2010/05/23

祝開店!広味坊 成城学園店!の2

 五十嵐創クン。千歳烏山、祖師谷大蔵、三越日本橋に店舗を構える「広味坊」を指揮する五十嵐久夫さんの次男坊(だったはず!)。現在「美虎」のオーナー・シェフを務める五十嵐美幸さん(てか、美幸ちゃん!)の弟です。

 創クンとは美幸さんが「広味坊」の千歳烏山店の料理長を務めていた頃に出会いました。
 当時の「広味坊」、ホールとキッチンは五十嵐家の一家、親戚、勢揃い。総指揮をとる社長の五十嵐久夫さんは当時、体調芳しくなし、なんてことからキッチンの裏に潜み、社長のおかみさん、美幸さんの妹のみほさんがホールを担当。店の左隣は長男が店を運営してました。
 実はそちらが本来の「広味坊」の発祥の地。後に右隣に新店舗。それの料理長を美幸さんが担当。その後、長男が店をたたむことになり、元々の「広味坊」は新「広味坊」のキッチンに。

 その頃、創クン。中学生だったか、高校生だったか、五十嵐家の方針に倣い、学校が終われば家業の手伝い。洗い場で皿洗いをしていたのを覚えています。その後、東京農大に進学し、卒業後、五十嵐久夫さんの指導の下、千歳烏山店の料理長に、なんて話を聞いてました。
 当時の創君、美幸さん曰く「社長(って久夫さん)が色んな店に連れていって私なんかよりも美味しいもの一杯食べてるし、将来有望、なんです!」なんて話に、興味津々、その行く先を楽しみにしてました。

 「懐かしいね!」なんて話に盛り上がりながら、早速、成城学園店のメニューを拝見。
 そしたら、面料理とディナー・コースのみでアラカルトなし。
 ディナー・コースの内容を尋ねたら、好みで選べる前菜、サラダ、点心(主に水餃子で、タレは好みで)と続いて北京ダックやふかひれ料理、もしくは鮑、海鮮、牛肉などのメインが一品。それに締めくくりが好みで選べる面料理で、後、デザートという内容。

 「面料理もディナーコースもお客様の目の前で取り分けたり、調理したりするワゴン・サービスなんです!」と創料理長。
 「え!? そしたら、(千歳)烏山店や(祖師谷)大蔵店みたいに、その日のお薦めとかアラカルトはないんだ」
 「ええ、私もほんとはいろいろやりたいんですけど、とりあえずは、面料理、それにディナー・コースのワゴン・サービスだけなんで……」

 生憎、訪問した夜、うちのかみさんロンドンに出かけちゃって、私ひとりきり。ひとりじゃディナーコースを頼むほどでもないし、なんだか味気ない。
 「ディナーコースは今度にします。面料理なんだけど、どれがおすすめ?」
 というのも、豪華な「ふかひれと黄ニラ面」、「鮑面」、「雲呑面」、「八宝菜面」、「麻辣面」、「つけ汁酸辣面」など、種類豊富でバラエティー豊か。

 目に留まったのは「汁なし担々麺」。
 「汁なし担々麺にします。でも、これだけじゃ物足りないなあ。あの、すんません、なんか炒め物、一皿か二皿、作ってもらえない?」と、昔っからの知り合いってことで無理を承知でごり押しのお願い。いけない横暴なオヤヂです。

 「う~ん、はい、わかりました。どんな料理にしましょうか?」と創料理長。
 「ディナーコースの中の一品とか……」「本日のディナーコースには、炒め物、ないもんで!」と、キッチンに消えた創料理長。
 やがて、小皿の一品が登場。「あの、これ、サービスです!」とアテンドの方。
 なんて話に無理強いしたさすがの私も恐縮した次第。
 その一品は「車えび」の甘酢炒めのマンゴ・チリ・ソース風味。

 衣をまとって揚げた海老をフルーテイな甘酢あんで絡めた糖醋仕立てがその基本。さらにチリというのは辣油だそうです。
 甘酢のあんがかかったえびを噛み締めると、しっとりの皮ですが、さくっとした「酥」の触感を残してます。
 ぷりっとしたエビの触感、身が旨い。
 一緒にミニ・トマトや生の金針菜なども皿の中。
 甘酢あんの甘味、酸味の按配、味わいは、日本独自の広東料理の伝統を受け継いだ調理によるもので、濃厚な味付け、味わい。
 社長、というか広味坊グループの総指揮をとる五十嵐久夫さん直系の味、なのは紛れもない。
 千歳烏山の「広味坊」に頻繁に通っていた昔、美幸さんの創作料理の数々を食べましたが、その基本、根っ子は五十嵐久夫さんの広東風味を下敷きにした料理にありってことは、食べ重ねれば理解できました。
 ともあれ、五十嵐久夫流のオーソドックスな広東系の料理の数々を思い出しました。五十嵐久夫流の系譜は美幸さん、そして、創くんに受け継がれているってわけです。

2010/05/22

祝開店!広味坊 成城学園店!

 過日、小ぬか雨降る夕方時、駅前でのことです。
 「広味坊が開店しました、よろしくお願いいたします」と、眼鏡に白シャツ、黒ズボン姿のちょい太めの青年がビラ配り。
 「ン!?」と思い、その青年に呼びかけて尋ねました。
 「「広味坊」って(千歳)烏山の?」
 「はい、そうです!」
 「どこに出来たの?」
 「はあ、あの、この通りまっすぐで、通りに出まして右折して、すぐです!」
 「あの、料理長は誰?もしかして(五十嵐)創クン?」
 いきなりの話に青年は一瞬、目が点状態!
 「は、あの、そうですけど……?」といぶかしげな表情が見て取れます。

 そんな話を知って早速「広味坊 成城学園店」に下見調査。
 成城学園の駅の北の通り。酒の宮崎商店の後に「ドミニク・サブロン」が出来た通りです。
 そうだ、開店したばっかりの「ドミニク・サブロン」で「ブール・ビオ・オ・ルヴァン」と「クロワッサン」を買いましたが(私も結構初物食い!)。
 ところが、駅前で焼いてるわけでなくて、新宿の工場で焼いてるそうで。それが、パンの焼き方、とっても「お上手!」なんで、びっくり!がっかり。相当なお値段ですから、がっかり度も高い。

 粉はいい感じ。酸味のある味わいもなかなか。ですが、焼きが足んないもんで、皮のパリ感が乏しい。中身もしっとり感を残したまま。味はあっても風味が足りない。香りがない。問題は焼き加減にあり、なのは明らかです。もう一押し、もうひと我慢、窯に入れて置けばいい感じになりそうなのに。

 焼き加減の按配、一体、誰が面倒みてんだか。見かけだけで焼き上がり、なのは明らかで、焼きかたとってもイージー、なんてのは食べれば歴然。季節や毎日の季候、温度に合わせて焼き加減を調整、なんて技がなく、誠意も熱意も汲み取れない。
 海外ブランドとの提携商売のパン、お菓子、チョコレートって、ロクなもんないですね。
 あ、話、それました。
「こんちは、あの、料理長さんいます?」
店に入っていきなり尋ねる風体よろしからぬオヤヂに、スタッフの皆さん、あっけにとられ。
 ま、当然でしょう。ゴマ塩の髪、その頃、伸ばし放題のまんま。それにご近所お出かけ専用のヨレクロ(あ、くたびれてヨレヨレになったユニクロの上下なんでヨレクロ!)ファッション。
 「はあ?(しばし沈黙)、あ、は、はい……おりますが?」
 というスタッフの目線を追うと、カウンターの隅に創料理長。
 「こんちは!小倉エージです!」と話しかけるまでもなく
 「あ、あ、小倉さん!久しぶりです!」と創料理長。
 久々の再会話にしばし盛り上がったものの、開店時間だったこともあって、来訪を約束して退去。

2010/05/21

浅草「龍圓」の「冷やし中華」

 今年初めての冷やし中華/涼面を食べました。場所は浅草、国際通りの「龍圓」です。
 私、大の冷やし中華好きすが、外では滅多に食べません。その理由、外で食べると大抵の場合、例の旨味調味料が混入。ってことで、食後の痺れ、痙攣を恐れて食べられない。旨味調味料の混入なしの冷やし中華ならOK!

 とはいうものの、そんな店、滅多にありません。とはいえ探せばあるんですね。それが「龍圓」の「冷やし中華」。前々から噂に聞いていましたが、私、初体験。ネットで「龍圓」の「冷やし中華」を検索したら、絶賛の言葉続々!

 ところが「龍圓」のメニューを探してもない!
 「ええ、あの、メニューには乗っけてませんけど、ご用意できますから」と店主の栖原さん。「涼麺一丁!」と、キッチンにオーダーする栖原さん。 え!?ってことは誰が作るの?

 目の前に現れた「冷やし中華」。「旬の野菜がたっぷり!」とネットに書かれてある通り。
 その上に茹で鶏、叉焼、豚耳とおぼしき焼き物系の具もたっぷり。
 おまけに「ほたる烏賊」なんかも!

 「冷やし中華」、ほんのひと口、具を口にしたりしますけど、韓国の麺、丼系の料理と同様に、麺を具材の山からより出し、具も麺もゴチャゴチャに混ぜあわせ、さらにタレをレンゲで掬ってまわしかけ、というのが私流の食べ方。

 麺が旨い。
 細めで、腰はほどほど、タレを適度に吸い込んでシットリ系。讃岐ウドンみたいに表面滑らかなツルツル系ではありません。しかも、噛み締めれば小麦とつなぎの玉子の味、風味。その細さ、香港の生麵ほどのもので。ですが、基本は伊府麺仕立てで、香港の生麵のようなかん水ぽさがありません。むしろ玉子入りの手打ちのパスタ、カッペリーニに似た、細さ、触感、味わい風味がある。何でも手打ちの自家製麺で、裁断だけは機械まかせ、なんだそうで。

 そして、タレ。これが絶妙。ごまだれ系、ってことで、練り胡麻がベース。ですが、練り胡麻を使ったタレ特有のくどさ、しつこさ、重さは皆無。甘味は練り胡麻のそれ。他に砂糖もプラスなのか甘味のくどさもない。 それに、爽快ですっきりした酸味の加減が実に見事。酢の直接的な酸っぱさは皆無で、かといってまろやか、っていうような重さもなくて、軽やかですっきりとしたフルーティーな酸味です。
 「これは良いや。この人すげえ!」 と思いました。
 そのわけを尋ねたら「お酢に、粒入りのマスタードを使ってますんで!」なんて答え。 爽やかな酸味、というのはその組み合わせの成せる技?

 実は私、冷やし中華のタレ、気分によってレシピを代えます。ですが、欠かせないのが乳酸菌系のヒネ味と旨味。要は漬物、なんですけど、たまにコーニッシュのピクルスを使うことがあります。そん時のフルーティな酸味に似てるかな!なんて感じ。粒入りマスタードなんて話からすると、通じるところありかも。

 「龍圓」の「冷やし中華」のタレの秘密を知りたくて、栖原さんにメールしましたが今だ返事なし。 ネットで検索したらどっかのTV番組で披露した時のレシピを発見。ですが、私が店で食べたものとはなんだか違う様子。その詳細は栖原さんからの返事待ち。

 それにしても「龍圓」の「冷やし中華」の麺とタレ、それに焼き物系の具材との組み合わせ。 基本は中華ですけど、その領域を超えちゃった技がある。押し付けがましさのない控え目加減な味付けのタレがいいですね。自家製の麺、焼き物類の具材と見事にマッチング。
 日本のイタリアンがトマトの冷製のカッペリーニを生んだように、中華の域を超えた冷やし中華(なんて妙な表現ですけど)、中国料理をベースに独自アレンジ、創作による冷製の麺料理が狙い目なのは明らかです。

 課題があるとすれば、野菜との組み合わせ、でしょうか。旬の野菜、どっさりも魅力ですけど、野菜ひとつひとつの素材の持ち味、触感、味、風味。その切り方、捌き方を、麺、焼き物系具材、タレといかに同居させ、一体化させるか。

 創作意欲溢れる栖原さんですから、野菜はガルグイユ仕立てで「冷やし中華」と一体化させた「冷やし中華・ガルグイユ風」なんて、そのうち絶対やりそ!
 はて、そん時、すべてグチョグチョにしてかき混ぜて食べるのか。
 それとも、タレ絡みの麺や焼き物系具材と、野菜、別々にして交互に食べるのか、それが問題だ!

P.S
 「申し訳ございません。冷やし麺のタレ、遅くなってしまいました」と、栖原さんからメールが到着。
 その内容、先にふれたTV番組での「おしえて!うれしぴ レシピ」のコーナーで紹介された「『中国小菜 龍圓』栖原一之さんのレシピ 榊原郁恵~タレが決め手の冷やし中華 」レシピによれば
1、練りごま(白)大さじ2
2、ごま油 大さじ1 3、砂糖 大さじ3
4、酢 50cc
5、しょうゆ 80cc
6、粒マスタード 大さじ1
7、水 150cc  という内容でした。

 でも「龍圓」で食べたのと違う感じ、なんてふれたとおり、栖原さんから届いたレシピ、ビビョーに違いました。
 練り胡麻がタレの基本のベースなのは違いなし。それに砂糖、酢、醤油、粒マスタードを加えるところは同じ。ですが、醤油は中国醤油、つまりはたまり醤油の老抽をプラスアルファ。それに、酢は酢でも米酢、しかも富士酢を使用。 それに、ごま油じゃなくって、栖原さんご愛用の米油、なんですね。

 鍵を握るのはやはり練り胡麻。それに酢、しかも米酢と粒マスタードなのは間違いない。中国醤油を加えたのは甘味、コクの効果を狙ってのもの、なのは明らか。
 そして、油。ゴマ油じゃなくって米油、というのは見逃せないポイント。
 実はゴマ油の味、甘味、香り、風味、一般的には「いかにも中華!」を具現化してくれるもの。そう、いわゆる中華風ドレッシングなどでも必需品。というのも、ゴマ油の味、甘味、コク、風味というのは日本人が持つ中華料理のイメージ、その味を最も具現化するのに格好なものなんです。

 しかし、栖原さん、お店の冷やし中華のタレでは、ゴマの味、コク、風味は練りゴマを活用するだけにとどめて、ごま油を使わない。なんてことで、味の濃厚さ、くどさ、重さを軽減。さらに、米酢を使って甘味、旨味もあるすっきりの酸味を活用。
 加えて粒マスタードというのはひりっとした辛味だけでなく、酢が加えられてますから酸味もあり。先にもお話したとおり、乳酸醗酵系のフルーティーな酸味、ひねた味、旨味やこくをます。

 見逃せないのは「だし」。実は、普通なら最低でも「毛湯」、凝るなら上湯を使って「だし」の味で底力を加味、というのが一般的。
 「でも、ウチのだし、上湯は火腿なんかも加えてしっかりとったものですから、塩味が利いて味が濃くなる。ですから……」、と。

 栖原さんが選んだ「だし」は、なんと「水」!というあたりが実にするどい。
 「最良の「だし」は「水」!」なんて話、コートドールの斎須さんも語っていること。かつてランブロワージ時代、ベルナール・パコさんとやりとりした逸話にもあります。

 「いや、水に凝ってるんですよ。ですから、ウチのキッチンには「水」がごろごろ!各種ミネラル・ウオーター、軟水はもとより硬水も入手して、いろいろ試してるんです!」なんて話に大いに納得。

 それに「課題は野菜との組み合わせにあり」なんてことに関しては
 「そうなんです。まさにその通り。野菜の持ち味、個性を見極めて、そのひとつひとつ、茹でたり、蒸し炒めたり、調理と味付け、触感を変えて、一皿に盛り込む、というのが、私の狙い、目指すところなんです!もっとも、ウチでは手間隙かかりすぎるし、人手の余裕もないんですけど!でも……!」
 
 やっぱり野菜がどっさり、だけじゃなくって、野菜はガルグイユ仕立の冷やし中華というのが、栖原さんの狙い、目指すところだったんだと納得しました。

2010/05/18

三社祭 2010~雷門潜り

 三社祭、雷門中部町会のお世話になっている私です。
 15日の午前は町内御輿連合渡御、午後は雷門四ヶ町連合渡御、夜は宵宮の三ヶ町連合渡御。すべてに参加して担ぎました。

 とはいえ必死になって御輿にしがみついていたのはおいしいところだけ。それ以外は御輿にくっついて御輿の周りをぶ~らぶら。ですけど御輿の周りについてるだけで、心ドキドキ、体ウズウズ、なんてのに負けて御輿に飛び込み、担ぎ棒を触ることになります。

 午前の町内御輿連合渡御。晴天に恵まれてたっぷり汗をかきました。おまけに五月の陽射しは紫外線が強い。なんてことで鼻のてっぺんは真っ赤か。鼻だけでなく顔も灼けました。しばし伸ばし続けていた髪を五分刈にした頭の頭皮もしっかり灼けて、頭ひりひり。

雷門中部町会の御輿は町内だけでなく雷門周辺を練り歩きますが、中でも一番心がときめき、御輿を担ぐ快感を覚えるのが浅草寺参道の門潜り。

 午前の雷門四ヶ町連合渡御では宝蔵門。宵宮の三ヶ町連合渡御では雷門を潜ります。例年ならその数も増えますが、現在、浅草寺本堂が工事中のため回数が少ない。

 雷門、宝蔵門の門を潜る時、御輿担ぎの威勢の良い掛け声が門の下ではひときわ大きくこだまする。仲見世の狭い通りを担ぐ時のわんわんのこだま、響きも刺激的ですけど、それにも増して門潜りの際のあのこだまの快感はこの上ない。

 門の下を潜りはじめ、わんわんのの響きが耳に届くと、御輿棒は肩に預けたまま両手を高く上げ、手拍子打ち鳴らします。雷門中部町会の町内渡御でのなによりもの楽しみ、醍醐味です。

 そして16日、三社の本社御輿の渡御の日です。 雷門中部町会の今年の本社渡御は二ノ宮。午前9時20分に雷門前から出立。それが今年、さるツテで仲見世町会の半纏をゲット。仲見世は本社御輿の宮出しの後に始まる本社御輿の町内渡御の最初の町会。宝蔵門前から仲見世を抜け雷門外までがその区域。

 なんとか本社御輿を担いで雷門を潜れないものか。というのは長年来の念願でした。それが果たされることになるかも!なんてことで胸が躍る。はたせるかな、仲見世の本社の担ぎ、担ぎ手は、列に並んで順送りの入れ替えというルールがありました。

 順送り、ってことは本社の御輿、争うことなく確実に担げます。けど、雷門を担いで潜れるのか、ということに関しては運が左右する。担ぎ順の巡りあわせ次第ってことになります。なんとか本社の御輿を担いで雷門を潜りたい。その一心で雷門が近づくとともに(順番待ちの)並びを按配。順番待ちは3人交代。なんてことで、雷門までの距離を目分しながら、後に並ぶ人を「お先にどうぞ!」なんて先に送り込む。 手前勝手なこととは承知していても、どうしても本社を担いで雷門を潜りたいという執念は抑えきれない。

 やりました。念願の本社御輿を担いでの雷門潜り。
 わんわんのこだま、最高の気分でした。
 なんだかこれから良いことありそ!

2010/05/11

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして今月の私の点心。羅漢果、百合根、蓮根の糖水。
 中国料理名、尋ねるのを忘れました。判明次第、ご報告。
 この糖水、私、初体験。羅漢果と杞子、蓮根の糖水、それとも、豚肉、野菜など羅漢果を煮込んだ煲湯は経験あり。もしくは、蓮の実の蓮子、百合根、蓮根、紅棗が入っていたり、いなかったりの糖水もです。ですが、羅漢果、百合根、蓮根が一緒、というのは初めてです。

 色々検索してみたら、百合根に蓮根、紅棗、あるいは、蓮の実を加え、甘味をつけて煮込んだ糖水は、どうやら北方のものらしい。香港にあるのかどうか、作った久保田さんが教えてくれるはずですから、返事を待ちます。

 この羅漢果、百合根、蓮根の糖水、羅漢果のあの独特のクセのある味、香りが支配的。そうです、飴にもありますよね。あの味です。甘味よりも、薬効的な雰囲気濃厚でほんのり苦味、渋味も。なんてところで、百合根のでんぷんの甘さ、こくが効果を発揮。蓮根の澱粉質も甘味を増加。羅漢果、蓮根に百合根、蓮の実、場合によっては「紅棗」や「蜜棗」を加えたりするのは甘味、風味を加味するためでしょう。

 自然で朴訥、どこかひなびていたりするナチュラルな甘味。しかも「熱」ですから、ほのぼのとしていて心温まる。胃が休まる。優しい味わいが魅力です。おまけに、羅漢果、咳止め、痰づまりに効果的。煙草と縁が切れない私には、うってつけ。

 もしかして冷たい「凍」だと、すっきりと口爽やかなんでしょうか。
 今度、試してみようかな。けど、食事の後ってことになると、やはり「凍」よりも「熱」を好む私ですからその機会がありますかどうか。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「本日凍甜品/本日のデザート」は6品から好みのものを選択。私は下の中央の「湯水」に注目。羅漢果、百合根、蓮根がその素材。冷たい「凍」と温かい「熱」があるってことで、当然、「熱」を選びました。

それを待つ間に久保田さんの今月の「懷舊点心」が登場。
なんと「叉焼酥」。玉子の黄味を塗ったらしきパイ生地の黄金色の照り、輝きがなんとも懐かしい。その上には(あれ?ピーナッツだったけ?の)トッピング。
 噛み締めればまさに「酥」、さくさくさっくりの触感。同時に、醤油味、塩味、甘味、こくのある旨味が入り混じった中味の叉焼餡が口中に広がります。
 甘味も塩味もちょっと濃い目、というのが昔懐かしい。

 以前にも話したように香港の飲茶の点心、こと近年、70年代半ばに美心集団の翠園酒家、次いで美麗華集団の「翠亨邨茶寮」の出現とともに変化。「陸羽茶室」は別格として、「蓮香楼」、「得雲」、「高陞」などの伝統的な老舗の茶楼での点心を現代的に変容させ、シェラトンやリー・ガーデン・ホテル内に誕生した料理店がそれに倣ったもの。

 80年代半ば、ユニコーン・グループの各店や東海グループ、ことに、「麗晶軒」、「凱悦軒」、「嘉麟楼」などの超高級ホテル内レストランの登場とともに飲茶の点心は劇的な変化を遂げたのでありました。

 そんな時代区分からすると今回の「叉焼酥」。伝統の味、風味を残しつつ、70年代半ば以後から80年代にかけて洗練を見せ始めた初期ホテル系内レストランでの頃のものを思い出します。パイ生地出来栄え、その触感、中味の餡の甘味、塩味、旨味、こくのバランスがそんな感じ。

 ほんと、私、あの頃、って80年代ですけど、には香港に出向けば、主に朝、昼は飲茶。老舗の茶楼を片っ端から塗りつぶし。香港島の東西、九龍半島の付け根まででかけたものでした。 思い出すのは84年か85年だったか、ブルータスの香港の食取材にアドヴァイザーとして同行。

 「新派広東」の紹介が主な目的でしたが、その際、一緒したカメラマンの西川治さん、新しいもの、流行物好きな香港人の間で話題だった東海海鮮酒家の新派趣向の料理、リー・ガーデン・ホテル内の彩紅館だったか。洗練された雰囲気、新派系飲茶の点心がお気に召さず、おカンムリ。

 そこで西川さんを油麻地の豪華酒樓へ。勤め前の労働者、サラリーマンは言うに及ばず、おじいちゃんおばあちゃんが朝早くから席を陣取り長居するといった庶民的風情この上ない店。味も脂っこくてこってり濃厚。西川さん「これぞ飲茶!」とばかり、その雰囲気、伝統的で昔ながらの点心がお気に入り。バシバシ写真を撮影されました。

2010/05/09

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・粉。今回は「潮式生蠔粥/潮州風 牡蠣と豚肉のお粥」。
 アテンドの柏木さん、土鍋でサービスされる粥の熱さに気圧されてか恐る恐るの感じでテーブルに。というのも、土鍋の中の粥、ぐらぐらふつふつ煮え滾って、熱いあぶく、ぶくぶくごぼごぼ、そこかしこ。おまけに、湯気もうもう、ですから。
 お披露目の後、一旦、部屋から運び出され、一人ずつ取り分けられた碗がテーブルに届いてもなお、湯気もうもう。
 見るからに舌を火傷しそうで、なかなか手が出ません。
 しばし「粥」が冷めるを待って表面が「糊状」に張り詰めたかけたところで、レンゲでひと混ぜ。すると、ぶつ切りの牡蠣がそこかしこに顔をのぞかせる。しかも牡蠣、ぶつ切りの断面から想像するに大ぶりの牡蠣の様子。  以前、暮れの12月のことですが牡蠣の卵焼きを食べた際、赤坂璃宮の牡蠣は大船渡のシダッチの「赤崎冬香」ってことでしたが、大船渡、先のチリ津波で大変だった様子。ということからすると、別の牡蠣?
 ともあれ、牡蠣の卵焼きの「芙蓉煎蠔餅」が香港、潮州、台湾でも小ぶりの牡蠣が主体ですが、日本では牡蠣の種類が違うのか、大ぶり主体。ですが、その分、味わいが増す、リッチになるのが嬉しいところです。

 それ以前に「粥」。広東式と潮州式では、その作り方、出来栄え、味わい、風味などことごとく違います。まず香港の「粥面店」で一般的な粥は米粒から作りますが、強火で最初は沸騰させてからは「老火」つまりはとろ火で長時間炊く、というよりも米粒の形状が消えうせるまで煮込み続け、とろとろの状態に仕上げます。とろみたっぷり、「滑」つまり滑らかで、さらには「綿」、舌にとろけるような状態になっているのが良し!とされるわけです。

 一方の「潮州粥」。米粒から作る場合には、強火で一気に沸騰させ、その後も強火に炊き続ける、というか煮込み続け、米粒に7分ほど火が通ったところで、様々な具材を加え、具材のだしを生かしながら仕上げます。結果、米粒の形状が残っていたりするのが普通。米粒がなくなっていることもありますけど、「とろり」ではなく「どろり」としていて、腰と粘りが強い。中には粳米ではなく糯米を使ったものもあります。

 米粒の形をとどめている、というのが特徴のせいなのかどうか、店によって、それも潮州系の「粥面店」ではなくて潮州料理を看板にする店では米粒からではなく、炊いたご飯から作る店もあり。日本でもよくある雑炊に似てたりしますが、それでも案外、煮込まれているのでとろりではなくどろり。さらに、炊いたご飯から作ったものはざらりとした触感がします。

 今回の「潮式生蠔粥」。
「潮州風 牡蠣と豚肉のお粥」とあるように、牡蠣がたっぷり。おまけに豚の赤身肉の挽き肉が具材。そのだしが旨味を増す。ということからすると「蠔仔肉碎粥」ってのが正式名かも。 そんなどろり、こってり、こくのある「潮州粥」。
 揚げたピーナッツと「咸菜」。
 そうです、前回紹介したたかなの漬物が添えられます。

 「このお粥、どろっとしていて、旨味もこくもあるし、日本のさっぱりしたお粥と全然違うね」
 「そうそう、結構、どっしりと重厚な感じだし、すぐにお腹が一杯になりそう」
 「でも、そんな感じなのに、すいすい食べられちゃうのが不思議」
 「それより、これ、食べてると体が熱くなりません?なんだか体がほてってきそうな感じで」と、思わず上着を脱いでしまった私でありました。

 この「潮式生蠔粥」、作り方、粥の正式名とか色々と袁さんに聞きそびれ。橋本さんを通じて確認中ですので、返事が到着次第、追加報告いたします。
 熱々で、どろり、しかも濃厚で、旨味、風味たっぷり。
 その量からして途中でギブ・アップかと思いましたが、最後までペロリ。
 お粥は別腹、ってことでしょうか?

2010/05/06

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」。「魚肚」を細切りにし、玉子で炒めあわせ、ほぐした蟹の身、火腿の千切りをトッピング。
 驚きました!
 というのも「魚肚/魚の浮き袋」、「花膠」とも言いますが、香港では近頃品薄ってことから値段高騰。
 干貨といえば一般に「鮑参翅肚燕」、「干鮑(干し鮑)」、「海参(干しなまこ)」、「魚翅(ふかひれ)」、「花膠(魚の浮き袋)」、それに「燕窩(燕の巣)」が重要品。もっとも、その価値基準、値段に応じて近頃は「鮑翅肚参燕」といったように、「花膠」と「海参」と順序が入れ替わった様子。以前飛びぬけて高値だった「燕窩」も飼育物の質の安定し、値段もリーズナブルに。しかし、「魚肚/花膠」の値段は高騰一途だそうで。
 「魚肚」、魚の種類は色々ですが、主に「にべ」、「ぐち」など「いしもち」系の魚がその主流。しかも、雄と雌があり、形態でその見分けつきます。で、乾燥品を戻し、様々に調理します。水で戻した「魚肚」は乳白色で、滑らかな舌触り。噛み締めればかすかな弾力があり、すっと歯が入ると同時にねっとりした粘着質の触感があります。膠質主体の特有のもので、コラーゲンたっぷり、なんてことから美肌の効用なども語られてます。
 「魚肚/花膠」はふかひれなどと同様にそのもの自体には味はなく、味を煮含めて調理、というのが一般的。とはいえ、ふかひれがそうであるように、巧みに戻してもやはりどこか磯の香りが残ってます。やっぱり海のもの。
 「魚肚/花膠」の一番の御馳走は干し鮑、干しなまこ、干し椎茸などと二湯で煮込み鮑汁などで味付けした「海味一品煲」。それで思い出したのは「魚肚/花膠」単品だけで主役を張るってことはなくて、他の干貨、乾物と組みあわせての料理が多い。そこに鵞鳥の水掻きなんかを添えたりします。
 そういえば「魚肚」を素材にした「湯」の料理で「韮黄瑶柱花膠湯」というのがありますけど、あれも「瑶柱」、つまりは「干し貝柱」と組み合わせたもの。干し鮑や干し貝柱のようにそのものから「だし」は出ない、なんてとこが弱点ですか。
 そんな「魚肚/花膠」が堂々の主役を張るのがこの「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」です。戻した「魚肚」のぷるんと滑らかで、ねっとりとした弾力のある舌触り、触感、その美味を生かした料理です。
 「魚肚」の細切り、炒めた玉子、もやしとともに「滑」、「嫩」、「酥」など、様々な触感が混然一体となって生み出す美味を味わうという趣向。ちなみに「桂花」というのは「きんもくせい」に模したということで、きんもくせいの色、黄金色で仕上てあるのがこの料理の特徴です。
 似たような料理にふかひれを素材に玉子、もやしなどと炒めた「桂花炒魚翅」というのがあります。日本だとふかひれは「よしきり」、「もうか」の「排翅」が主流。「桂花炒魚翅」の素材は「翅絲」、つまりはふかひれの繊維が太い「海虎翅」の胸ひれなどの「生翅」がふさわしい。なんてことで、日本で極上の「桂花炒魚翅」は滅多にお目にかかれない。香港の福臨門でたまに食べましたが「こんなふかひれの料理のありなんだ!」と感心しきり。
 ということでは「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」は「魚肚/花膠」が主役を張る贅沢この上ない料理。
 目を丸くし、驚いたのもそんな理由があってのこと。しかも、この「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」、蟹肉、火腿の細切りをトッピング。それも贅沢です。が、それにもまして「魚肚」の美味、たまりませんでした。
 どうしよう、こんな贅沢、味わっちゃって!

2010/05/05

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 そして「油魚煮咸菜/うつぼとからし菜の煮込み」。

  「ン!? うつぼ?」。
 「うつぼ」と聞いて、子供の頃食べた和歌山から送り届けれた「うつぼの干し物」を思い出しました。まだら模様の皮が身に張り付いた「うつぼの干し物」。炙って食べましたが、炙ると干し物にもかかわらず脂がじんわり滲み出る。しっとり加減の身になりました。同時に、独特のクセのある匂いがあたり一面、なんてことを覚えてます。私、結構、病み付きになって、だからこそクセのある独特の味、香り、強烈に印象に残ってるんですが、東京に来て以来、出会ったことなし。そんな「うつぼ」、そういえば赤坂璃宮の3月だか4月のお薦めの料理にあったような記憶あり。それを、今回、食べることになるとは思いもよりませんでした。
 「うつぼ」の唇の舌触り、ぷるぷる、とろとろの感じ。ゼラチン質、コラーゲン質がたっぷりみたい。身は脂分たっぷり、ぎとぎとの感じで、身はゆるゆる。噛み締めると、しっとり潤んでいて、甘味を含んだ濃厚な味が口中に広がります。しかも、結構、どっしとした重量感とインパクトがあります。
 うなぎに脂分とコラーゲン質を加えた感じ、かな?しかも、かつて食べたうつぼの干し物を炙って焼いた時のような特有の匂い、クセはさほど感じない。この「うつぼ」の肉の旨さ、味付け、調理が素晴らしい。
 「うつぼ」の味を引き立て、同時に存在を主張しているのが漬物の「咸菜」。「咸菜」には色々種類がありますが、今回の「咸菜」は潮州の「包心芥菜/大菜」、「結球たかな」の漬物です。潮州料理の「湯」、土鍋炒め煮込みの「煲仔」など、「潮州咸菜/包心芥菜(大菜)」の活用範囲は広く、料理の種類は多彩で豊富。
 そんな「咸菜」の塩味、酸味、醗酵したひね味、醸し出す旨味が「うつぼ」と見事に調和。さらにはだし、どうやら「二湯」で煮込まれた様子で、だしも旨味を加味。さらに醤油など調味料の按配、分量、匙加減が絶妙で、味、風味を引き締めてます。脂分とゼラチン、コラーゲン質を含んだ「うつぼ」の身のこってり濃厚な味わい、それに塩味、酸味、旨味のある爽やかな「咸菜」という組み合わせが、面白くて絶妙です。
 この料理を食べながら思い出したのは潮州料理の「海鰻煮咸菜」。もっとも「海鰻」というのは大雑把な表現で、あなご、はも、うつぼなど、海に生息する鰻に形態の似たものの総称です。とすると「うつぼ」、中国名でなんていうんだろう。検索にかけて判明したのは「爪哇裸胸鳝、俗名、薯鳗、钱鳗」ってことでした。 袁さんが「油魚」としたのは、その資質からのことでしょう。
この「油魚煮咸菜」。袁さん、「海鰻煮咸菜」をヒントにしたのに違いない。いやもしかして袁さん、香港か潮州で「うつぼ」を使った「海鰻煮咸菜」を食べた経験があるのかも。潮州風味の「家郷菜」をプロの手腕で見事に仕上げた一品です。
 それにしても袁さんのレパトリーの幅広さ、豊富さに改めて感心するとともに敬意を払いたくなります。これまで日本ではなかなか出会えなかった広東地方の家郷菜、豪華で貴重な素材による宴会料理から旬の味、日常素材による広東南部の羊城、順徳料理リ、潮州、客家の小菜まで、次から次へと登場。
 こんな料理、他にももっともっと食べたい!袁さんにいろいろリクスエトしなきゃ。袁さんよろしくお願いします!
 そういえば「うつぼ」、鰻を蜜汁仕立てでバーバキューにした「蜜汁焼鱔」のように「蜜汁焼油魚」なんかでも食べてみたいなあ。相当いける感じがします。それから「潮州咸菜」を使った各種のスープ、例えば「咸菜胡椒豚肚湯」とか「咸菜胡椒粉腸湯」、鰻だけでなく魚、それもハタ、アイナメなどの高級魚じゃなくって、鯵や紅衫(いとより)、黄魚(いしもち)などを使った潮州風味の煮込み込み料理の煲仔、食べたいなあ。
 袁さんなら間違いなく実現してくれそうです。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯」は「是日例湯/アイナメとクレソンのスープ」が登場。
 「アイナメ」を煎り焼き、つまりは「煎」して、クレソン、蜜棗、百合根とともに煮込んだスープです。嬉しいです。私は狂喜乱舞。
 実はこの日を先立つこと何日か前、かみさんに請われてかみさんと友人何人かの食事、「赤坂璃宮」銀座店に袁さんの「家郷菜」を依頼。 その幕開けに登場したのがこの「アイナメとクレソンのスープ」。

 「湯」は日常素材を使った「例湯」で、と橋本さんを経由して袁さんにお願いしたところ、「袁さん、アイナメとクレソンのスープは如何ですか、とのことなんですが」という橋本さんからの返事。

 「アイナメ」、日本の素材、ことに海鮮料理では様々に調理可能で、その資質、中国料理の各種の調理にぴったり。ですが、この季節、つまり晩春から夏前にかけては、身も大きなり、値もはります。そんなことで、どうしょうかと思案しましたが、袁さんにまかせたところ、かみさんの宴では「アイナメとクレソンのスープ」が登場。その出来栄え、優しい味、風味の豊かさは、香港の味、香り、そのままだったと大感激。

 ぐやじい思いでいたら、この日の「湯」で「アイナメとクレソンのスープ」が登場。狂喜乱舞のわけはそんなことにもあります。
 なんといっても「アイナメ」がでかい。「煎」の焼き色を残しながら、スープとして煮込んでなおその勇姿を残す「アイナメ」に感激。

「あ、これ、この甘味、コク、百合根ですか?」と、鋭いひと声!
そう、スープから具を取り出し、別の皿に分けて、スープはスープ。具は上湯とたまり醤油仕立てのたれで食べるのが、こうした「例湯」の食べ方。ですが、今回、具を載せた皿には百合根の姿なし。しかし、碗に取り分けられたスープの底に百合根が潜んでました。百合根の澱粉質、その甘味、それもコクになるぐらいぼってりの感じでスープ自体に入り混じり、舌の上にはざらっとした触感が残ります。

 甘味には蜜棗のそれも入り混じり、少しばかり苦味もある。
 苦味ってことではクレソンもそうですね。 とはいえ、主役はやっぱり「アイナメ」。
 その美味、こくのある旨味、風味。白濁したスープはその証。 海の魚だけあって、磯の香り、塩の味がする。ですが、海水魚特有の臭みはしっかり抑えられてます。生姜もそうなのかな。それ以外に、もしかして陳皮なんかも?そのあたり、袁さんに尋ねてみないと、真相はつまびらかにはなりません。

 優しく、穏やかな口あたり。ですけど、味は濃厚で、どっしり。甘味、ほっくりとしたこく、深みのある味わいに、苦味がふいと頭をもたげます。なんて風に、味、風味、香りが様々に変化。

 具は具で旨い。もしかしてエキスをすべてスープに取られて、味わいもなし?なんて思った「アイナメ」の身、たれをつけて食べてみると、その存在を主張するように、旨味が残っていたのにも驚きました。なにしろでかい「アイナメ」でした。

 日本の素材を使って、香港の味、風味を再現、という袁さんの腕、技に感心しながら、「アイナメ」、その調理、味付けで、様々な美味、風味を生み出す日本の中国料理における貴重な魚、その存在を再認識しました。

 ちなみに「アイナメ」、中国では身に六本の縦の側線が身にあることから「六線魚」って言うそうです。

2010/05/04

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「湯」かと思ってたら「椒塩天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」が登場。
 ご覧の通り「黄金色」に輝く「天使海老」。しかも、大蒜、葱、赤唐辛子の微塵切りの揚げ物がたっぷりまぶしてあります。 ということは煎り焼きして塩・胡椒で味付けによる舊式の「椒鹽煎蝦」ではなく、「避風塘」式のもの。だから日本の料理名「スパイス揚げ」にも納得。
 そういえば香港のスーパーなどでは調味料として塩、胡椒を混ぜた「椒鹽」が売られてます。もっとも、大抵は「味精」入りですので要注意。自分で作るのに限ります。

この「避風塘」スタイルの「椒鹽煎蝦」。
もともとは台風などに備えた船舶の避難所が設けれらた銅羅湾の船溜まりの一角に誕生し、庶民の憩いの場となった船上屋台、水上夜総會の一軒が始めた「避風塘炒辣蟹」がその発端。「喜記」がその最初の一軒、という説がもっぱらです。

 「喜記」を始めた廖偉雄さんが語るには、漁に出て暮らす水上生活者は体力を消耗し、汗も大量にかくってことから辛味のある味、風味、濃い目の味付けを好む。それなことから大蒜、唐辛子などをふんだんに使った独自の調理方法を考案。それを改良したのが「避風塘風味」。

 最初は蟹が素材だったのが、海老、蝦蛄(しゃこ)を素材にした料理が登場。 その後、銅羅湾の船溜まりの水上屋台は無許可営業によるものもあって政府が取り締まり、営業休止の処分に。海鮮料理で評判だった「喜記」、粥で評判だった「興記」などは店舗を構えて営業開始。

 それまでに香港の主に大衆的な海鮮料理店ではその「避風塘」スタイルを真似た、というか、ぱくった料理が続出。一挙して広く紹介されることになった、という経緯があります。
 基本は大蒜、唐辛子、葱、葱頭他、香味野菜を微塵にして揚げたもの。中にはパン粉を加えるなど、それぞれに店ごとに創意と工夫あり。

 袁さんの「避風塘」スタイルの作り方、上品で洗練されてます。この種のスパイス、下手な店だと「味精」たっぷりな上に、油の質、揚げ方がお粗末で、しびれるだけじゃなくて胸焼けを起こしますから。

 それより、驚いたのは「天使海老」。
 「この殻、柔らかい!殻つきのまんま食べられちゃう!」なんて声が上がります。
 画像撮影で食べることに遅れをとった私。
 早速、口にしてみるとなるほど、殻が柔らかい、というよりも、薄い。 新しい殻に脱皮したみたいに薄くって、ぱりと言う歯応え以上に、さくさくのソフトな噛み応え。 しかも、なにより殻がうまい。

 天使海老に限らず、この「椒鹽焗蝦」にしろ「豉油皇蝦」にしろ、鍋使いの上手い料理人が調理すれば、殻ごとそのままぽりぱり食べられます。それに、殻はぱりぽり、中の身は火が通っていながら、生のようなねっとりの触感を残しながら、噛み締めれば甘味、旨味が浮き立ちます。

 ですが、この天使海老、薄い殻の味、風味が抜群。おまけに、身も甘い。ねっとり感を残した巧みな調理にも感心。ですが、身そのものの旨味、風味、ということに関しては、ちょっとばかり、茫洋、ぼんやりとした感じ。そうか、だから袁さん「避風塘」スタイルの味付けにしたんでしょうか?
  それにしても「天使海老って?」と、実は私、初体験。
 食べた時、山下さんか柏木さん、それに橋本さんに詳しく聞けばよかったんですが、会議に夢中で聞きそびれ。
 ネットで検索したらニュー・カレドニア産の養殖の海老。品種、育て方、特別なようですね。ということは「基圍蝦」の一種、ってことですか。

「椒塩天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」。殻の薄さ、その美味、味、風味に魅せられました。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月も月を越しちゃいました10年4月の「赤坂璃宮」銀座店報告。
 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。 
 一見、いつも通りのようでいて、先月来、一皿の焼き物の構成、趣き、雰囲気、色あい、素材の切り方(つまりは板仕事)、添えられた野菜、その切り方、素材の組み合わせ。これまでの前菜と違います。見映え通り、味わい、風味も。
 右から順に鶏のレバーの蜜汁仕立ての「鶏肝」、叉焼、とんとろの辛味の焼き物、その下が豚の脛肉の冷製の寄せ物の「仏蹄」。その下にトマトの薄切り。野菜は人参、かぶ、萵苣薹(ちしゃとう)、もうひとつは失念、という組み合わせ。

 何がこれまでの前菜と違うのか。
 それは、切り方、並べ方、素材の組み合わせから歴然です。「どうだ!」なんて感じの堂々の勢い、威勢のよさ、強烈な主張、インパクトがなくって、なんだかおっかなびっくり、おそるおそるの感じなんです。

 もしかして今回も先月に続いて前菜担当は平林さん? その名前、なんだか覚えあり。以前、「赤坂璃宮」の譚さんが「チューボーですよ」に出演した際、譚さんが「未来の巨匠」ってことで紹介したあの長野出身の「平林クン」?

 北京ダックに添える「蝦片」を揚げ、梅干の果肉と種を選りえ分けてから、果肉を「梅醤」に、なんて作業をやってた「平林クン」?そうか、「平林クン」、焼き物担当ってことで、梁さん、金山さんのもとで修行してきたわけですね。

 さて、今月の前菜。鶏のレバーの焼き物の「鶏肝」、「蜜汁」の按配はほどほどで、鶏レバーの焼き加減もしっとりした触感を残してます。ですが、焼きむらがあって、裏の部分は焦げ加減。なんてことで、噛み締めると苦味が浮き立ちます。

 叉焼は余分な「蜜汁」が残ったまんま。つまりは焼き不足?それに、叉焼の肉の厚みからすると、その幅、加減、細め。唇や舌に触れる感触、なんだか物量感に乏しくって、しっかり食べた気がしない。この叉焼の厚みからすると、あと5ミリ、いや、3ミリかもしれませんけど、も少し幅のある切り方だと、幅、厚みのバランスがとれて「叉焼」を味わった気分になります。
 前菜に「叉焼」はたった一切れ。
 ですから、その存在、主張を明確にするには、も少し幅のある切り方がいいんじゃないでしょうか。

 辛味仕立てのとんとろ。辛味OK、焼き方もOK。
 ですけど、噛み締めれば、下拵えの塩味、ちょい不足気味な感じで、辛味との重層的な味、風味に欠けてます。

 それから「仏蹄」。下拵えの滷水の漬け込み、煮込み不足なのか、味、風味、メリハリにかけます。
 それに、切り方が厚い。唇、舌に触れる感触、ぼってりなんで、味、風味が茫洋な感じになっちゃいます。「仏蹄」はゼラチン、コーラゲン質が味わいところ。厚みがあるよりも薄い切り方の方が、唇、舌に触れるぷるん、とろりとした滑らかな感触と噛み応え、それに 味、風味も引き立つじゃないかと思うんですけど。

 そして野菜。萵苣薹(ちしゃとう)。
 私、最初、ブロッコリーの芯?なんて間違えちゃって、山下さんに萵苣薹だと教わりました。とまあ、私もいい加減。そんな萵苣薹と名前を失名した黄色の野菜。その切り方、触感、OKです。
 ですが、銀杏きりの人参、酢漬けのかぶは、形状ではなく、その厚み、切り方、も少し薄くしたほうが、触感の繊細さ、浮き立って、美味しく感じられるじゃないでしょうか。

 焼き物の味、野菜の組み合わせは基本的にはOKなんですが、その切り方、幅、厚みの按配、バランスにもうひと工夫欲しいなあ、というのが私の印象。

 実は中国料理の蝕感。唇、歯、舌に触れる蝕感、噛み応えというのは、重要なポイント。私が中国料理のコースを組み立てる時、素材、調理、味付けともに、重視しているのが触感、その変化です。
 柔らかさ、硬さっていうのは噛み締めてからの触感、味わいどころ。

 その前に、唇、歯、舌に触れる一瞬、その瞬間の感触の印象、案外重要です。素材に則した幅、厚みを計算した巧みな「切り方」のバランス次第で、味、風味、その印象、大いに違いますから。ことに前菜はその点を無視できない。たとえば、 海蜇(くらげ)なんかその最たるものでしょうね。幅、厚みの切り方で味わい、風味、異なりますから。そんな素材の切り方、つまりは「板」の技、重要なポイントだと思うんですが、なんだか意外に見逃されがち。

 未来の巨匠、「平林クン」、頑張って!応援します!

2010/05/03

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の6

 そして「賽螃蟹~“卵白の淡雪炒め」。
 実はこれを発見したのが今回のコラムを記したくなった最大の理由です。

 「賽螃蟹」は私の好きな料理の一品。香港の上海料理店で出会ったのがその馴れ初めです。そんなことから上海、及びその周辺の料理かと思いきや、源流は魯菜、山東料理、加えて宮廷料理の一品だったってことを知りました。
 
 元は宮廷料理であることを物語る記述はネットでも検索出来ます。
 曰く、清朝の慈禧太后が蟹を食べたいと所望。ところが北京は海から遠く、蟹を即座に調達するのは難しい。そんなところから宮廷の料理人、蛋の白身を使って蟹の肉を模倣、なんてあります。

 ちなみに「賽」は「競う」ってことで、たとえば「賽馬」というのは競馬のこと。香港の街中で「賽馬」の字、いろんなところでみかけます。同時に「負けない」とか「匹敵する」なんて意味もあります。

 早い話が「賽螃蟹」というのは「蟹(肉)もどき」、蟹(肉)に見立てた料理ってことです。
 その素材、基本は卵白。加えて、慈禧太后の為に宮廷の料理人が加味したのは、どうやら干し貝柱だったようです。その旨味を活用してのことだったのでしょう。

 それ以外に、基本は卵白でも、加える素材を「白身魚」に置き換えた亜流も登場。
 ところが、かつての中国での流通事情からすれば、海鮮の魚介を首都北京での入手は困難。
 沿岸地域では「白身魚」、さらには「黄魚」、つまりはいしもちなども利用されていたい様子。
 しかし、内陸部では淡水魚がその素材として使われた。
 「桂魚」ってこともあったかもしれませんが、一般には「鯇魚(草魚)」や、鯉の一種の「鯪魚」や、「烏魚」だったかもしれません。

 「賽螃蟹」が上海に伝わったとされた当時も、どうやら淡水魚だった様子。それが香港の上海料理店に伝わってしばらく、淡水魚から海水魚に変わったという足跡、歴史があるようです。

 そんな「賽螃蟹」、香港でしか味わえないものと思っていたら、なんと荻窪の「北京遊膳」のメニューに発見。「白身魚の卵白ふわふわ炒め」がそれです。

 卵白を基本にしながら、干し貝柱ではなく白身魚を具材にし、ふわふわ状に炒め、仕上げに生卵の黄味が乗っかった料理です。

 ところが、「香醋(黒醋)」が現れない。なんでまた?
 というのも、この料理には「香醋」が必需品。
 つまり、卵白を蟹の白身に見立てた料理を食べる際、より蟹の料理らしくってことで蟹を食べる際に用意される「香醋」を添えて、ますますそれらしく!というのがこの料理をより豊かに味わう方法。その流儀と言いましょうか。

 サービス担当の斉藤さん(「北京遊膳」のオーナー&シェフ、ご主人)のおかみさんに
 「すんません「香醋は?」って尋ねても、「は!」なんていぶかしげな様子。
 「香醋」をお願いして、後から事情を説明。
 当時、斉藤さんご夫婦もこの料理「香醋」を添えて食べる、それが必需品ってことをご存じありませんでした。

 そんな話を「北京遊膳」に通う顧客のひとり、バードランドの和田さんにお節介ながらもご教授。この料理、「香醋」を添えて食べたら「旨い!」。ということで、この料理を頼んだ際には必ず添えられるようになったとか。

 その事実確認もあって調べたところ、「賽螃蟹」には「香醋」が必需品。それあってこそのものだと知りました。
 似たような話が他にもあります。 長江で5~6月頃、旬を迎える「鰣魚」。
 「鰣魚」は身をまとう鱗、それも鱗の裏にひそむ美味こそが味わいどころ。鱗がついたまま火腿や冬菇などと一緒に蒸します。グリル、つまり「煎」にする料理方法もありますが、それは鮮度の落ちた「鰣魚」の調理方法。

 鱗の下の身の味は、しゅわっと緻密で繊細。その触感、味、風味、上海蟹の肉に似てるわけです。そんなことから「鰣魚」の身、「香醋」を添え、それに身を浸し(上海)蟹に似た味、風味を楽しむ、という趣向です。

 そういえばdancyuの「四川・上海料理」の特集で上海ルポを担当した安西水丸さん。食べた料理の中に魚の料理だったか「これは蟹の味がします」と現地の案内人だか通訳の人に言われたものの、「蟹の味はしなかった」なんて記述がありました。もしかして、それも似たような話かもしれません。

 多分、魚の肉質、触感が似ていることから、「香醋」と一緒に食べれば「(上海)蟹)」の味が甦る。という妄想的な美味の発想に由来するもの、ではないかと。
 ともあれ、「香醋」と食べれば「(上海蟹、河蟹)」の味が「思い浮かびます」。
 と、案内人、通訳のかた、教えてあげればよかったのに。
 編集担当の人にも、ちんぷんかんぷんだったのでしょう。

 話戻って、今回の小林武志師傳の「賽螃蟹」。
 記事には「北京遊膳」の斉藤さんの作る「賽螃蟹」の話も登場。
 素材、調理する際の油の温度差などを紹介しながら、「食べる時に卵黄と混ぜ合わせ、食感、香りともに蟹肉のごとしが狙いである」と記されてるだけです。
 香醋」を添えて「蟹」の味、風味を楽しむという中国料理の「粋」な味わい方など、なんも触れられてません。

 卵白の作り、味が蟹肉に近い。それが「中華マジック」と触れられても、説得力に欠けます。
 なんと言ってもこの料理、早い話が「(蟹肉)もどき」ですから。
 だからこそ、「香醋」があれば、そんな「もどき」がもっとらしく、本物らしく味わえる。
 それがこの料理の味わいところ、魅力のひとつです。

 そんな話、この料理の由来について調べれば明らかなんですけど、その実態、真相、検証なんかしないんでしょう。もしかして「北京遊膳」でも「香醋」が添えられることなしってことで、ご存じないままなのかもしれません。

 ところで、今回の「賽螃蟹」の上には生卵の黄味。
 それがあってこそのものなんですが、ここんとこ、鶏肉、その内蔵、鶏卵の生のもの使用、保健所かなんかでご法度のはずではありませんか?
 ところが、今回は卵白、干し貝柱の炒めものの上に、堂々と鎮座。
 ということは、料理店での生卵の提供、OKになったんでしょうか。

 こないだ沖縄のホテルの朝食で、生卵をお願いしたところ
 「諸々の事情で、生卵、お出しすることができませんので」きっぱりと断われました。
 けど、今回のdancyuの特集の撮影日、それより前の話のはず。
 ということは、東京と沖縄では、やはり「時差」がある、ってことなんでしょうか。
 その実態、知りたく思います。

 追記

 本日、最新のdancyuが到着。
 その特集「餃子づくりの天才になる!」、
 さらには「福をよぶ中国料理店」。
 おもしろそ!

2010/05/02

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の5

 そんな「蟹肉炒鮮奶」の紹介の一文にシェフ曰くとして
 「象の皺ができるように炒めろ。中国ではそう表現します」 なんてあったのに思わず「ン!?」。

 そんな表現、知りませんでした。
 初めて知った表現です。
 けど、なんだかヘンな表現。
 
 知らないこと、知らなかったことに関してはその事実、真相、実態を知りたくなるのが私の性分。歳をとるたび井の蛙だってことを思い知り、無知を嘆くことしきりの今日この頃、知りたくなります。もっとも、資料をあたったところで、ひとつの資料だけでは心もとない。やはり、いくつもの資料、文献をあたって、記述、証言を付き合わせて検証しなみないことにはその真相、事実、真実はわからない。わかりにくいものです。

 日本の中国料理関係の書籍、雑誌での記述には?と思うことが沢山あります。
 ことに目立って多いのが、料理人の証言をその事実、真相、実態を検証せず、そのまま引用、紹介したフード・ライターの方々の雑誌での記事。
 
 中国料理関係の著作物の中にもその記述は疑問あり、なんてのもあります。
 ところが、食関係の掲示板などで、雑誌、書籍からの引用をそのまま書き写し、なんてことがあるもので、あれって事実関係を検証してのものなの?なんて例、しばしば見かけます。

 それにしても「象の皺」というのは妙な例え、ヘンな表現。
 だってアトピー症の患者の症状、がさがさになった皮膚の状態を「象の皮膚」なんていいますから。実際のところは象の肌、見かけによらず柔らかくてしっとり、という話も知りました。
 それより、もしかして「象の皺」なんて表現ありかと色々調べましたが、「炒鮮奶」関係でも、食の形容、形態、形状表現でも見つからず。

 これはもう小林武志師傳に直接聞くしかない。
 「あ、あれは「象の皺」じゃなくて「象拔蚌(みる貝)」のように襞を寄せるようにして作れって、料理人が言うのをお話したんですが」という答え。

 なるほど、そういうワケか。
 そういえば小林料理長の言葉の引用の前に「まるで汲み上げ湯葉の如く皺が寄った卵白の炒め物」なんて紹介がある。広東料理独特のヘラ状のお玉で「皺」というか「襞」を生んでいくわけだ。

 それがなんで「象の皺」?
 そうか、みる貝って、象の鼻みたい。もっとも、象の鼻の皺なんて書いたらますますがさがさの感じになっちゃうからですか?
 ともかく「象の皺」の真実、真相、実態は「象拔蚌(みる貝)」のように、だったわけです。

 「そしたら「中国では~」なんて書かれてたけど、中国本土とか、中国の人の誰もがそういう表現するワケ?」
 「いや、あの、私が知ってるのは広東系の料理人だけのことで……」

 あ~あ、今回の記事の担当のフードライターの方、またやっちゃっいましたか。
 広東系の(中国料理の)料理人って書けばいいのに、「中国では~」とはなんとも大げさ。そういえば、先の「卵チャーハン」のところでも「中国人は~」が登場。

 「熱した鉄鍋に入れた瞬間に立ち昇る素材本来の香り。これが料理全体にまとわりついてる状態を中国人は『鍋気がある』と表現します」というのがその一文。

 『鍋気がある』というのは、私がこれまでにたびたび触れてきた「鑊氣(気)」、「鍋の気」のことです。
 主に広東系の料理人が「炒菜」の極意とするもので、高温の強火で一気に炒めた結果、生まれる味、香り(さらには色合い)が一体化した調理、その出来栄えの状態を示す表現。

 「鑊氣(気)」という言葉、表現は中国本土でも使われます。
 ちなみにヤフーの翻訳にかけると「鍋は怒る!」、グーグルだと「ガス鍋」、エキサイトだと「鍋の息」と出ます。どの翻訳も笑えて面白い!

 ともあれ、料理における「鑊氣」という表現は、主に広東地方でのこと。広東系の料理人が使います。それに広東系中国人が、料理の出来栄え、料理人の技量を賞賛する表現としても使います。
 ですから担当執筆者の「中国人は~」という表現はいささか大げさ。誤解を招きかねない誤った表現ともいえるでしょう。

 同じ執筆担当の方、これまでにもdancyuの中国料理の紹介記事で、こうした紹介、何度もやってます。料理人の言葉、言い分、その真相や事実、実態を検証しないまま、紹介ってことですね。いつだったかの「チャーハン特集」での「春秋」の記事でも似たような記述がありました。料理人の証言、そのまま引用して紹介。?と思うような記述でした。

 今回の特集で「ふーみん」の執筆を担当の方も、以前、チャーハン特集の「チャーハン名人になる」で、似たような誤解を生む紹介をしてました。
 それには「鑊氣」らしき記述がキャプションにあり。どうやら料理人から教わったらしいものの、その実態、意味がわからなかった様子ありあり。

 調べりゃいいのに。検証すればいいのに。
 おそらくその実態、真実、真相、事実、わかんないままキャプションに執筆。
 編集担当者も、わけわからずのまま、だったのでしょう。

 ですけど、料理人の証言、言い分、なんでそのまま紹介しちゃうんだろう。
 その事実関係、実態、検証したりしないんでしょうか?

 さて、小林武志師傳曰くの「象の皺」、ではなく「象拔蚌のように襞を作る!」。
 教えられて調べましたが、現在のところ未発見。まだ調査中。
 今度、広東料理系の料理人にあったら話を聞いて、言われの元、出典など調べてご報告いたします。

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の4

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その3が「火の力・鍋の技・油の量で中華の卵は劇的に大変身」ということで、「ミシュラン・☆」、三田の「桃の木」のオーナー&シェフの小林武志料理長の料理がなんと9品登場!

 今回の記事の小林料理長のプロフィール紹介に「辻調理師専門学校講師」、「吉祥寺の「知味・竹爐山房」を経て~」とありますが、それ以外にも色々あり。 「小林さん、竹爐山房の出身っていうから、山本豊さんみたいな料理かと思ったら、そうじゃないんですね」なんて話、しばしば耳にしますが、そういうことにも関係あり。

 小林料理長、「竹爐山房」で学んだものもあるようですが、それ以前に辻調理師学校時代、間違いなく日本人の中国料理人としてはトップに位置する知識と技量の持ち主の一人である吉岡勝美教授、その先達にあたる松本秀夫教授、吉岡先生同様香港留学の経験のある河合鉱造先生など、香港、本土への留学豊富な諸先生、さらには香港の料理人、林勝倫師傳の薫陶を受けてきた人物。

 それだけではありません。「竹爐山房」の後も東京のいくつかの店に勤務する間、本土からやってきた料理人との交流をきっかけに、その知識と体験を蓄積。中国各地の地方菜を幅広く取り入れ、現地の味、風味を下敷きに、独自の料理、メニューを展開という「桃の木」の料理はそうした知識、体験から生まれたもの。

 「桃の木」の「あの料理、この料理、あの調理方法やこの味付けは!」と、その下敷き、言わば元ネタ、知る人なら「へぇー、よくぞまあ!」と、その知識、博識と実践ぶりには驚くばかり。
 今回の特集では「炒飯/卵チャーハン」、四川風の卵の煎り揚げ焼きの「家常供蛋」、広東風の卵白の蟹の炒めものの「蟹肉炒鮮奶」、卵白の淡雪炒めの「賽螃蟹」、北京風の卵の水炒めの「水炒蛋」、宮廷点心の「中国風ういろう」という紹介の「三不粘」、揚げ卵の「炸蛋」、卵焼きのスープ家庭料理の「鶏蛋湯」を紹介。

 そのレシピ、味付け、調理に関する基本は、納得のものばかり。
 もっとも、写真に紹介された料理の出来栄えからすると、「四川風の卵の煎り揚げ焼きの「家常供蛋」は、卵の縁の焦げが目立ってなんだか苦味ありそう。卵を焼き過ぎで、具材との組み合わせ、なんだか出来栄えは今ひとつ風。

 それに「三不粘」。写真で見たところ、黄金の色合いはともかく、粘り、腰がなんだかいまひとつ様子。「嫩」の柔らかはありそうですが、舌触りのよい滑らかさ、舌にねっとりまとわりながらも、ざらっとした触感が残りそう。もしかして練り込みが足りない?そんなこと写真で判断出来んの?食べてもないくせに!と非難を浴びそうですけど、写真は正直。そのまんまを写しだしますから。

  それとは対照的に卵白の炒めもの2種、広東風の卵白の蟹の炒めものの「蟹肉炒鮮奶」。それに北京風の卵白の淡雪炒めの「賽螃蟹」の出来栄えが目をひきます。たとえば「蟹肉炒鮮奶」。乳白色の色合い、滑らかそうな舌ざわり、なおかつ舌にのしかかる濃密なねっとりとした触感、こくのありそうな旨さがひしひしと伝わってきます。

 その料理、本場の広東地方の順徳では水牛の乳を使いますが、それに代えて牛乳を基本に生クリームとコーンスターチで腰のある粘っこさ、濃密なコクを生み出す、なんてレシピにあるのに大いに納得。その方法がベストですから。

 その手法、どうやってゲット?と小林クンに尋ねたら
 「林(勝倫)さんのレシピを基本に、アレンジしました」。
 なるほど!それを実践できる小林武志料理長の技も見逃せません!

2010/04/30

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の3

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その2が「CHEF'S」の「炎の「たまごトマト炒め」。これが驚きの一品。目を丸くしました。

 1、トマト(大3個)を湯剥きにし、四つ割りにして、種や水分を取り除いておく。
 2、卵(L玉)2個をボウルに入れて、しっかり泡立つまで混ぜる
 3、中華鍋にサラダ油大さじ2/3を入れ、2を一気に入れる。大きく混ぜながら全体に火を入れ、皿に取り出しておく。

 というここまでのプロセスは納得。ところがです。以下、?????と疑問符続出

 4、中華鍋にサラダ油大さじ2を入れる。強火で、中華鍋から煙りがでるまでしっかり熱したところに、トマトを入れる
 (ン!? 中華鍋に入れた油、強火で煙が出るまで熱したら、酸化して、ヘタりませんか?)
 5、ガスの火を鍋の中に引火させる!!!!(その実況画像あり!)
 (ン!? 酸化した油に火をつけてどうする?)
 6、中華鍋の中の炎をトマトにからませるようにお玉でかき混ぜる。このときに燻したような独特の風味がつく
 (ン!? このとき燻したような独特の風味って、トマトは炎に包まれ、焼け焦げて炭化するんじゃないですか? 燻したような独特の風味って、それのこと?なら、苦味やえぐ味がつくはずですが)

 以下、火が収まり、トマトが崩れはじめたところで、砂糖、塩、中国醤油を順に入れて味付けするとレシピの実況中継画像あり。それも砂糖をたっぷり使うのがこの料理の特徴だそうで。
 ちなみに砂糖を使う理由として紹介文には「上海“高級”料理の特徴で、砂糖がぜいたく品だったという背景がある」との解説が!

 確かに、かつてどこの国でも砂糖はぜいたく品でした。けど、砂糖っても色々ありますよね。はたしてどんな種類の砂糖なのか説明なし。というのも、日本と中国の砂糖事情、いささか異なるからです。しかも、いきなり「上海“高級”料理」なんて話が出てきて、その説明もなし、ですから面くらいます。

 ちなみにCHEF'S 、店紹介のキャプションに「上海上流社会で培われた繊細な料理を味わえる」なんてあります。CHEF'Sの料理の紹介の際、しばしば語られる「上海上流社会で培われた料理」の実態、その真相については、今だ私には不明のまま。もちろん、そんな話を知って、興味津々。上海料理の歴史を調べましたが、その上海の「上流社会」における料理、ってことについては、今だ闇の中。

 その辺り、お店の方がそう仰るならってことで受け止めておくのが賢明なんじゃないかと思うんですが、「上海“高級”料理の特徴」と断言するからには、なんらかの根拠、実態の把握があってのこと、なんでしょうけどその提示はなし。

 ま、それはともかく、煙が立つほど油を熱し、酸化して、へたった油。しかも、それに火をつけ燃え盛る炎でトマト炒めたら、トマトは焼け焦げ、炭化して、素材の持ち味、損なわれるには誰にだってわかるはず。そこに砂糖を入れる、ってことは砂糖の甘味で味を補正ってことしか考えられない。

 疑問に思って何人かの(中国)料理人に尋ねたところ
 「CHEF'S独特のやり方ですよね、普通はありえない」、
 「油が酸化しますし、火を入れたら焼け焦げになって、素材の持ち味、壊しますから」
 と、私の考えたような意見が大半。

 筆者は「CHEF'Sならでは」とさせるものは「ずばり「火の味」」。
 さらに「トマトの酸味と砂糖の甘さ、そしてそれを包み込む燻した香り」と絶賛。
 早い話、燻した香りなんかじゃなく、過剰に熱した油、その煙、油の焼け焦げの臭い、なんじゃないでしょうか。
 念の入ったことには、燻した香りを家庭で再現する油の作り方まで紹介されてます。
 私にとっては初めて知った「燻油」製法。これまで知っていた中国料理での「燻油」にはなかったものだけに、こんなのもありなんだ、と勉強しました。

 要は中華料理で鍋肌に直接醤油をたらしたときに生まれる焼け焦げの味、もっとわかりやすく言えば屋台の焼きそばのソース味の焼け焦げに似た「ゲス」な味、強烈な香り、というよりも匂い。あれに通じるものがあるんじゃないでしょうか。

 「火の味」についての筆者の熱弁、読めば読むほど、その美味よりも「ゲス」な味、風味への愛着、熱意が思い浮かびます。そうか、上海の上流階級の料理ばっかり食べてると、たまに「ゲス」な味も食べたくなる、ってことなんでしょう。

2010/04/29

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の2

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その1が「しみじみ「台湾式」たまご焼き」ってことで青山の「ふーみん」の斎風端さんの「菜脯蛋」。

 「菜脯」は大根を干して塩漬けにし、さらに干したり二度付けしたりして寝かせて作られる漬物です。福建、広東省東部の潮州から広州あたり、その奥の客家系の人々なんかもつくります。中でも有名なのは潮仙のそれ。台湾には福建のものが伝わったんでしょう。

 大根の漬物といえば沢庵。ですが沢庵は干した大根を糠と塩で漬けるだけ。糠漬けってことから黄色や褐色に変化。同時に甘味も増していくのがその特徴。もっとも、最近のはお手軽に着色料と化学調味料で味付けなのが一般的。しかも減塩ものが主流ですから、塩味しっかり、ひねた沢庵など今やなかなか入手が難しい貴重品。梅干と同じですね。

 「菜脯」、大根丸ごと一本を干すってこともあるようですが、ほどほどの太さ、長さに切り分けたり、切干し大根同様に拍子切りに刻んだりすることもある。台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人が沢庵よりも切り干し大根を使って再現、なんて話を聞くことが多いのは、現地、さらには日本でゲット出来る「菜脯」の形態が似てるからのようです。

 もっとも、切り干し大根はひなびた味、風塩漬けじゃありませんから、戻すと甘味が浮き立つ。塩漬けしたものに特徴的な醗酵のひね味、旨味はなし。むしろ塩漬けの沢庵、古干し、ひね味のものが「菜脯」の味をほぼ再現。今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」の「菜脯」の紹介のキャプションにも触れられてます。

 要は塩味、塩漬けにして生まれる醗酵のひね味がポイントです。
 ですが、今回の記事には「切り干し大根」のことは触れられず、というのはなんでだろ?
 台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人の「切り干し大根」の活用頻度からすれば、その辺りのご意見伺いたかった。
 切り干し大根じゃダメなのか、それとも「菜脯蛋」に使うにはひと手間の工夫が必要なのか、そんな指導があれば嬉しかったんですけど。

 私と「菜脯蛋」の出会いは台湾ではなく香港でのこと。夜食を食べに出かけた潮州料理の店で「粥」のおかずとして登場。そんな「沢庵の玉子焼き/沢庵オムレツ」の話を旧知の料理研究家の山本麗子さんに話したら「あら、それ、私、子供頃、しょっちゅう食べてた。というか、食べさせられてたの!」。

 聞けば麗子さんのお父上、台湾に頻繁に通っていたことから山本家でそれを再現。沢庵の玉子焼き、沢庵オムレツ、麗子さんに言わせれば「父ちゃん玉子」は、お弁当のおかずにも頻繁に登場。ですが、その頃の麗子さんにとってはクセのある味、香りになじめずにいたそうです。もっとも、今では懐かしい思い出の料理ってことで麗子さんの著作にも登場。

 「ふーみん」はずっとご無沙汰続き。人に誘われたり会合があったり、たまたま近くに用ありなんかで足を運んだのは随分と前の話。その際、台湾の家庭風味の料理や日本でなじみの中国料理を食べました。「もつ」の料理、それに「葱ワンタン」ですか。

 今回の「菜脯蛋」のレシピに「作るのには「ラード」で!」、なんてところにおそらくは斎さんの母、あるいは祖母からの伝来の味、生まれ育った故郷の味をそのままに伝えたい、という斎さんの気概が汲み取れて頼もしい。

 もっとも、私、「ふーみん」とはここずっと縁がなし。足が遠ざかった理由もあります。というのは、斎さん一家の伝来の味、素朴で心温まるおふくろの味が看板の店。ですが、それだけに限界もある。
 「ふーみん」独自の工夫を凝らした料理もありますが、創作料理というよりもおふくろの味、おばさんの料理、家庭料理の延長線上にあるもので、その範疇に止まるだけのもの。ですから料理人としての「技」、「味」、「風味」ってことに関してはなんだか物足りない。

 具材たっぷり、野菜も豊富な炒めもの、麺類が評判です。鍋振りの勢い、油の使いようなど手馴れた印象ですが、素材の切り揃え、素材の組み合わせなど、「板」の仕事はざっくばらん。素材の組み合わせはともかく、その分量、按配など、もったいないから余すことなく使います、なんて風でちょいと加減多目。というあたり主婦、おふくろの料理ならではの按配がうかがえます。
 
 けど、一皿、一碗の料理としての分量、なんてことからすると料理によっては具材の分量、バランスに欠けるところがあってはみ出し気味。味付けにメリハリはあっても、おかずってことならともかく、一品の料理ってことなら味わいの深みや風味に乏しい。

 今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」が物語るとおり(台湾系)中国人家庭の「お袋」の味を楽しめる店、親しみやすさが魅力。それが人気、評判の秘密、理由のようですが、それ以上の物は求められない。「しみじみ」とした味わいって、滋味豊かとか味わい深いってことじゃなく、ジンと胸にくるおふくろの味、てことですよね。ということなら実に言い得て妙、であります。

2010/04/26

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の1

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集、玉子好きなんで楽しみました。
 「なるほど!」という記事もあれば、「をいをい!」なんて記事もある。
 驚いたり、「勘弁してよ!」とあきれ返ったり、腹を抱えて笑ったり、ふ~んと笑い飛ばしたりして、ほんと私、性格悪いよな~ということを実感しました。
 
 嬉しかったのは我が敬愛する料理人、狐野芙美子さんの久々の登場。
 料理は「ウフ・マヨネーズ」。ビストロ料理の定番でシンプルな料理ですが、それだけに奥深く、自分流を極めるのは難しい。ですが、弧野さんの料理を見ていると、実際に試さないではいられなくなります。もちろん、早速実践。

 もっとも、これまでdancyuで紹介されてきた弧野さんの料理紹介もそうでしたが、レシピの間隙にひそむ肝心なポイントが触れられていなかったりすることがある。おそらく弧野さんにとっては当たり前。ですから、詳しい紹介は必要なしと判断し、触れられてないんでしょう。ですが、実際にレシピに倣って調理始めると「ン!?」なんて、疑問が続出。そのあたり料理体験に照らし合わせて適切に判断し、現場処理するしかない。
 
 おそらく担当の筆者は撮影現場で同時に調理体験しなかったか、普段、台所に立ってないかで、見落とし、聞き落とし。その辺、編集担当者のフォローが欲しいところですが、担当編集者もおそらく筆者と同様の体験しかないんでしょう。

 今回も茹で時間など具体的に紹介はされていますが、実際にやってみると時に難題、課題が勃発。その点をクリアーすれば弧野さんの料理の(再現)成功率、出来上がった料理の満足度は高い。ことに今回はマヨネーズについて再勉強という収穫がありました。

 続いて紹介されてた「世界一」と称される「スクランブルエッグ」の秘密。
 ですが、レシピ、写真からすると、見るからに生クリームの味が支配的そうな「大味」な感じ。なんだか近頃流行の「ふわふわ感」とか「柔らか~い!」触感重視のようで、素材の玉子の味、どうなの?
 なんてところに疑問を覚え、そそられない。作ってみたいという気にもならない。

 そして話題のフードスタイリスト、飯島奈美さんの「目玉焼き」。
 「目玉焼き」。シンプルな料理だけに、実は奥深い。それぞれに好みもあるはず。
 その基本をおさらい、というのが今回の飯島さんの登場の目的なんでしょうが、ところが、その深遠の奥義、極意の追求は、いまひとつ甘い。

 今回紹介されてる調理方法など我が母もやっていたことで、母の側で見て覚えたのと同じく、基本の基。油の引きかた、その分量。加える水は少量ずつ、按配しながら加減見て。フライパンに蓋を被せるにしても、黄味を白い膜で覆うなら蓋をしたまんま。黄味の色をそのまま残したいなら蓋をずらす。

 そんなこと「目玉焼き」を何回も作ってりゃ、そんぐらいの工夫は誰だってやるでしょう。当たり前のことしか紹介されてません。あ、そうか、そんなこともやんない、焼き方を知らない人の為のものですか?なんだか上から目線な気配濃厚。

 それより、飯島さん指導の「目玉焼き」。
 油の使用量、控え目な感じ。そのせいか「目玉焼き」の縁、カリカリって風なんですが、なんだか縁の見た目が焦げっぽい。焦げっぽくて苦味もありそう。

 実は私も母に倣ったように、飯島奈美さん方式で焼くことがあります。
 ですが、油の分量少なかったり、さらに、余計な油を拭い取ったりするうち、水加減の按配次第で「目玉焼き」の縁は、カリカリと同時に焦げっぽくで苦味がでる。
 それから逃れる工夫こそ知りたいとこなんですが、その奥義の追求、紹介はなし。

 私は、焦げ目、苦味のある縁のカリカリは苦手です。それに、黄味は黄味のまんまもいいですけど、うっすら霞が覆った「目玉焼き」けに仕上たほうが、黄味はよりこくをまし、とろり濃厚な味になる、なんてことで水を慎重に按配しながら蒸し焼きにします。

 もしくは、油を加減多めにして「フライド・エッグ」にしちゃうことが多い。
 アメリカのドライヴ・インのレストランやトラック・ストップ、それにパン・ケーキ・ハウスなんかでお目にかかる「目玉焼き」。

 煎り焼き、つまりソテーというより、玉子を油で揚げちゃうディープ・フライ、もしくはその一歩手前の感じの調理です。そうすれば「目玉焼き」の縁はまさしく「酥」の状態になります。しゅわっとしていて、気泡のぷちぷち感を残しながら、カリとした焼き加減になりますから。当然、焦げ臭さや苦味はありません。

 ま、ディープ・フライにすれば、玉子は油をたっぷり吸い込みますから、脂っこくなるのは否めない。けど、しゅわ・ぷち・かり・さくっとした触感が堪りませんから!

 それからベーコンの炒め方。ベーコンの脂身でベーコン自らを焼き上げるという方法もありますけど、これまた焦げと苦味を生みやすい。それより、誘い油じゃないですけど、油を足して煎り焼きにする。そのほうがよりクリスピーで脂っこくなく、しつこさもないクリスピーなベーコンに仕上がります。当然、焦げ臭さ、苦味はなし。

 「目玉焼き」を焼くときの油って、ついつい加減しがちですよね。
 実はそれが失敗のもと、だったりします。油を多めに使うほうが、実は簡単に旨い「目玉焼き」を作りやすい。焦げ加減の苦味のあるカリカリじゃなく、シュワ感、しっとり感もある適度なカリカリ感のある「目玉焼き」が作れます。

 なんてことは「目玉焼き」を作り続けていればわかるはず。
 ま、油を使いすぎると脂っこくなりそうだしカロリー過剰で太るから、というのもあるんでしょう。ですけど、そんなことより焦げ加減、苦味のないカリカリの縁の「目玉焼き」のガイダンスを求める向きには、今回の飯島さんの記事は物足りない。
 ともあれ、飯島奈美さんの「目玉焼き」、話題の人の登場というだけで内容希薄。

 それから「龍吟」のまかないの「たまごかけご飯」とアレンジ・バージョン。
 味の濃い調味料、香りの強いクセのある香味野菜をごちゃ混ぜ。おまけに、玉子にウニやキャビアなど豪華で「濃い」素材を使ってウルトラ技。

 それからすると「あ、この人、素材の味、風味の足し算と、豪華素材を使って目を惹く創作料理を考える人!」ってことが即座にわかります。ひと口食べて、インパクトのあるわかりやすい明解な味、ってことですね。「龍吟」が評判なのもなんとなく納得。

 それより宮下裕史さん執筆の「哲学する卵」にあったポール・ボキューズに教わったという谷昇さんの「目玉焼き」の話は、拾い物でした。
 もちろん、早速試しました。これがかなりいけます。その料理方法を知らずにいたことを後悔したほど。

 それからもうひとり、イタリアンの小林さんの料理にも興味津々ながら、素材は「ほろほろ鳥の玉子」なんてことでギブ・アップ、写真を眺めて涎をこぼすだけでした。

2010/04/15

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の7

デザート各種の中から選んだのは、今回も「喳咋」。
もちろん、冷製じゃなくって温かいの。
お腹が落ち着きますから。

 その登場を待つ間、登場したのが「さくら饅頭」。
 みるからにしっとりとした皮のほのかな桃色は、桜の葉をおりこんであるからでしょうか。 ですけど、まるで薯蕷饅頭、そのままの見かけ。

 「これって、饅頭だよね。中華の饅頭じゃなくって、日本の薯蕷饅頭!」
 「でも、違いますよ、中味の餡が。胡麻餡なのかな?こんな餡、日本の饅頭じゃありませんから」。
 言われてなるほど、中味の餡の味、濃厚な味、まさしく中華の点心でした。でも、中味の餡はともかく、見かけこんなに日本の薯蕷饅頭まんまの饅頭、香港で出会ったことなし。私は初体験。
 日本の薯蕷饅頭、私の好みなんですが、これほど張りがありながら、舌触りしっとりの皮、餡が旨くて香り豊かな薯蕷饅頭、近頃であったことなかったもんで大感激。
 今度、正式な名前、それにしっとりの皮の秘密、久保田さんに尋ねなきゃ!
 そして「喳咋」。久保田さんの「喳咋」に出会って、はまりつつあるこの頃です。

2010/04/13

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯。
 今回は「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」。
 土鍋仕立てということもあってかテーブルに運ばれた時の香り、風味の豊かさに驚きました。なんて言うと、鍋肌に垂らした醤油の焼け焦げの風味、あるいはねぎ、生姜、にんにくなどの香味野菜を炒めた香ばしさ、なんて思われるかも。そうじゃないんです。調味料や香味野菜の直接的な「匂い」じゃなく、旨味濃厚なしっかり味、なんてことが伝わってくる馥郁とした香りです。

 青味のニラ以外は、具材のすべて、米粒の大きさに併せて細かく刻まれてます。
 ひと口食べて、がつんとくる旨さに目をみはりました。しっかりの塩味。袁さんの料理にしては珍しいぐらいがつんとくるしっかり、濃厚な味わい。しかも、噛み締めれば塩味を利かせたというだけではない重層的な旨味、風味の構造が浮かび上がってくる。

 具はあさりの微塵切り。さくらえびと思しき柔らかい殻の噛み応えの干しえび。それに漬物の微塵。
 あさりの微塵は、口にしてそれと即座にわかる旨味、磯の香、風味がある。
 さくらえびは日干しの海産物独特の枯れた味、風味。
 そして漬物。なんだか「梅菜」のような甘味がある。ですが、塩味の加減、深み、ひねの深さからすると、違うなあ。
 
 「なんだろ、これ?この漬物!味、風味、覚えありなのに!」と頭の中で疑問符続出。
 過去の記憶を辿る迷宮の回路に紛れ込んで、しばし沈黙。
 「「芽菜」です!四川の「芽菜」!」と、袁さん。
 「そうか!「芽菜」ですか!」と聞いて、思わず納得。

 塩味しっかり。でも、ほのかな甘味がある。ひね味もある。ですが、深漬けのそれじゃなくって、すっきりとした爽快感がある。
 ちなみに「芽菜」、種類色々あります。その素材、「芽菜」という素材名そのまま「もやし」を素材にしたもの。 一般的には青菜の若芽、苗を漬けたもの。そして四川の「芽菜」は、「芥菜」つまりはからし菜の若芽、苗を漬け込んだもの。漬け込む際に塩だけでなく、砂糖などの甘味を加味、というのが独特の味、風味を醸し出す。

 実は「芽菜」、四川の「担々麺」を作る時の必需品。
 日本で担々麺といえば、豚肉のそぼろを具に、ラー油、花椒、芝麻醤をベースに酢や醤油で調味というのが一般的。近頃は「汁なし担々麺」というのも評判のようで。しかも、担々麺の味わい所は「麻辣」、つまりは花山椒の痺れ味、唐辛子の辛味の味付けにあり、という認識をもたれてます。

 現地ではさにあらず。「麻辣」の調味、味付けもさることながら、そこに、塩味、醗酵したひね味、甘味のある「芽菜」を加味して成り立つもの!なんて話、「趙楊」の趙楊さん、「チャイニーズレストラン直城」の山下君、今は亡き「芝蘭」の下風慎二さんから確証を得た事実。

 そんな「芽菜」のひね味、ほのかな甘味がこの「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」の旨味、風味を増す。 それにしても袁さん、広東人なのに四川の「芽菜」に目をつけ、実践、活用なんてところがおもしろい。これまでに四川の郫県の豆板醤も使うなど、好奇心旺盛で何でも試して実践するあたり、実に意欲的。頼もしい存在です。

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「子姜炆滑鶏/伊達鶏と新生姜の煮込み」。
 これは先月「子姜国産牛/和牛と新生姜の炒め」が登場したのをきっかけに、袁さんにリクエスト。食事中に現れた袁さんに感謝の意を伝えたら
「だって、ネットで食べたいって書いてたでしょ?それにお応えしました!」。
 は、はい、仰せの通りで!と、ひれ伏す私でありました。
 新生姜が出回る時期になると必ず食べたくなるのが「子姜炆滑鶏/伊達鶏と新生姜の煮込み」。
 新生姜と鶏肉のぶつ切りをシンプルに「炒」したもの、二番だしの「二湯」で煮含めた「炆」の2種の料理方法があります。
 「炒」の場合、新生姜のひり辛が直接的。で、「炆」の場合、とろみのあんが「甘酢」仕立てというのが特徴で、新生姜の味わいがよりフクザツになります。

 甘酢あんが絡んだ新生姜のぶつ切り、まず唇に触れるのはこくのある「甘酢」あん。「酢豚」のあんをご想像ください。さらに、新生姜をばりっと噛み締めると、ひりっとした辛味が舌を刺す。ところが、甘酢あんに包まれてますから、甘酸っぱさと濃密なこくのある甘味が絡み合い、重層的な味になる。しかも、新生姜らしい鮮烈な爽快さが浮き立ち、なんだか身が引き締まるような感じになります。その味、風味が格別。
 そして鶏肉。これまた甘酢あんにくるまれてますけど、そこに、新生姜の味、風味が加味されて、味わい爽快。それより、驚いたのは今回の鶏肉、伊達鶏のしまりのある肉質、噛み応え、さらにはジューシーで旨味たっぷりな味、風味。

 これまで前菜や蒸し物で登場してきた伊達鶏、肉の柔らかさばかりが目立つ感じで、味わい、風味、ぼんやり、茫洋という印象でした。ところが、今回の伊達鶏、肉にしまりがあってしっかりした噛み応え。それでいて、ジューシー。しかも、旨味、風味が感じられる。火を通した伊達鶏の旨さ、味、風味がこんなに鮮烈に感じたのは初めて。

 素材自体のよさ、甘味、旨味、風味のある伊達鶏の肉質、持ち味を引き出した袁さんの腕、技の成果じゃない?なんて思いました。しかも、新生姜、さらには甘酢あん、二湯との組み合わせが絶妙です。

 「これ、旨い!ほんとに旨い!」
 「新生姜が旨い!こんな風にして甘酢仕立てにして食べると、旨いんだね。このひりっとした辛味が新鮮!」
 「それに鶏肉が旨い!」と、全員、絶賛の声しきり。

 春の朧、霞のかかった春の風情にあって、一瞬、目が覚めるような爽快なひり辛の鮮烈な味わい。甘酢あんのこくある甘さとすっきりの爽快感。 これも春ならではの味わい。
 広東小菜の旬の味を存分に味わいました。

2010/04/09

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いては「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」。
 実はこの料理、「赤坂璃宮」銀座店の「家郷菜」のコースの一品に「生根」(揚げ麩)を使った料理があるのをみっけ!
 なら「蝦子生根豆腐」はじめ「生根」を使った料理のリクエスト可能? と、橋本さんを通して袁さんに願い出た次第。
 そして登場したのがこの「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」。
土鍋の中、「生根魚丸煲」は煮え滾り、熱々のまんまの登場。アテンドの柏木さん、火傷しないかといつもひやひや。しかも、小皿に取り分けられてなお熱いまんま、というあたり、袁さんの腕の凄さ、素晴らしさを物語ってます。
 「魚丸」はいつも通り「鱸」の様子。「髪菜」も入っています。そんな「魚丸」を揚げ、揚げ麩の「生根」、干し椎茸と煮込んだもの。煮込みはおそらく二湯(二番だし)でしょう。さらに、絹さや、香菜も。

 揚げて、さらには出しで煮込まれた「魚丸」を食べるとみかんの皮を干した「陳皮」の柑橘の味、風味と苦味が利いています。同時に、ひねた独特の醗酵味、旨味、風味が口中にほのかに広がる。
 「あ!これってもしかして?」なんて思ったら、案の定、小はまぐり、浅蜊などを塩漬け醗酵させた「蜆介醤」。「魚丸」を噛み締めて浮かび上がる「蜆介醤」の味、風味。その使い方、分量、つまりは行きすぎない匙加減が絶妙です。

 「生根」を噛み締めればグジュっとなって、押し潰されて悲鳴を上げそうな頼りなさげな触感。同時に、煮含められただしの味、旨味が口中に広がる。その穏やかで優しい触感、じんわり滲み出すだしの味、旨味、風味が格別です。
 むろん干し椎茸も旨味、風味、しっかり。それに絹さやの青み、清廉な味わいが爽快。さらに香菜の独特の青みとくせのある風味も実に効果的。ほのぼのとして心温まる一品です。
 この「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」、まさに広東小菜、煲仔菜として香港の広東料理店では馴染みのもの。
 食堂的風情の小菜店でも食べられますが、この袁さんの手になる「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」は、やはり上品な味付けで、風味が豊かで、しみじみとした味わいもあり。
 こうなるとやっぱり袁さんに「蝦子生根豆腐」をリクエストしたくなります。

2010/04/07

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯(スープ)」は「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」。

 「ウミテング(海蛾)」は初体験。なんだか「タツノオトシゴ(海馬)」のよう。
 いったいどんなもの?なんて思ってたら、アテンドの山下さん、その正体、ネットで検索してプリントアウトしてくれていました。
 家に帰って、私も検索。そしたら、タツノオトシゴの仲間らしい。
 タツノオトシゴ、漢方素材としてしばしば用いられます。タンパク質、脂肪、多種のアミノ酸を含んでおり、男性ホルモン作用があるといわれ、補腎、つまりは腎機能を強化するってことで漢方、薬膳料理に用いられます。しかも強壮薬として疲労回復、ED(勃起不能障害)や精力減退、遺精に効果的!なんてところも興味津々!ということからすると、ウミテングも同様の効果あり?
 ちなみに画像で2匹浮かんでいるのがそのウミテング。
 この「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」、豚の赤身肉の「痩肉」がだしの要の様子。それ以外に、杞子、淮山、牛蒡、棗、北芪、党参(つるにんじんの根)とともに「燉」、つまりは湯煎蒸しした一品。「燉」ですからスープは濁らず澄んでいます。
 その味、旨味もありますけど、それ以上にほろ苦さ、渋味、えぐ味がほのかに浮かび上がる。漢方素材を使ったスープに特徴的な味、風味。口にするたび薬効あり!なんてことがひしひしと。心と体が洗われる感じで、しみじみと滋味深い。
 こんなスープ、香港の広東料理店では常備されているんですが、日本ではなかなかお目にかかれないし、味わえないのがとても残念。いや、実際のところ、近頃ホテルの広東料理店で漢方素材を加味した「例湯」におめにかかることもあり。
 もっとも、漢方素材を使い、薬効を語られますけど、「だし」に旨味のある素材を加味して濃い目の味付けに。というのも漢方素材を使ったスープ、日本ではあまり馴染みなし。つまり、スープってこでは、ひと味、旨味、味付け濃い目にしないと受け入れられない、といった日本の(中国料理、広東料理の)現状あってのこと。まんま香港のスタイル、味、風味で、という訳にはいかないそうです。
 なんてところ、やっぱり香港は近いようで遠いのが現実、ってことですか。
 滋味豊かな「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」を味わいながら、フクザツな気分になりました。

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 そして「春菜蝦仁炒/芝海老と春野菜の炒め」。
 芝海老、あわび茸(白霊茸)、こごみ、うるい、筍、白アスパラガスを塩味で炒め合わせた一品です。

 芝海老のぷりっとした触感、甘味、旨味を引き出した火の入れ加減はさすが袁さん。
 加えて、あわび茸(白霊茸)、こごみ、うるい、筍、白アスパラガスのそれぞれに異なる歯触り、噛み応え、の青さやらほろ苦さやらえぐ味やら、素朴で清楚な素材の持ち味を生かしながら、はんなり包みこんだ優しい味わい。

 「わ~!春らしい料理ですね。このほろ苦さ、まさに春の味。でも、苦味とかえぐ味とか、抑えてある感じなのが、いいですね」と、素材のひとつひとつ触感、持ち味の引き出し方、素材の組み合わせの妙、味付け、調理に絶賛の声が上がります。
 どうやら仕上げに上湯で煮含めたような様子。口にしてしばらく、だしの旨味、風味が喉奥から鼻に抜けるような感じがしたからですが、もしかして錯覚かも!

 実は海老の炒め物、油通しの「油泡」だと、いつもならパブロフの犬の条件反射のように「蝦醤」か「蠔油」をちょっぴりつけて、なんて按配なんですが、今回はその必要なし。行き過ぎない塩味の加減、プラス、だし?の旨味のせいでしょうか。

 ともあれ、春は霞、朧のベールでほろ苦さ、えぐ味が包まれた押し付けがましさのない気品のある味わい深い一品でした。 

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店

 おっといけない。ボブ・ディランの東京公演で頭クラクラ。おまけに他にも難問を抱えてて頭を悩ます日々が続いた結果、3月の「赤坂璃宮」銀座店の報告、月を越えてしまいました。
 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。
 その登場とともに「あれ?いつもとなんだか違う!」。
 何が違うのかといえば並んだ焼き物の色合い、切り方、野菜とその組み合わせ。それに全体のレイアウト。「なんでだろ?」と不思議がっているところに支配人の橋本さんが登場。
 橋本さん曰く、今月から前菜の焼き物担当のスタッフが替わり、新たに平林さんが着任とのこと。

 その内容、右上3種は、皮付きバラ肉の「焼肉」、鶏肉の辛味味付けの焼き物の「辣鶏」に「叉焼」。その下、家鴨の舌の滷水(たれ)漬け(?)、海蜇の頭、山くらげに、醤油漬けらしい大根。その左上、柚皮。その下に白髪ねぎと胡瓜の千切り。

 皮付きバラ肉の「焼肉」はいつもより皮の焼き方がしっかり。というよりも少々焼きが入り過ぎの感じでパリパリ状態。ですけど、肉はしっとり。もっとも、切り方、サイズが小さくなったのがちょっと残念。それに「辣鶏」、「叉焼」もこれまでからすると焼きはしっかり。でもなんだか醤油の味が立ち過ぎてる感じでした。

 それより皆さんが驚いたのは家鴨の舌。私はこれまで何度も体験済み。
 家鴨の舌、いろんな料理方法がありますが、今回のは滷水(たれ)に漬けて煮込んだ様子。実は舌には軟骨があって、その周りの身をこそぐようにして食べる。その身はわずかですが、味の染み込んだ舌の味は格別。
 「これ旨い」と大好評。その脇にある海蜇のぽりぱり感との触感の対比も一興です。

 そして話題になったのが「柚皮」。干した文旦(ざぼん)の皮を戻し、味付けしたものです。香港/広東地方では沙田柚の皮を干したものが一般的で、春節を過ぎてしばらく夏前頃までに季節料理として広東料理店に登場。

 干して、戻した煮込まれた文旦の皮の歯触り、舌触り、噛み応えが一風変わっていて面白い。皮の繊維質、滑らかで、独特のねっとり感としっとり感あり。そうだ、ジュースを含んだスポンジケーキに近い触感です。噛み締めるとぐじゅとした触感。じゅわっとだしの旨味がほとばしる。おまけに独特のコクがある。
 「へ~! なんとも評し難い食べ応えと味ですね。ねっとりというか、こくがあるというか。それより、これ文旦の皮でしょ?それを食べる工夫をする、なんてところが面白い!」
 実際のところ、香港で食べる「沙田柚」に比べれば皮は薄め。どうやら日本の文旦の皮を干した赤坂璃宮自家製の「柚皮」の様子。それにしてもこの「柚皮」にしろ、家鴨の砂肝を生から干した陳賢にしろ、香港にあっても日本では調達不可能な素材、日本産の材料を調達して自家製でなんでも作っちゃうという譚さん以下、赤坂璃宮の料理人、スタッフの努力と熱意には頭が下がります!嬉しくなります。応援したくなるのも当然でしょう。

2010/04/06

「いつまでも若く/FOREVER YOUNG」~東京のボブ・ディランの4

 ボブ・ディランの東京公演の最終日(29日)。
 帰宅してクールダウンするのに時間がかかりました。そんなわけでコンサート報告のブログアップ、1週間遅れと相成った次第。

 それにしても東京公演の最終日、どうしてまたクールダウンに時間がかかったのか! 興奮した、感激した、というような事態でもなく、頭の中「堤防が決壊して洪水」さながらの「ごちゃ混ぜの混乱/ミックスド・アップ・コンフュージョン」状態(って、ディラン・マニアなら通じるはず!)。

 ボブ・ディランの公演。毎日、構成、雰囲気が変わりました。 で、東京の最終公演は「(ハード&ディープ)ブルース・ナイト、そして男と女の狭間のあれこれ!」ってことになりますか。それにしてもハードでディープなブルースが相次いだのには脳天クラクラ。おまけにディランは曲によってオルガン、ハーモニカ全開。ソロやらリフやらギターのチャーリー(・セクストン)との掛け合いも。

 幕開けは低音がうねるスロー・ブギの「雨の日の女」。ディランのだみ声、迫力と凄味あり。次いでリズムの明快なフォーク・ロック調の「イッツ・オール・オーバー・ナウ・ベイビー・ブルー」。惜別の歌。昨日までのことは綺麗さぱりかたをつけたから、もう後は振り返らない、なんて意志きっぱりの潔さ。さらには「我が道を行く」。 ディラン、オルガンで頑張ります。その歌いぶり、つっけんどんで突き放すような感じ。

 続いて「マイ・ワイフズ・タウン」の登場に驚きました。妻の故郷は地獄!なんて歌ですから。しかも、ディープなシカゴ・ブルース・スタイルで。ってことはうらみつらみ有りってことなのか。追い討ちかけるように「アイ・ドント・ビリーヴ・ユー」つうのが強烈。しかもだみ声とハーモニカ全開。歌い方、崩しちゃってましたが、ギターのリフが原曲の姿をとどめる。

 それから「スピリット・オン・ザ・ウォーター」。4ビートのスインギーな演奏、サウンドですけど、その歌詞「あなたなしでは・・・」なんて、それまでの展開とは裏腹。そこで「コールド・アイアン・バウンド」。都合7回あった公演で、欠席は2回。それがこの曲を耳にするのは3度目。

 前にもふれたようにロバート・ジョンソンの「ウォーキング・ブルース」が思い浮かぶ強力なリフを持ったブギ・スタイルのブルースのこの歌、『タイム・アウト・オブ・マインド』で初めて聞いた時にはさほど、という感じだったのが、映画『ボブ・ディランの頭の中』での再録音、それに今回21日に聞いたニュー・バージョンが鋭く胸に突き刺さる。おまけに、さっき聞いた「マイ・ワイフズ・タウン」がフラッシュバックして、頭の中で2曲が重なる。

 なんてことで、この曲の意味、解釈、考えて、この日も頭クラクラになったのでありました。おまけに続いたのは暗喩を込めた「廃墟の街」。頭のクラクラは沸騰状態。洪水で防波堤決壊状態に陥ったわけです。

 「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレイク」ではまたまたオルガン全開。カントリー・ワルツの「ホエン・ディールズ・ゴナ・ダウン」ではハーモニカのソロで和ませてくれましたが、続く「追憶のハイウェイ61」ではギンギンにハード・ロック。ここでもディランのオルガン全開。そう、「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレイク」と「追憶のハイウェイ61」こそがこの日のハイライト。

 そして「サンダー・オン・ザ・マウンテン」に続いて、いつもなら「やせっぽちのバラード/ミスター・ジョーンズ」のはずが、ステージ上ではガサガサとなんだか慌しい空気。それが見ている側にも伝わってきました。そしたら「ミスター・ジョーンズ」とは違うイントロが。

  「ン!?、何これ」と思う間もなく「もしかして?」。
 なんと「いつまでも若く/FOREEVER YOUNG」。ステージ上のがさがさとした慌しい空気は、いきなりの曲目変更だったのだと納得。

 それより、その歌、ディランの歌、今のディランのありのままを物語る感じだったのに、吃驚。
 この日まで、この曲を聞くまで、前、向いてまっすぐ突き進むゴーイング我が道を歩むディランから、歳のことなど(御年68歳)微塵も感じなかった。ですが「いつまでも若く/FOREEVER YOUNG」を歌うディランは、その歳がむき出しに!

 今のディラン、ディランの生身を目の当たりした感じでした。
 いぶし銀のような渋くて格別な味わい!他の曲にはなかったことです。
 なんてことで頭の中はますますクラクラ。
 まだ収まりがつきません!

2010/03/29

南部詩情と男と女~東京のボブ・ディランの3

 25日、26日の公演は沖縄国際アジア音楽祭でのコンファレンス参加の為に見られずじまい。
 ネットで検索したら25日には「シングス・ハヴ・チェンジズ」に「激しい雨が降る」、それに「ホエン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン」が日本初演。
 26日には「ジャスト・ライク・トム・サムズ・ブルース」が日本初演。「エヴリー・グレイン・オブ・サンド」もやった。さらに「風に吹かれて」がアンコールの締めくくり、というからには見たかった。

 1日オフをおいて東京公演6日目の本日、幕開けは「ゴナ・チェンジ・マイ・ウェイ・オブ・シンキング」。驚きました。 70年代末、ディランがボーン・アゲイン・クリチャンに改宗し、マスル・ショールズで制作した『スロー・トレイン・カミング』に収録されていた作品。パワフルでダイレクト。パンチの利いたバンドの演奏展開。リズム、グルーヴがうねる。

 この曲、ロバート・ジョンソンが悪魔と取引したというあの「クロスロード」が下敷きなのは明らか。これまでのやり方を変える!と宣言しながら、所在を確かめられずにいる迷える仔羊さながらの男の話。イエスの言葉が語られ、神が創ったこの地に天国があると歌われる。そんなディランの明快な歌いっぷりが圧倒的。

 続いて「ラヴ・マイナス・ゼロ」で男と女の隔たりを歌ったあとで「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」が実に生々しい。
 そしてイントロのリフで、まさか!と思ったら、やっぱり「運命のひとひねり」。今夜のハイライトの1曲。 
 それを聞いて「シェルター・フロム・ザ・ストーム」がまたまた登場。なんてことからすると「タングル・アップ・イン・ブルー」やら「イディオット・ウィンド」への期待も高まりますが、さすがにそれはなし。

 そしてドニー・ヘロンがバンジョーを持ち出したんで「お、また聞けるの?あの「ブラインド・ウィリー・マクテル」。と思いきや「ハイ・ウォター」。
 ですが、その曲、アメリカ南部のイメージが大きく広がる。そればかりか「トライ・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」に続いて、なんと「ネティ・ムーア」!これがなんとも味わい深い。
 そんなことでますます南部的詩情がそこかしこ。同時に、男と女の人間模様が様々に浮かび上がる。
 ポエティックでしみじみとした展開、なんてのが本日のボブ・ディラン。
 マニアックなディラン・ファン好みの渋い曲揃いだったね、とは菅野ヘッケルの弁。
 毎夜、ディランのコンサートの表情、演奏、雰囲気は変わります。

 アンコールの「ライク・ア・ローリング・ストーン」。
 ドシラソの下降、上昇音階のリフに取って代わって、新リフへと変化。
 それに気をとられてか、歌詞、入り乱れ、なんてことも。
 締めくくりは「風に吹かれて」。
 明日は東京最後の日。
 「ブラインド・ウィリー・マクテル」をもっぺん聞きたい。
 けど……なディランですから。

2010/03/25

遂に登場!「ブラインド・ウィリー・マクテル」! 東京のボブ・ディランの2

 東京のボブ・ディラン、毎夜、雰囲気が異なります。
 東京の初日の21日。前項の通りカントリー、それもウェスタン・スイング風、ナッシュヴィル風にロカビリー。アーバンやサザーンのディープなブルースに、テックス・メックス風。そうそう、エキゾティックなスパニッシュ風の趣きも。
 アメリカの伝統的な音楽の系譜、しかも、フィフティーズのポピュラー・ソングの系譜を見せてくれるようでした。

 そして2日目の23日。「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー」や「アイ・ドン・ビリーヴ・ユー」、「メンフィス・ブルース・アゲイン」が、60年代半ば、フォーク・ロック全盛期の頃をほうふつさせる。
 「フォーゲットフル・ハート」のしみじみとした味わい、「アンダー・ザ・レッド・スカイ」の叙事詩的世界もさることながら、ビッグ・サプライズは「ジョン・ブラウン」と「戦争の親玉」。 前者は家族、故郷の誉として戦場に送り込まれた若者の悲劇、後者は戦争の仕掛け人を批判。
 先のフォーク・ロック時代の作品などとともにプロテスト・ソングを生んだ60年代という時代が甦り、今の時代への警鐘にも思えるあたりが胸に鋭く突き刺さりました。

 おまけに「シェルター・フロム・ザ・ストーム」と「ライク・ア・ローリング・ストーン」のアレンジが初日とはがらり趣きを変えていたのもびっくり。その2曲を含め、2日目はさしずめ「フォーク・ロック・ナイト」、あるいは「シクスティーズ・ナイト」でありました。

 さらに3日目。「悲しきベイブ」が登場。かと思えばディープなブルースの「ローリン・アンド・タンブリン」。初日のハイライトだった「コールド・アイアン・バウンド」で再び盛り上がり、「廃墟の街」で陰影の表情を見せた後、なんとあの曲が!
 え?! うそ?! ほんと?! やるの?! まじ!? まじだまじ、これは!
 思わず鳥肌が立ちました。そうです、あの「ブラインド・ウィリー・マクテル」!
 まさか聞けるとは思わなかった。アメリカの歴史をふりかえり、現代社会を俯瞰したあの歌。ディランが生んだ傑作です。めったにライヴじゃやらない作品。それが聞けました。

 そればかりかバンド・サウンドは曲ごとにパワーをあげて、やがてはエンジン全開。
 まさしく「パワフル・ナイト」。
 今夜は「ディランが69」の日でしたね、とはソニーの栗原氏。
 選曲も演奏も最高でした。

2010/03/23

やってきましたボブ・ディラン

 ボブ・ディランの来日公演は9年ぶり。78年の初来日時、東京の武道館、大阪の松下記念体育館での公演をすべて制覇(そのレポートは拙著『ロック・オブ・エージズ』に収録)。
 もっともそれ以後の来日公演は東京周辺のみ。
 今回、大阪、名古屋、東京での公演のいずれともスタンディング主体のライブハウスでの公演、なんて海外では滅多にない公演スタイルに胸がときめき、そのすべてを制覇したい!という思いはあっても、諸々の事情もあってそれが叶わず。歯軋りしながらネットで紹介される公演ごとのセット・リストをにらみ続けてました。

 そしてようやく始まった東京公演の初日、馳せ参じました。
 幕開け前にDJのトークの背後に流れていたのはなんとバーブラ・ストライザンド。 え~!? こんなのあり?的な意表をつくバーブラの歌。そのつながりと言えば……。

 幕開けは「ウォチング・ザ・リヴァー・フロウ」。懐かしい!
 それをブギウギ、サザーンなブルース・フィーリングがたっぷりの演奏、サウンド展開で。
 続いて「くよくよするな」。これがまたスイング・センスたっぷりなカントリー調。
 チャーリー(・セクストン)がステージに膝まづいて、チェット(・アトキンス)さながらのギャロッピング・ギターで歌をサポート!なんて、をいをい!の感じです。
 それに「アイル・ビー・ユア・ベビー・トゥナイト」はハネのリズムでナッシュヴィル風のカントリー・スタイル。ホンキー・トンク的なニュアンスもたっぷり!

 おまけにディープなシカゴ・スタイルのブルース・ブギ、南部のサン・スタイルのロカビリー、さらにはテックス・メックス風な趣のサウンド展開。ディランはもっぱらオルガン(懐かしいサー・ダグラス・5のファーフィサの音)を演奏してエキゾティックなテックスメックス風味を盛り上げる。
 ともあれ、なんだか50年代のカントリー、ロカビリー、ブルース、おまけにテックス・メックス風にぞっこんの感じです。

 オルガンを離れてエレキも手にしましたが、ハーモニカを手にして歌う、なんて場面が目立ちました。生ギターの弾き語りで「風に吹かれて」や「時代は変わる」など、60年代のフォーク時代を物語るものはなし。 そうだ、「ミスター・タンブリン・マン」をやりましたが、全然昔と違う感じ。

 当夜の白眉はブラス・セクションの参加はないのに、ブラス・サウンド・プラス風の趣きのリッチでディープな演奏展開だった「トライ・トゥ・ゲット・ヘヴン」。
 ストレートなハード・ブギで、思わずロバート・ジョンソンの「ウォーキング・ブルース」?なんて思っちゃったぐらいリフが強力で、男気溢れるパワフルな演奏を展開した「コールド・アイアンズ・バウンド」。

 男気溢れる感じが、歌の世界を明確にして、男と女の隔たりを浮かび上がらせる!なんてところにゾクっとしました。
 他にもいろいろありました。その辺り、東京ライヴハウスコンサートレポなど、やんなきゃと思った次第。そんなわけで明日(てか今夜)もボブ・ディランのコンサートです。

2010/03/04

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして「本日凍甜品/本日のデザート」。
 色々用意された中で気になったのは豆や穀物を煮込んだスープ仕立ての点心の「喳(渣)咋」。 先月はかぼちゃ仕立て、薩摩芋仕立ての2種ありましたが、今月は「喳咋」のみの登場。
 「喳咋」を待つ間に今月の懷舊点心の「蛋撻」が登場。これが旨かった。
 「わ、嬉し~い!タルト、中華タルト!」とはしゃぎ声が上がります。
 日本でも、東京でも、近頃、飲茶の点心は種類豊富。なかでも人気のあるのが意外や意外、飲茶の甘い点心でもオーソドックスな「蛋撻」。店ごとにいろいろ工夫ありのようですが、たいていはそこそこ、これぞ!というのにはなかなかお目にかかれない。

 カスタードのきめ細かさ、緻密さ、濃密な味わいからすれば福臨門の「蛋撻」。そして「赤坂璃宮」銀座店の久保田さんの手になる「蛋撻」、70年代後半から80年代にかけて花開いた香港の飲茶の点心の面影があったのに驚きました。

 かつて「蛋撻」はどの店も純で素朴な味、風味が基本。伝統的な「蛋撻」なんていっても香港で一般化しはじめたのは20世紀初頭の頃のようです。それが70年代に入って美心集団の「翠園」、美麗華集団の「翠亨邨」などが広東地方の伝統的な「小菜」を提供、なんてのと同時に飲茶の点心も内容充実。80年代に入って香港のホテルに高級中国料理店が続々誕生し、競争が激化。ことに甘い点心の代表である「蛋撻」は、店ごとにそれぞれ工夫を凝らすようになりました。

 やがてリージェントホテルの「麗晶軒」、ペニンシュラの「嘉麟樓」、ハイヤットホテルの「凱悦軒」が、フランス菓子のタルトの手法を取り入れたパイ生地、玉子味、ミルキー風味のカスタードを具にし、しかも小ぶりの「迷你蛋撻」を相次いで提供し、一世を風靡、なんてこともあった次第。実は福臨門の「蛋撻」はその流れを汲んでます。

 それからするとこのこの「蛋撻」は、「迷你蛋撻」が登場するまで、色んな店が洗練化を目指し競い合いはじめた70年代後半から80年代にかけての香港のホテル・レストランの中国料理店の飲茶の点心の「蛋撻」を思い起こさせます。街中で評判の専門店のそれに似て、純な味、風味を残しながら、上品に洗練されたもの。

 そのレシピ、橋本さんに尋ねてもらったところ
 「卵・牛乳・シロップ・パイ生地・水・砂糖のみで作っております」とのこと。
 なんて聞いても、私には作れそうにない。
 そして「喳咋」。
 かぼちゃ仕立て、薩摩芋仕立てもいいですが、色取り取り、各種の豆だけで作った「喳咋」がいいなあ。その素朴で純、優しい味に心が和みます。冷たいのもありますが、もちろん温かいのに限ります。
 気分の問題、なんでしょうけど、冷たいのは口が爽やかになっても、お腹が冷たくなって胃の消化が止まってしまう感じ。温かいのだと消化を促し、ほのぼの気分にさせてくれますから。

 そう言えばいや日清食品が香港でレトルトの「喳咋」を販売してるそうで。ブログ「きたきつねの穴」で知りました。

2010/03/03

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 締めくくりの面・飯は「鴨絲炆米粉/鴨肉入りビーフン」。
 「米粉/ビーフン」なんて、実に香港ローカルな料理の登場に心和みます。 各種の面料理は日本の中国料理店でも充実。ところが「米粉」となるとせいぜいがカレー味でエキゾティックな「星島炒米粉」か台湾風の「五目米粉」どまり。そのバリエーションの少なさにはちょっとがっかり。

 幅広ビーフンの「河粉」はもっと立場が希薄。「赤坂璃宮」では銀座店も赤坂店も事前に予約すれば「河粉」が食べられます。福臨門も事前予約でOKのはず。他にも何軒があるのを知ってますが、ほとんど店はきしめんで代用。って、あれどういうことなんでしょ?きしめんは小麦から、「河粉」は米から作られるわけですから。
 
 そういえば近頃日本でも「米の面」として、米から作った面状のものが売り出され、盛んにPRしてるのをみかけますが、せっかく米で作ったものですから広東や東南アジアで一般的なビーフンの料理を積極的に紹介すれば良いものを、うどん、そば同様の料理で紹介、なんてところからすると、売り出しにも限界あり、なんじゃないでしょうか。というより、ビーフン自体、あまりなじみがないってことの証なのかも。だから、日本の中国料理店でもお目にかかれるのは「星島米粉」と台湾式の「五目米粉」と、話が堂々巡り。

 この「鴨絲炆米粉/鴨肉入りビーフン」、焼いた家鴨「焼鴨」の細切りがいわば主素材。他に玉葱、韮、赤いパプリカ、もやし入り。それに飾りつけで錦糸玉子がどっさり。
 具材すべて、細切りの「焼鴨」、もやしさいずの細さで統一。という手抜きのない細かな板の技に皆さん感心しきり。

 その味付け、塩味主体で、ほのかに醤油の風味。なんて、あの鍋肌垂らしの醤油の焼け焦げの下種な匂いなんかあなりません。
 あれ、そういえば、香港だと「雪菜」の微塵切りが入っていて、塩味、ヒネ味のアクセントありで、メリハリの利いた濃い目の味付けなのが目立って多くて一般的。なのにこの「鴨絲炆米粉/鴨肉入りビーフン」はすっきりとした軽い味付け。スルスルと口に入っちゃいます。けど、噛み締めるうち、だしの味、じわっと浮かび上がってくる、なんてところがプロの技。家庭ではこんな風には出来ません。

 そうだ「炒米粉」もいいけど、今度汁仕立ての「米粉」リクエストしよ。
 榨菜か雪菜、それに豚肉の細切りを具にした「榨菜肉絲米粉」。それとも潮州風味で「魚丸/魚蛋粉」とか「牛腩粉」、桂林風味で辛味仕立ての「酸辣米粉」や「滷菜米粉」なんかも、などといろいろと思い浮かびます。
 袁さん、楽しみにしてますから!

2010/03/02

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 そして「黒醋原隻腿/豚すね肉の黒醋煮込み」。
 どってり、ぼってり、大皿の上でぷるんぷるんと身を捩じらせながらたゆたう皮付き脛肉。
 そのボリューム、物量感、凄味、迫力はまさに圧巻。
 料理そのものが放つ芳香も圧倒的。火を通した酢に特徴的なまろやかな香りがあたり一面を覆いつくす。しかも、焦げ茶色した皮付きの脛肉のてらてらが、その濃密、濃厚な旨さを雄弁に物語る。おまけに大皿を埋め尽くして肉塊を取り囲むたっぷりの煮汁の深みのある色艶もまた見事。 「わー、すげえ!!!!!」
 「黒醋原隻腿/豚すね肉の黒醋煮込み」が大皿で運ばれて来た時には一斉に歓喜の声。
 どってり、ぼってりの皮付きのすね肉のこの料理、「黒醋原隻腿」ってことでしたが、もしかして別名「香醋元蹄?」。橋本さんからのメールによれば間違いないらしい。

 さて「元蹄」。豚の膝下、くるぶし辺りまでの肉塊で、前足と後ろ足では大きさが異なります。くるぶし辺りから下は豚足としてお馴染みのはず。それに比べ「脛肉」は日本の中国料理店、それ以前にスーパーや肉屋の店頭でも滅多におめにかかれない。「脛肉」の一般的な需要がないのが供給されない理由なんでしょうか。

 香港、広東地方はもとより、中国全土の市場で肉売り場に行けば必ずあります。上海周辺地域では醤油煮込みの「紅焼元蹄」が一般的で、代表的な郷土料理の一品に挙げられるぐらい。上海料理を看板にする店の定番的なメニューにもなってます。上海周辺だけでなく、北方、さらには香港/広東地方にも皮付きのすね肉を煮込んだ料理があります。

 「紅焼元蹄」がそれで、教えてくれたのはわが兄弟の周中師傳。周中によれば上海周辺のそれとは味付け、使う調味料が少々異なり、甘味も控え目なのがその特徴。それに「紅焼元蹄」、香港/広東地方では、除夜の日の晩餐、一年の締めくくり、年越しの宴の「団年飯」に欠かせないもの、なんてことでした。

 「団年飯」といえばわが知人の某家では干し鮑、魚の浮き袋や干しなまこなど、その夜(つまりは除夜)のためにとっておきの干貨素材をふんだんに使う、なんて話でしたが、周中によれば「それはお金持ちの家!一般の庶民は鶏を丸ごと一羽使った料理や脛肉の「元蹄」を使った料理で贅を凝らす」なんて話だそうで。

 さて、小ぶりの皿に分けられて登場した「黒醋原隻腿/豚すね肉の黒醋煮込み」。
 この画像がその旨さを物語ってます。皮付きの脛肉のてらてらがなんとも見事。それだけでもゴクンと生唾!
 唇に触れる滑らかな皮、とろりの触感が堪らない。噛み締めれば肉がほろりと崩れ、旨味が舌にどっしりと圧し掛かり、口中に広がります。しかも、こくがあるのにきれがいい、なんてビールのCMそのまんまの感じ。
 見かけは濃厚な味付けのよう。実際、旨味、たっぷり。火を通した黒醋のまろやかな酸味がこくと旨味を倍増。けれど、すっきりと爽やか、爽快な味わいなんですね。酸味だけでなく甘味がジンワリ浮かび上がる。明らかに豚の脂の甘味、旨味にフルーティな酸味。プラスアルファ、砂糖の甘味や、紹興酒の風味、酸味、苦味もじわじわと頭を覗かせる。とろとろの触感は豚の脂に加え、煮込まれて溶け出した皮のコラーゲン質によるのは明らかです。
 近頃「黒醋の酢豚」というのが話題ですが、この料理、それとは少しばかり趣きが異なります。私がこれまで食べた「黒醋の酢豚」。火を通した黒醋が醸し出すまろやかな味、風味、それこそバルサミコ酢に通じるこく、旨味たっぷり。ですが、同時に砂糖のベタ甘な感じが支配的、なんてのがほとんど。

 あの砂糖のベタ甘、なんとかならんもんだろかと「黒醋の酢豚」を食べるたびに後悔しきり。すっきり、爽やかな爽快感、なんでないの? それがこの「黒醋原隻腿/豚すね肉の黒醋煮込み」にはありました。
  「それにしてもどうやってこの料理、作ったんだろう!」と、会議は中断。しばし、料理談義と相成りました。
 「すねの部分を皮付きのまま丸ごと煮込んであるでしょ?豚の角切りの煮込みとは違う感じだね。皮付きの脛肉を切り分ければ同じみたいなんだけど、外側の皮の部分はつるんとした滑らかな感じで、内側の肉の部分はほろほろ。しかも、味がしっかり染み込んでるし」
 「皮付きばら肉の煮込みの「東坡肉」を作る時には、最初に茹でこぼして、あくをとってから蒸したりするんだけど。蒸すんじゃなくて、素揚げにするって方法もあるし、それから煮込むんじゃない?」
 「煮込むにしても、これ、黒酢、どんぐらい使ってるんだろ。黒醋を使ってるから、この酸味、まろやかさ、こく、旨味がでるわけでしょ?」
 「しかも、これ、ベタ甘のくどさがないじゃない。甘味もあるけど砂糖をふんだんに使ったベタ甘の感じじゃない。でも、砂糖を使ってんだろうな」
 「それよりも豚肉の皮とか皮裏のとろとろのコラーゲン質とか、豚肉の脂身の甘味、旨味がはっきりわかるし、それがこの料理の味わいところだね。それにボリュームたっぷりなのに、くいくい食べられちゃうでしょ?」
 「見るからにカロリーたっぷり。でも、この旨さを味わったら、そんなの気にしてられませんね!」
 なんてところでアテンドの山下さんを通じてキッチンの袁さんに尋ねてもらいました。
 「え~、すね肉10斤に対して「黒醋」を1・2リットル、「二湯」を6リットル。4時間かけて煮込んだものだそうです」との答え。
  「10斤ってことは6キロですね。で、「黒醋」が1・2リットルか。それに「二湯」を6リットルね。たっぷり使うんだ」とまあ、それぞれの分量と手間隙かけた調理にたまげた次第。
 後日、橋本さんに再確認。そしたら「まず、すね肉を揚げ、それから分量の調味料、「二湯」の他に、ざらめの砂糖、紹興酒などを加え煮込みます」とのことでした。ちなみに「黒醋」は浙江のもの、だそうです。
 なんとか皮付きのすね肉をゲットして、やってみよ!絶対にやってみせるゾ!

2010/03/01

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 続いて「子姜国産牛/和牛と新生姜の炒め」。

 実はここ最近、牛肉とは縁遠い。さしがたっぷり入った肥牛の脂が苦手、なのがその理由。とはいえ肉が食べたい、と思い立ったら北海道のボーンフリーファームの取り寄せか、もしくは駅前の川上精肉店/デリ川上で、脂のないところを吟味選択。ステーキ肉など頂戴した時には、どうやってさしの脂を落とすか!とその調理に思案します。
 なんてことで外では滅多に牛肉は食べませんが「赤坂璃宮」銀座店や福臨門などの広東料理店では意外な素材の組み合わせ、調味、調理展開で楽しませてくれるのが面白い。
 そうそう、香港でのことですが「中式牛柳」って、中国風ステーキ。料理名からすると「エ~!? ステーキ?中国風?」なんて話聞いただけで勘弁と思いません?
 ところがさにあらず、高級広東料理店で注文する現地の友人、知人がいて、そのおすそ分けに預かったことがありますが、これが意外にいけました。しかも和牛を使いながら、あのさしの独得の脂身の部分のクセ、ほとんど感じないぐらいに巧みに調理、というのにいたく感心。調味、調理が巧いんです。そんなわけで、広東料理店でたまにおまかせで登場すると「へ~、こいつはいいや!」なんてことがあります!
 この「子姜国産牛/和牛と新生姜の炒め」も料理名を目にした時には「牛肉?」といぶかしい思いから懐疑的。しかし「新生姜との炒めもの」!の「新生姜」にぴぴっ!と反応。もしかして?なんて期待に胸が膨らみ始めました。
 見かけは牛肉とたまねぎ、ねぎ、ピーマン、赤と黄色のパプリカの炒めもの。
 牛肉はうっすら衣で下拵えの跡あり。そんな牛肉の下拵えの衣の薄さ、火を通して牛肉を包み込むとろみつるんとろんの滑らかさ、その触感を生み出す衣の按配が意外に難しい。
 概して日本のフツーの中国料理店/中華料理店ではたっぷり厚めの衣で、で下拵えの味が濃厚すぎる。それからするとこの「子姜国産牛/和牛と新生姜の炒め」の牛肉、下拵えの証を物語る照り加減(天井の照明など、光の反射がそれを物語ります)、うっすら滑らか。口にすればつるんとろんの舌触り。
 そして新生姜。ひと齧りするとヒリ辛の突き刺す辛味。ですが、火が通ったせいか、いくらか和らでいます。おまけに爽やかで清々しい。そんな新生姜と牛肉、一緒に食べ合わせると、新生姜のほどほどのヒリ辛、爽快感が、牛肉の脂の甘味を抑制する効果あり。なんてことで絶妙のハーモニー、という訳です。
 牛肉と新生姜の組み合わせもグッド。ですが、これを食べながら、鶏肉と新生姜の炒め煮込みが食べたくなりました。袁さんにリクエストしてみましょ。
 そうそう新生姜といえば、香港の友人、知人たちのほとんどが寿司屋の「ガリ」が好み。ほらピータンに酢漬けの生姜を前菜に良く食べます。それは焼き物担当の高山さんにリクエストしなきゃ。

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の4

そして「陳皮蒸扇貝/ホタテ貝の陳皮蒸し」。 帆立貝を丸ごと一個、殻をかぱっと開いて蒸した料理はこれまで何度か登場。
 ですが今回はメニューにもある通り陳皮の細切りで蒸したもの。その下には生姜の千切りも。さらに帆立の下には春雨。

 香港の海鮮料理の店で貝柱といえばほとんどがタイラギ。料理名が「蒸帶子」じゃなくって「扇貝」とあるのは、そんなことに関係あるかも。香港で帆立貝を見かけるのは日本料理店でのこと。ですが、乾燥した貝柱の「瑶柱」は日本産の帆立貝のそれがほとんど、というのが面白いところです。

 陳皮はみかんの皮を干したもの。その陳皮で蒸したホタテ貝。陳皮特有の苦味と同時に、火を通せばくっきり浮かび上がるフルーティーな風味が印象的。そこに生姜のヒリ味が相まって、帆立の甘味、旨味を引き立てる。その帆立の火の通し方、蒸し加減が絶妙です。

 生の帆立の貝柱のねっとり感、純な磯の香、海味もいいですが、やっぱり火が入ってないと貝柱の甘味、旨味が浮き立たない。とはいえ、火が通り過ぎると身が固くなる。繊維をかみほぐすような感じになるのは勘弁。というあたりの火入れ、火の通し加減が難しい。

 火が通っていながら、ねっとりの触感、滑らかな舌ざわり、歯触り、噛み応えを残しつつ、繊維が立つか立たないぐらいの按配でほぐれていくのが私の好み。そんな感じの蒸し具合でした。貝柱そのもの海味はちょっと薄めな感じですが、陳皮、生姜の味、風味が貝柱の甘味、旨味を引き出すだけでなく、プラス・アルファの効果もあり。その相性は抜群です。

 おまけに、貝柱のひもが旨い。ことに肝、包丁が入って身をそらしながら、ぱっくりと開いてます。皮膜の張った表皮のあたりはぷるんとした歯触り、噛み応え。ですが、中の部分はねっとり、舌の上に旨味がのしかかる。なんてのか堪らない。

 蒸された貝柱のエキス、それに「塩梅」の良くって押し付けがましさのない醤油仕立てのたれ(もしかしてナンプラー入りの海鮮だれ?)のやわらかい塩味、切れのいい旨味を吸い込んだ春雨も旨い。

 日頃、殻つきの帆立をゲットすれば、開いて、バターを載っけ、シャンパンか白ワイン、日本酒などで風味付け。そういえば、貝柱の上に「ばふんうに」というのも絶妙でリッチな組み合わせ。仕上げにフレッシュな柑橘を絞ります。
 火を通せば干したひね味、ほろ苦さ、なおかつフルーティーな風味をもたらす「陳皮」は、フレッシュの柑橘、そのジュースの純で清廉な味、風味とは対照的により複雑で重層的になるってことを発見。
 「陳皮を使う手があったんだ!」と、開眼しました。

2010/02/28

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 続いて「山菜炒蝦仁/芝海老と山菜の炒め」。

 大皿でお披露目の後、小皿に取り分けられて登場の際「ご入用かと思ってお持ちしました」と柏木さん、小えび(アミ類など)の醗酵味噌の「蝦醤」をテーブルに用意してくれました。
 「海老の炒め物」に「蝦醤」は欠かせません。しかも、袁さんのように下拵えや調理、塩味はじめ調味料の加減、按配が控え目、という香港スタイルの料理には、ほんのちょっぴりの各種の「醤」が欠かせない。海老をはじめ海鮮の魚介類の油通しの「油泡」や炒め物には「蝦醤」や「蠔油/オイスターソース」がうってつけ。ことに海老と「蝦醤」の相性が抜群です。なんてことで、この種の料理があるとすぐさま「蝦醤」を頼みます。なんてこと、覚えててくれた柏木さんの心配りに感謝!
 海老の炒めものに「蝦醤」をちょっぴりつけて食べるのは初体験だったYさん。
 「おお!なるほど、こりゃいいわ。味が引き立つ。それより、このエビミソだけでもちびびちび舐めたくなりますね。旨いわ、これ!」と、すっかり病みつきの様子。
 「うんうん、わかります。ですけど「過ぎたるは~!」ですから、ほんのちびっとだけに抑えておくのがベスト!」と、止めを刺す私です。
 海老の炒め方、火の通り、甘味が立った味の旨さもさることながら、一緒に炒め合せた「うど」、「きくらげ」、「行者ニンニク」の触感、味、風味が面白い。
「うど」はほんのちょっぴりほろ苦い。
「これって、ほんと春の味、ですね!」と声が上がります。
「きくらげ」はぱりぱりの歯触り、噛み応えで、滋味深い味わい。
「行者ニンニク」は青さと辛味が入り混じった味、風味。噛み締めれば精の強さがじわじわと押し寄せてくる。
 その名、山籠もりして修行を行う修験者が食べていたことに由来するとかで、食べ過ぎると精がつき過ぎるなんてことから、食べることを禁じられていた、なんてのが面白い。
 ニンニク同様に強い匂いを放っているのがその特徴ですが、生食はともかく、火を通すと独得の風味をもたらします。
 ともあれ、春の到来を満喫した一品でした。

2010/02/26

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 スープは「芥菜肉片湯/からし菜と豚肉の蒸しスープ」。
 「お、嬉しい!」なんて思ったのは香港、広東地方ではごく一般的、惣菜的なシンプルこの上ないスープだからです。
 まず「芥菜/からし菜」ですがアブラナ科の一種で小芥菜と大芥菜があります。その種子からとるのが芥子、ってことからもわかるように独得の辛味があります。もっとも、日本では「芥菜」の変種で「大芥菜」が「高菜」として一般的。は日本で言う高菜。

 今回のスープに使われた「芥菜」は広東地方原種の「包心芥菜/結球高菜」。色鮮やかな緑の葉もさることながら、薄緑がかった根元の茎の部分(芥菜胆)の部分を様々に調理するのが香港、広東地方では一般的。これからが旬の時期を迎えます。

 そんな「芥菜」のもっとも簡単な料理方法が豚肉、それも脂身の少ない腿肉などの赤身肉の「痩肉」の薄切りと一緒にさっと煮てスープ仕立てにした「芥菜肉片湯」。誰にだって出来るお手軽なスープ料理です。とはいえ、袁さんの手になる「芥菜肉片湯」、やはりプロの技、一工夫がありました。

 「ね、このスープ、すごく美味しい!しっかり旨味があるのに、すっきりしていて、上品だし。これ、「鶏だし」で作るのかな?」
 「ン!?、そうかな。「鶏だし」独得のくせとか味がしないから。ほら、鶏丸ごと一羽使った鶏だしだと、皮の部分から脂もでるし、コラーゲン質とかも一緒に煮出されるでしょ。そういう感じじゃないよね。
 それに、ここ(「赤坂璃宮」)とか福臨門とかホテルの高級店だと鶏は丸ごと一羽使って、豚の赤身肉や火腿で「上湯」をとるけど、日本の中華料理のだしって、一般的には鶏がら主体の「毛湯」を作ってから、鶏や豚の挽き肉を加えて澄んだ旨味のある「清湯」を採ることが多いから。 それからすると、このだし、旨味はあってもクセがないし、ほのかにフルーティーな酸味がするから、豚の赤身肉の「痩肉」で採っただしか、もしくは二番だしの「二湯」じゃないのかな?」と知ったかぶりの私です。

 そのあたり、聞きそびれてました。そしたら橋本さんから連絡あり。
 「スープは蒸しスープと言うよりは沸かしスープが良いと思います。漢字表記は滾湯です。10分程強火で煮ます。素材等につきましては、肉片・芥菜・咸蛋・二湯・塩・生姜です」とのこと。

 そうか「二湯」を使った「滾湯」だったのですね。
 それにしても具材を鍋に入れ、「滾湯」ってことですから、ぐらぐらの感じで煮立てたスープだと、ざらっとした触感になりますが、滑らかで、きめ細かな舌触り。おまけに雑味なしでクセやくどさがなく、すっきりとした味わいと口当たり。「上湯」だけじゃなくって「二湯」も上質、かなりのもの、なんてことがわかります。

 なんて話をしながら、れんげで掬ったスープに塩漬け玉子の「鹹蛋」の黄味!
 「おおこれは「鹹蛋」の黄味。
 ということはこの料理「鹹蛋芥菜肉片湯」だ!

 「鹹蛋」入りの「芥菜肉片湯」と言うのがいかにも香港/広東ローカル、地元ならではの味です。
 塩味の効いた「鹹蛋」の黄味は、ほっくり、ねっとり。旨味濃厚です。
 「これもこのスープの味の決め手のひとつになってたんだ!」と納得しました。

2010/02/25

春節~春到来 10年2月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 農歴(旧暦)の新年、春節は過ぎましたが、農歴ではまだまだ正月、松の内。昨年には小正月にあたる「元宵祭」に欠かせない「盆菜」の登場に驚きました。そして、今月の「赤坂璃宮」銀座店での会議、春節間近の日でのことでしたから年越しの料理なども登場。
 まずは「広東焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。

 右から鶏の肝と豚脂の焼き物の「金銭鶏肝」。その下が珍しく豚の舌、付け根あたりの部位の寄せ物。煮凝り状になっていて、その形態、それに味付け、風味は牛脛の「五香醤牛展」に似ています。中国名は聞きそびれましたが、その味、風味からするともしかして「五香醤豬脷」?
 舌の脂分の甘味、旨味を醤油が引き締めている感じ。こくのあるしっかりした味付けで、ガツンとくる旨さが印象的。
 「この舌、旨~い!ビールが欲しい!」なんて声も上がります。

 鶏肉二切れは紹興酒漬けの「酔鶏」。紹興酒だぶだぶの感じじゃなく、食べて、噛み締めて、ほんのり、うっすら紹興酒の味、風味が浮かび上がる。なんてあたりが素晴らしい。上品で洗練された調理です。そしてお馴染み皮付き豚ばら肉の焼き物「焼肉」。

 野菜は人参。春らしく菜の花。菜の花のほろ苦さとごま油の甘味、こく、風味とのマッチングが面白い。それからトマトの甘酢漬け。
 「これ、家で試してみたけど、こんな風に上手く出来ない!」なんて声が上がる評判の品。今度レシピを尋ねておくことにします。
 そしてぱりぽりの歯触りが快感を覚える「海蜇」。

 がつんとくる旨さの舌の寄せ物の冷製。上品で洗練された「酔鶏」。それに酢漬けのトマト。久々に前菜の話題で盛り上がりました。

 追記  支配人の橋本さんから連絡あり!訂正です。舌の寄せ物の冷製は「豚」じゃなくって「牛」の舌。料理名は「紅米谷炆牛脷」。「紅米谷」というのは糯米の一種の「赤米」で、牛の煮込みの色づけに使う、なんてのは青山「エッセンス」の藪崎友宏さんのサイトにありました。

2010/02/16

久々に西新宿の「山珍居」へ

 旧聞に属する話です。先月、毎年恒例のとある新年会。ここ数年はビッフェ・ディナーでしたが、今年はいつもと趣向を変えて円卓囲んで中華、ということになりました。とはいえコース仕立ての宴会料理じゃつまらない。そこで思いついたのが「鍋」。

 以前、一度きりですが中華風仕立てのしゃぶしゃぶ鍋、ということで海鮮鍋、肉類鍋の2種の鍋を用意し、それぞれお好きな鍋というビュッフェ・スタイルの鍋をやったことがあります。
 「私は海鮮!」、「僕は肉!」とひとつの鍋にかかりっきりの人もいれば、2種の鍋を行ったり来たりという人もいる。人それぞれ、好み色々、千差万別。2種の鍋に皆さん満足。ですが鍋だけではやはり物足りない、というのが参加した人の意見。そうです、鍋って、つけたれや締めの面、ご飯に工夫がなきゃ、同じ味が続く訳で、最後は飽きちゃいますから。

 そんな経緯もあって今回はどんな鍋にするか。流行物なら半分は澄まし仕立て(清湯)で、半分はどっさりの唐辛子が入りでスープが真っ赤の辛味仕立てで「鴛鴦」(もしくは「太極」)火鍋。ことに最近は四川系の店の極辛痺れ仕立て「麻辣火鍋」が大人気。ですが、メンバーの中には辛い鍋は苦手、なんて人もいる。

 中華風のしゃぶしゃぶならやはり「仔羊」か「羊」の「涮羊肉」。ですが「羊」はさすがに(肉じゃなくて脂の)クセが強すぎて「ちょっと勘弁!」。ですけど「ジンギスカン鍋ならOKよ!」なんて人もいて、一体どういうこと?  ともあれ、仔羊肉のしゃぶしゃぶなら神田の龍水樓ですが、20時半までに宴会が終わらなきゃいけない、という時間制限が枷になる。

 そうだ!と思い出したのが西新宿の「山珍居」。「(台湾式)火鍋」があったことを思い出しました。
 「台湾料理」といえば腸詰の「香腸(煙腸)」、蜆の醤油漬けやにんにく炒め、粽にビーフンの各種の料理などが知られてます。最近になってそぼろ肉煮込みかけご飯の「魯肉飯」や「(台南)坦仔面」なども紹介されるようになりましたが、ほとんどの店、日本人好み、日本に親しまれた幅広い各種の中国料理/中華料理もメニューに並べたミクスド・チャイニーズ。しかも小皿で提供なんてのが看板のようで。

 もっとも、台湾に旅してみれば明らかなように、台湾の大衆食堂や夜店の屋台でみかける小吃の類からするとその数は少なく、おまけに、現地風の味、風味のものには滅多に出会えない。調理と味付けだけが強調されていて、風味、香りに乏しいのがほとんど。それに本省人系ということでは、福建、客家系をルーツにする料理が本筋のはずですが、なかなかみかけない。

 そういえば一時、新宿の歌舞伎町におもしろい台湾料理の店を見つけましたが、近寄り難い事件が起きたりいろいろあって疎遠になりました。そうだ随分前、東銀座にもしばし通った店がありましたっけ。高橋健太郎の話によれば横浜にいい店あるそうです。それとは違う店があるってことも、他の情報で仕入れました。

 ともあれ、そんな中で西新宿の「山珍居」は稀なる店。異色の店といえるかも。かつて台湾に渡来した福建人の料理をルーツに、台湾の風土、土壌を反映して形成された郷土料理に出会えます。それも、共産党との戦いに敗れて本土から台湾に逃れ、台湾省を中華民国の本拠とした本土からの外省人が持ち込んだ中国各地の地方菜とは一線を画するものです。かつて清国が日本に割譲し、日本の統治下となった(第二次世界大戦)前後の台湾の郷土料理を継承、というのが面白いところです。

 創業は戦後の昭和22年。店の佇まい、店内の趣きからして、昔懐かしい中華料理店のそれ。昭和の名残をとどめてます。多くの文化人に愛されてきた証は店内に掲げられた色紙の数々が物語る。私は長谷川伸の短冊の一筆に目が釘付け。
昭和の名残りが「山珍居」にありました!

2010/02/14

恭喜發財!

 本日は農歴(旧暦)の1月1日。春節を迎えました。
 毎年、新年が明けてからこの春節の日頃まで正月気分。
 昔、旧暦にちなんでか1月の15日は小正月。松の内はそれまでのつもりでしたが、東京にやってきて、こっちでは7日あたりで松の内は明けちゃう、なんてことを知りました。

 ちなみに農歴にも小正月にあたる「元宵節」があります。春節から15日目、最初の満月を迎える日、その日がすぎればお正月が明けます。
 春節にちなんで除夜の日に「年糕」作りをと思いましたが、今年は餃子を作りました。
 嬉しいことにさる方から「ひがしや」の旬のお菓子を頂戴。
 おいしいお茶を飲みながら、今宵、ゆっくり賞味いたします。

2010/02/04

節分~丸かぶり寿司

 節分です。恒例の丸かぶり寿司、今年も作りました。

 うちのかみさんTVの某「ハナマル~」でどこかの寿司屋の御主人の「丸かぶり寿司は七福神に由来したもんですから具材は七種~」なんて話に吃驚仰天。
 あのうそれってどこの「丸かぶり寿司」?
 「丸かぶり寿司」って、その具、玉子以外は精進ものというのが昔からの慣わしなんですが。
さて、これから豆まきです!


2010/02/01

「なんちゃって白玉粉」繁盛記

  「ねえ、今晩何にする?シャモ肉の切り身を戻して治部煮にしょうかと思ったら、生姜を切らしてるのよ。それから、冷凍のあさり、賞味期限が切れてるんだけど!」
 
 ボブ・ディランの『モダーン・タイムズ』に耳を傾けながら「シンガー=ソング・ライターとしてのボブ・ディラン」なんてテーマを抱えて構想中に携帯に電話あり。
 「え!? う~ん、生姜がない?なら、焼き鶏、塩焼きにすれば?
 あさり?う~ん、おつゆにすれば? 味噌汁は食べたくない。やです。
 あ、そうだ、あさりのチゲ!豆腐あったっけ?ない?そうか、ちょっと考える!」
 とまあ「シンガー=ソング・ライターとしてのボブ・ディラン」どころの話じゃない。

 ふと思いついたのは「トック」。韓国式お餅の「トック」。
 「大根餅」を作るために水に浸して、乾燥させておいた「糯米」の残り。カップ2杯ほどある。
 フード・プロセッサーのスライサーにかけて「なんちゃって白玉粉」にして「白玉」にしてお汁粉でも、という心積もりでしたが、急遽、予定変更。

 「トック」にしてあさり汁仕立ての「トックチゲ(なんてあるんでしょうか、韓国に)」か、なんなら「トッポギ」にすればいい!と、思い立った次第。そうです、豆腐の代わりに「トック」。
 早速、乾燥させた「糯米」、スライサーにかけて「なんちゃって白玉粉」作り。2日間乾燥させただけあって水っ気ほどんどなし、「なんちゃって白玉粉」どころか粗目の「白玉粉」。それを水で溶いて「トック」作り。
 
 ところが、かみさん、水加減、テキトーにやったもんで、ユルユル状態。
 「どうしよう?」
 「小麦粉を足すか?」
 「冷蔵庫に残ってる粉、なんかない?豆の粉とかあるはずだけど、北京で買ってきたのが」
 「うん?ちょっとまって。あ、これ、もうダメ。無駄にしちゃったね。でも「浮き粉」がある!」
 「それ入れちゃお!」

 なんてことで残ってた「浮き粉」を追加。小麦粉の澱粉ですから、いい感じになるかも。
 「なんちゃって白玉粉」と「浮き粉」を水で溶いてこねて棒状にしてのち、輪切りにして熱湯にほうりこめば「なんちゃってトック」の出来上がり。
 ここんとこ「なんちゃって!」続きです。

 「なんちゃってトック」が出来上がったところで、チゲもどきトッポギの開始。
 これまた「なんちゃってトックチゲ」、「なんちゃってトッポギ」。
 東京ねぎ、白ねぎです、端っこについた緑の部分、裏側とろとろ。そのとろ味こそが旨味を生む。なんてことで、緑の部分、細切りに切り刻んでふんだんに使います。

 鍋に胡麻油を適宜。塩漬けの豚のばら肉を微塵切りにして放り込み、せっせとねぎの緑の部分をいためます。本来は大蒜の芯を取り、微塵切りにしてくわえますけど、今日はパス。ねぎがくったりしたら、韓国産の中辛の唐辛子の粗いのを大匙で2杯ほど放り込み、だしを加える。ほんとは牛筋を煮込んだ時にでるだしがいいんですが、今日はないんで煮干、干し魚で作った雑味だし。さらに水を加えて煮詰めます。

 そこに「トック」を放り込み、しばらく煮込んで「あさり」を放り込む。
 あさりの口が開いたら火をとめる。
 味を見たら、なんか足りない。
 とりあえず、味を整えるために「あさり」は別皿に取り出します。

 「う~ん、韓国なら「アミの塩辛」加えそうだから、蝦膠を少々入れるか!」
 「蝦膠」は「蝦醤」の一種、アミの塩辛のようなもので、固形状。
 塩味と醗酵味を加えるつもりで「蝦膠」です。けど、分量は控え目。
 そして「あさり」を戻して出来上がり!
「すっごく美味しい。旨味がしっかり出てるし、味が結構、複雑。いい香りだし、風味があるのねえ」
「塩漬けの豚でしょ?それに「蝦膠」を足したし、醗酵したひね味、利いてるね。でも、こういう料理ってやっぱり「だし」が肝心だね。けど、これだと昆布とかつおぶしでひいた「だし」じゃなくって、アゴとかじゃことか、干し魚でひいた「だし」がぴったりみたい」

「でも、一番美味しいのは「白玉!」
「「なんちゃってトック」、ね!」
 フード・プロセッサーで作る「なんちゃって白玉粉」。
 こんなに活用範囲が広いとは!
 加藤紀行さんの「糯米」に感謝です!

大根餅格闘記

 宅配で届いた大根。優に2・5キロはありそうなぐらい太くて、でっかくて、長い。ところが半分に切り分けたところ、やけに水っぽいところもあれば「鬆(す)」が入ってるところもある。
 「煮物には向いてないみたいだし、大根餅(蘿蔔糕)にしない?」とうちのかみさん。
 「そうすれば!」と相槌を打ったら「え~!? 私が?締め切り抱えて制作で忙しいからだめ!作ってよ!」なんて言われて、不承不承、私が調理を担当。

 ですが「大根餅」、なんだかんだで手間がかかるし、時間もかかる。レシピは私が信頼する香港のミセス欧陽の「中国名菜・飲茶」をもとに、少々アレンジ。「蘿蔔糕」のところを見ると、素材に「米の粉」。別のレシピだと「白玉粉」でもOK。

 「上新粉、あったっけ?でなきゃ、白玉粉で作るか。にしても、ねえねえ、白玉粉あったけ?」と言いながら「待てよ、白玉粉って「糯米」から作るんじゃなかったけ?」
 そうです、我が家には埼玉の東松山の加藤紀行さんから届いた「糯米(餅米)」が常備してある。

 ちなみに、上海蟹の時期の頃、日本の福臨門の各店で出る「糯米飯」は加藤さんの「糯米」を使ったもの。福臨門御用達ってわけで、上質で、なによりも旨くって風味がある。なんてことより、この時期、加藤さんの「糯米」が我が家では欠かせない。香港土産の「臘腸」、「潤腸」とともに腸詰の炊き込みご飯にしたり、「糯米」の炒飯の「生炒糯米飯」にしたり、おこわ飯にしたり、粳米と一緒に炊いたりもします。
 それで「白玉粉」、ほんとは石臼で挽いて作るのが一番。しかも、水洗いして、水に漬けること一昼夜。それから、水とともに石臼で挽き、出来上がった乳液状のものを濾し、圧縮脱水して天日乾燥、というのが本来のプロセス。

 けど、まず我が家には石臼がない。それに、圧縮脱水やら天日乾燥なんて気の遠くなるような面倒な話。そこんとこ、なんとかお手軽にできないものか。そしたらミキサーで「白玉粉」なんてのを検索で見つけ「なら、もしかしてフード・プロセッサーで可能かも!」と思いついた次第。

 フード・プロセッサー、我が家にありながら、なんでこれまでそんな風にして「白玉粉」を作る方法に気づかなかったのかと反省。もっとも、いきなり「糯米」をフープロにというわけにはいかない。まず「糯米」を水洗いし、一昼夜、水につけてふやかします。それから水切りし、乾燥させてから、新たに水を加えながら「糯米」を挽く、というのが本来のやり方。 ですが、「水気があるうちにフープロにかけちゃったほうが、フープロの難点、熱を持ったりするのを防げるかも!」と、手前勝手な都合のいい解釈。

 ところが、フープロのスライサーにかけましたがやっぱり水気を含んでる。で、晒に取って水を搾り出す。これが難行。思いがけず、というか当然なんですが、手間隙かかりました。ということで「なんちゃって「白玉粉」」が一応は出来上がり。

 ちなみに、分量外、残った「なんちゃって白玉粉」を、こねて、鍋で煮て出来上がった白玉、挽きがたりなくてざらとした感触は残ってるものの、市販の白玉粉なんかよか格別に旨い。なんてことで、フープロでの「なんちゃって白玉粉」作りにはまりそう。

 さて、「なんちゃって白玉粉」が出来たところで次なる作業が待ち構えている。
 まず、3時間ほどかけて戻しておいた干し椎茸、干しえび、腸詰、ベーコン代わりの塩漬けの豚バラ肉を、ずべて5ミリ角ほどの粗微塵に。これまた根気の要る作業です。
 中でも腸詰を粗微塵にするのがちょいと面倒で厄介。「生炒糯米飯」を作る時にもこの具材を切り刻む作業があるんですが、適当にやっつけ、手抜きすると料理の出来栄えに大きく影響するもんで、念入りに。時間、結構どころか、かなり食われる作業です。

 それから大根。2キロ全部、糸状におろす!なんてやってられない。
 けど、大根は糸状におろした方が旨いのに決まってる。しかし、今回の大根、すでに難ありですから、加藤さんの糯米で作った「なんちゃって白玉粉」と、具材と味付けに命をかけて、大根の処理はお手軽に。なんてことでフープロのシュレッダーで手抜き処理。ですが、これまたやってみると大変な量。ボウル一杯に山盛り状態。それが、どんどん水が出てくる。その水を捨てても、やっとボウル一杯分ぐらいになりました。

 次いで、油を3匙ほど流しこんだ鍋の中に、シュレッダーをかけた大根、放り込んで煮ます。最初は大根からの水分がどんどん出てって、煮る!状態。そのうち、水が次第になくなって、鍋底の大根が焦げ付く感じになる。それを防ぐにはしゃもじでせっせと炒め合わせるしかない。しかも、狐色になるまで、とレシピにある。それが時間のかかること、時間のかかること。40分くらい、かかりっきり、だったでしょうか。
 
 さて、炒めた大根に粗微塵に切り刻んだ具材を混ぜ合わせ、さらに絞って絞ってもなお水気の残った「なんちゃって白玉粉」を加える。そこで味付け。油、塩、で調味するんですが、その辺は、レシピを参考にしながら、按配見計らい、分量は控え目に。それを容器に入れて、蒸す作業と相成るわけです。
 
 蒸し時間、レシピの指示は何と1時間半!さすがに1時間半、鍋の側で付き合ってなんかいられない。けど、途中、蒸し器の水が足りなくならないように水足しなんかもするわけです。幸いにして、読まなきゃいけない本や聞かなきゃいけないCDがあったんで、蒸し上がるまで鍋の側でお付き合い。そういや、こないだは、豚のリエットを作るのに、ぐつぐつ弱火で蒸し煮、2時間鍋の側でお付き合いなんてのもやったっけ。

 途中「そうだ!「大根餅」が蒸し上がるまでの時間に、水に漬けた分量外の「糯米」や、分量外の残った具材を使って「臘味蒸糯米」、おこわ飯を作っちゃえ!」と、急遽、思い立ちました。なんせ「中華風蒸しおこわ」を作るのにも蒸し時間、40分程かかりますから、作業併行も可能です。

 ところが、おこわが出来上がったというのに、肝心の「大根餅」はまだ蒸しあがらない!
 おこわ食べ食べ(これが抜群に旨かった!おこわはしっかり蒸すのに限ります)、鍋の側で面倒を見続けます!
 蒸し上がったのは深夜の3時。
 ふ~、やれやれ!と大きなため息。

 一体、蒸し上がるまでにどんくらいの時間と労力を費やしたことか。
 しかも「大根餅」、蒸し上がったあとで、熱をとってから冷蔵庫に入れて、冷やして固める作業がある。

 もっとも、冬場ですから、一晩、台所に放置して冷ます事でOkなんて勝手に解釈。案の定、うまくいきました。
 
 本日、出来上がった「腊味蘿蔔糕/大根餅」を食べました。
 美味でした。旨かった。風味がありました。苦労した甲斐がありました。
 自画自賛と思われるかもしれませんけど、ほんとに上出来!

 「私が作るより上手いじゃない!今度から「大根餅」の担当に決まり、ね!」と(容赦のない誉め)言葉を貰ったりして!