運ぶ私。
 滑らかで、緻密な舌触り。
 ン!?  と思ったのは、味にしっかりとしたこくがある。だし入りの感じがする。

 「豬肺杏仁湯」といえば「陸羽茶室」のそれが有名です。
 他にも試したことが何度があります。
 で、「陸羽茶室」の「豬肺杏仁湯」、乳白色で、味は素朴で清楚。
 滑らかながらも、ざらっとした感触が舌に残ります。
 ところが今回の「豬肺杏仁湯」、黄色がかっていてクリーミー。
 しっとり潤んだような滑らかさで、優しく舌を撫でていく。
 そして、かすかな渋味、ほろ苦さ。杏仁の味、風味でしょう。
 それとともに、ふくよかなこくのある芳醇な味わい、風味がありました。


 「あの「豬肺杏仁湯」ですが、「煲」にしますか?それとも「燉」で?」
 と、八尾さんから連絡があったのは、素材の調達が可能とわかり、コースのメニューの最終決定でのことでした。
 
 そう尋ねられ、一瞬、答えに詰りました。
 私が知る限り、というか、私がこれまで出会った「豬肺杏仁湯」、ほとんどが「煲」のはずで、私にとっては「湯」に関してバイブルともいうべき某著(ふふ、教えたくな~い!)でも、昔ながらの調理方法では基本は鍋でじっくり煮込む「煲」のはず。
 
 湯煎蒸しの「燉」って方法がある、というのは耳にしたことがありませんでした。

 「そうか「燉」というのもあるんだ。
 う~ん、じゃ、今回は、おまかせします!
 でも、もし今回「煲」にするなら、今度は「燉」でね!」
 とまあ、その辺は、強引であつかましい小言ぢぢい(って私)です。

 その結果が、4時間の「煲」と2時間の「燉」。
 そのプロセス、調理や味付け、改めて八尾さん、キッチンに確認の要ありですが、思うに「陸羽茶室」のそれとは違ったのは、やはり2時間の「燉」に鍵がありそうで。

 クリーミーで、しっとり潤んでいて、優しく舌を撫でる滑らかさ、こくのある奥深い味わい、滋味豊かと言う以上に旨味がある、ってことの秘密はそこにありそうです。
 もしくは、こくを生む肉類が、素材に含まれていたのかも。

 福臨門で初めて食べた「豬肺杏仁湯」。
 紛れもなく福臨門スタイルのそれ。
 上品で、洗練されたものでした。

 「参りました!」


 












 肝心の「肺」は、画像でご覧の通り。
  その触感、噛み応えは、じゅわじゅわ。火を通し気味なねっとり感を抜いた白子のようだし、少々繊維の立ったマシュマロ風の柔らかさ。たっぷり味を含んでいて、噛み締めるとジュシーな味が弾ける、といった趣です。

 肺、といえば、吸い込んだ空気を送り込む気管と血管で形成。つまり、下拵えの水晒しというのは、水を吸わせて、気管と血管を清浄。水を吸わせて、水を押し出す作業が必要。という話からも明らかなように、ま、スポンジ状態なわけです。

 後で「はぎちく」の岸さんに「豬肺杏仁湯」について御報告。

 「あ、その触感、想像がつきます!
 けど、味はわかんないな。想像もつきませんね。
 それ、食べたみたないな!

 それより、下拵えの手間隙のかけ方、すごいですね。
 そこまでやるとは思ってもみませんでした」
 とのことでした。

2008/05/07

春の広東地方の郷土料理の4

 豚の内臓の各部位の調達、福臨門の希望通り入手が可能だと岸さんのからの返事が戻ってきたところで、今回の「青木宴《春編》」の料理内容、コースの内容を再検討。

 今回は、これまでの青木、藤原の両氏に、前回以来の元EMIの斉藤さん、それにEMIに出戻った景山富士夫氏、雲母社からロッッキン・オン社に移った海津亮氏も参加。
 そのふたり、青木さん、斉藤さんなどと某ワインの会のメンバーだそうで、ワインにはことのほか詳しく、一家言お持ちとのこと。

 さて、福臨門でコースを組み立てるとなると、看板の魚翅はじめ干貨素材を素材にした料理が組み込まれていないと、その意味もなければ価値もない。
 旬の素材をメインに郷土料理、家庭料理を楽しむにしても、宴会の花となる「大菜」があってこそそれぞれの持ち味、妙の対比も楽しめるというもの。

 今回、初参加の景山、海津の両氏、前回以来の斉藤さんも、すでに福臨門で主要な料理は一通り体験済とのことだったので、少しばかりひねりを加えたふかひれの料理を。
 そこで思いついたのが「婆参荷包翅」。

 「婆参荷包翅」、06年暮れの「家庭画報」の中国料理特集でも紹介しましたが、もとはといえば銀座の福臨門の長年の顧客のリクエストから総料理長の呉さんが工夫し、考案というスペシャリティでメニューにはない一品。「家庭画報」の取材時に味見して、あ、これはそのうち!と、狙いを定めていた一品です。

 もう一品の「大菜」は、「江南百花鶏」。 今年に入ってだったか、その料理、丸の内の福臨門で実現、という話をスタッフから耳して以来、なんとかして食べたいと願っていた一品です。

 昔、そう、18年前のことになりますが「GULIVER」というトラベル・マガジンの香港特集を手伝った際、福臨門に出向けばいつもテーブルが隣あわせだったジェイムス・ウォンと、福臨門の広東料理について対談。

 そのジェイムス、子供の頃、李香蘭のレコーディング・セッションにハーモニカで参加、という経歴がご自慢。香港大学出身の頭脳明晰なエリートで、当時、香港には皆無だったというPR会社を設立する一方、作詞、作曲、コラムニスト、歌手、俳優として活動し、香港のマスコミでも一目置かれていた人物。ジェイムスは叔父が何かと言えば福臨門の出張料理を依頼、なんてことから、子供の頃から福臨門の味になじんできたそうです。

 ともあれ、ジェイムスに色々昔話を聞いた際、福臨門が用意してくれた料理のひとつが「江南百花鶏」。 その美味は今だに忘れ難い。 それ以後も、他の店で同じ料理を食べてきましたが、福臨門でのそれを越えるものには出会えなかった。

 そんな「江南百花鶏」が、丸の内の福臨門で実現!
 なんて話を耳にして、今回の「青木宴《春編》」、場所を銀座店から丸の内店に移そうかと思い悩んだほどでした。
 そしたら銀座の福臨門でも可能だという話。
 その話を聞いて盛り上がったことは言うまでもありません。

 それに、春の味、郷土料理、家庭料理的な趣向のもので、はまぐりを素材にした「蛤蜊燉蛋」がある。

 以上、3品をメインに据えて、組み立てたのが以下のようなメニュー。

○千層峰(豚耳のよせ物の冷製
○炸大腸(大腸の揚げもの)
○豬肺杏仁湯(豚の肺と杏の実のスープ)
○婆参荷包翅(なまことふかひれ(荷包翅)の煮込み
○白灼腰花(豚の腎臓の湯引き)
○江南百花鶏(蝦のすり身のせ、鶏(一羽)の蒸し物
○油泡肚尖欖仁(豚の胃と中国オリーブの身の油通し)
○韮菜銀芽炒心肝(豚の心臓、肝臓と韮、もやしの炒め物)
○蛤蜊燉蛋(ハマグリの卵蒸し)
○蝦醬炒通菜(空心菜のえび味噌炒め)


 なまことふかひれの「婆参荷包翅」、「懷舊菜」というにふさわしい「江南百花鶏」に、春らしいはまぐりの「蛤蜊燉蛋」。
 前後して、前菜、スープ、油通しに炒めものなど、内臓類の料理がどうしても目立ちます。

 素材、舌触り、歯応えなどの触感、調理、味つけ、味わい、風味などの変化を考慮しながら、あれこれ考えを巡らせ、味付け、調理を他のものに置き換え、入れ替えを繰り返しんがら、辿りついたプランです。

 いつものミッシェルに相談してみたら
 「とっても、おもしろい」
 という言葉に次いで
 「香港でも滅多にないコースの組み立て方ね!」 
 との返事。

 私もそう思いました。
 内臓を素材にした多種、多様な料理が、こんな風にして組み入れられるのは、滅多にない。
 かつて香港では家畜、家禽の内臓類は貴重なものとされ、内臓類を中心にした前菜や、内臓にふかひれを詰めるなど、工夫を凝らした「大菜」などもあって、いわば内臓宴などもあったそうで。

 下拵えして臭みを取って、香辛料や調味料で味付け。
 そんな簡素で素朴な「もつ煮込み」的なものではなく、念入りな下拵え、調理による内臓の料理が存在し、その伝統が受け継がれている、というわけです。伝統的な広東料理の手法を受け継ぐ店だからこそ、可能なこと。

 締めくくりの面か飯については、福臨門から「腊味煲仔飯」という提案もありましたが、「カレー味の炒飯」という青木さんからのリクエストもあって「摩囉鶏粒炒飯」に変更。
 さらに、当初、青木さんからのリクエストだった甜品の準備が難しいとのことから、別途、2品の甜品(デザート)を用意、とのこと。

 実は、以上のメニューに以外に、コースを構成する品数の勘定あわせ、それに、ワイン好きが集まって、しっかりした味の赤ワインを!なんて、ワインとの相性を考え、血の濃い鳩の料理を加えるかどうかも検討。
 しかし、全体の構成と分量を考えて鳩の料理は、今回はパス。

 それでなくとも春の旬の味、それに内臓類の料理など、食べたいものがまだまだ残っていて、1回の宴会では到底収まらない。

 そんなやりとりを繰り返しながら、岸さんに内臓を発注。
 先の「白灼腰花」の下拵えの話からも明らかなように、内臓類はいずれもその処理、下拵えに時間がかかります。
 まずはサンプルを発送してテスト調理。
 その按配を見てから「青木宴《春編》」の料理内容と、素材の発注を最終決定し、発送ということになりました。

 ふ~。

 って、大変だったのは、私なんかより岸さん、福臨門のキッチンのスタッフ。

 そして、登場したのが画像、4品目の料理の「豬肺杏仁湯」。
 まさか、この料理が日本で食べられるとは!
 それだけでも、感極まったのでありました!